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じゅーに

 




 セヴェール王国の王都中央にある王城に入ったマリア達は……王都敷地内の裏側にある屋敷に辿り着いていた。



「凄いですね……」


 白と同じように真っ白な壁に、青い屋根。中心には冤罪の両開き扉が付いており……右手側にはコンサバトリーも付いていて、外から観葉植物が沢山置かれているのが見てとれた。


「本当、凄いよな。俺の部屋が溶けたって知ってるはずなのに、こんな屋敷貸し出しちゃうんだから……太っ腹も過ぎるとビビるよなぁ」

「あ、一応ロキも驚いてはいたんですね??」

「俺をなんだと思ってる?? 流石の俺もこんな高そうな屋敷貸し出されたらビビるわ。根っからの庶民だから、本当に身の丈に合わないっていうか……。できればもっと生活しやすいとこを借りたかったんだけど……。言い包められて断れんかったんだよ……」


 なんて会話をしながら、屋敷の中に入る。

 王城敷地内にある屋敷なだけあって、内装も凄かった。

 玄関中央には二階に続く階段が設置されており……中央にある扉──食堂──を挟んで左右に階段が分かれていた。一階右側が先ほど見たコンサバトリーと応接室があって、一階左側はキッチンやリネン室などがあるらしい。寝室などは二階になるそうだ。


「ただ、二階の寝室は左の一番手前しか使ってなかったから……マリィの部屋を準備するには少し時間もらうわ」

「? 別に宿屋でも同室だったんですから……同じ部屋で構いませんけど? それなら準備の必要はありませんよね?」


 旅の間は節約から、部屋は一部屋しか借りなかった。

 ホープがマリア達と共に寝るのだと駄々を捏ねたのもある。そういう訳で旅の間、マリア達は川の字で寝ていた。

 だから別に、この屋敷に着いたからとわざわざ部屋を分ける意味が分からない。そうマリアがロキに言うと……彼は視線をあっちこっちに彷徨わせながら、問いかける。


「いや……あのさ? 一応、男女な訳ですよ。旅の間はまぁ、色々と理由があったけど。今は別に落ち着ける場所なんだから一緒に寝る必要は──」

「やっ! まま、ぱぱ! いっしょ!」

「「…………」」


 ふんすっ! ……そんな音が聞こえてきそうなぐらいに頬を膨らませたホープが、別々に寝るのは嫌だと訴えかけてくる。

 マリアは彼の膨れた頬を突っつきながら、ロキに告げる。


「ホープもこう言ってますし……これからも共に寝るのでいいのでは?」

「…………え〜……? マリィの体裁を思って言ったのに……?」


 エキセアだってセヴェールだって、女性の貞操深さは重視されるものだ。平民ならばそこまで厳しくはないが……それでも。ふしだらな女性というレッテルが貼られてしまったら婚姻などに、大なり小なり支障が出るのに間違いはない。

 だが、忘れてはならない。


「私は身に覚えのない不貞で断罪された女ですよ」

「冤罪じゃん……」

「冤罪ですけど。もう既にふしだらな女だと思われてますから。ロキと共寝をするぐらいどうってことありません」

「…………」


 ロキはここまで言うマリアに溜息を溢す。何を言っても無駄だと悟ったからだ。

 とはいえ、これだけは言っておく。


「……俺らと一緒に寝るのが嫌になったりしたら、直ぐに言ってくれよ? これからマリィには子守役としてかなりの負担がかかるんだから……無理だけはさせたくない」

「(そうやって配慮をしてくれるだけで充分なんですけどね……)はい、分かりました」


 マリアのことを思って、こうやって配慮してくれるだけで。もう充分、彼らは自分に無理をさせないようにしてくれていると思った。

 だって彼女がいた神殿にいた神官達とは比べ物にならないぐらいに優しい。見下さないし、罵倒してこないし。無理に魔法を行使させないし。食事を抜いたり、折檻をしたりもしない。

