ろーく
初めて顔を合わせた瞬間──。
マリアがロキの疲労感を感じ取っていたように……ロキの方も同じように、彼女の苦労を感じ取っていた。
(…………あ。苦労人の気配)
後ろでまとめられた白髪に珍しい黄金の瞳。今日はそこまで寒くないというのに青白い肌。かなり細い身体を包み込んだ露出が一切ない白い質素なドレス。
一目見て健康状態が悪いのが分かった。じゃなきゃ若いのに頬が欠け気味だったりしないだろう。
こんなにも弱り切っている様子だったからだろうか? 基本的に初対面の相手は疑ってかかるタイプの自分であるというのに、彼女のことは最初っから警戒する気にはなれなかった。
それに……。
(なんか、こいつの周りの空気が綺麗な気がする?)
本当になんとなくだが。彼女の纏う空気はとても清らかで……周りの空気すらも浄化しているような感じがした。それがなんだか、とても、居心地が良くて。ついつい、側にいたいなんて思わせてくる。
そんな風に思う理由は、その後直ぐに分かった。
だって彼女は──……。
(マリア……この方は、エキセア王国の聖女マリアか)
先ほど見た……ロキでも簡単に打ち破れそうになさそうな結界に、魔力を回復させるという普通の治癒師なら出来やしない高度な治癒魔法。ここが隣国エキセアと国境に接する地であることに、この国の人間ならば絶対に知っているはずの《魔王》の情報を知らないということ。最後の締めに聖女と同じ名前だ。これだけ情報が出揃っているのに、確信するなといういう方が無理だろう。
(確か……隣国聖女の婚約者は王太子だったか? 王太子が幼馴染である公爵令嬢に恋情を抱いているのは〝ここだけの話〟だったはず……。……ってことは、痴情の縺れでマリィは婚約破棄された? いや、身に覚えがない罪で断罪されたってことは、何かしらの陰謀が? ……こりゃあ後で調査した方がいいな……)
ロキは王都に戻ってからやらなければならないことを考えながら、マリアとの会話を続ける。
(何はともあれ……隣国の聖女であったことをマリィは隠したいみたいだな。だが、彼女が聖女だと分かった以上、放置もできないし………………あ、そうだ)
そんな最中──ふと、ロキはある案を思いついた。
それはマリアを甥っ子──ホープの子守役として、雇ってしまうことだった。
(子守として俺が雇えば、マリィはこの国で暮らすことになる訳だし。ホープも彼女にはよく懐いてるから……マリィが子守役をやってくれれば、一石二鳥。いや、聖女の護衛も楽になるし、ホープが怪我するようなことがあれば治してもらえるようにもなっから、三鳥か四鳥ぐらいになるか?)
そう考えれば悪くない案である気がした。
勿論、一番大事なのは……ホープが健やかに育つことだが。
聖女なんて重要人物を、見逃す訳には職業柄できそうにないのだ。
(一応、彼女のことは仕事場に連絡入れとくか……)
きっとロキという〝特殊な立場〟にいる騎士に出会った時点で……マリアがこの国に囲い込まれることは、決まった未来だったのかもしれない。
かくして……マリアが知らぬ内に、静かに事が動き始めたのだった。