 小さい子供と戯れて、彼の保護者に気を遣ってもらう……。なんて天国のような環境なのだろうか? そう思わずにはいられない。


「…………よし。それじゃあ俺はそろそろ貸馬屋に客室はこを返してくるか。ついでに騎士団長のとこに顔も出してこなきゃか……。あ、でもその前に……飲みモンぐらいは用意してくか。マリィ、使い方教える」


 ロキに促されて、キッチンに向かう。

 かなり大きめのキッチンではあるが、マリアは普通を知らないためこんなものかと特に気にせずに水道の方に向かう。

 ロキが水道の近くに棚から取り出したヤカンと小さなポット、マグカップを置いた。そして、説明しながら洗い始める。


「これが食器用石鹸な。その布に擦り付けて泡立てる。んで、食器を洗う。ここの魔石に魔力を流すと水が出るから……流して、こっちの乾燥棚に置く。ついでにヤカンに水を入れて……もう一度魔石に魔力を流すと水が止まる。ここまでで分からないことは?」

「ありません」

「よし。次はこっち。コンロについてる魔石に魔力を通すと火がつく。んでヤカンを乗せて……その内、中の水がお湯になったらピーッて鳴るから。そしたら、火を止めてお茶を注ぐ。なお、火傷すっと危ないから……マリィもホープも気をつけるように」

「はい」

「うっ!」

「今回は時短で俺の魔法を使うぞ」


 ──ボンッ!!

 ロキの指先から炎が現れ、ヤカンの下に当たると一瞬で通過口から〝ピーッ!〟という音が鳴った。

 それからまた、別の棚に並んでいた丸い筒の入れ物を手に取る。


「最後に茶を淹れるぞ。茶っぱはこれ。ポットの中に二杯ぐらい入れて……お湯を入れる。数分蒸らしてマグカップに入れるのが本来の入れ方らしいが……俺もホープもうっっすいのが好きなんだよなぁ。だから、直ぐにマグカップに入れちまう。……マリィはどうする?」

「あ、私も薄めで……。元々、味が濃い料理を食べさせてもらってなかったので……。旅の間も少しキツかったんですよね」

「おいこら、そういう大事なことは先に言っとけ?? 生活において食事は超大事なんだからな。……まぁ、分かった。なら、今後のマリィの食事も俺らと同じで薄味気味にしとくな。……実は俺らも旅の間は少しキツかった。まぁ、食えるだけ有難いから、文句は言わなかったけど」


 苦笑するロキに、マリアも苦笑を返す。

 彼女も同じで、食べれるだけ有難い話なので何も言わなかったが──一度ひもじい思いを経験しているため、文句なんて言えるはずがない──……まさか、ロキ達も薄味派だったとは。こんなところに共通点があったなんて、ちょっぴり嬉しくなる。


「……ってな感じで。茶の淹れ方はこんな感じだ。飯は基本、俺が準備するつもりだが……もし料理を覚えたいってんなら、教えるぜ。男の料理ばっかりだけど」

「……あ。その……」

「教えてもらうのは迷惑なんじゃ……とか考えなくていいから。その内、俺は嫌でも仕事復帰しなくちゃいけなくなるからさ。料理を覚えてもらうのはマリィの負担が増えるけど……俺が仕事で帰れない時とか準備して食えるじゃん? ホープは小さいから早く食べさせて寝かせてやった方が成長にいいだろうし」


 確かに、ホープのことを考えたらマリアが料理を覚えるのも良い案だろう。


「……では、後で教えてください。ロキ」

「りょーかい。……と、いけね。本当にそろそろいかないと駄目だな。着いて早々で悪いんだが……留守番、頼めるか?」

「はい」

「う!」

「よし。王城敷地内だからそう変な奴はやってこないと思うが……気をつけるには越したことはない。俺が出たら直ぐに鍵を閉めるように。いいな?」


 ロキはキッチンを出ると、一番左の部屋に入って鍵を手に戻ってくる。どれくらいで帰ってこれるか分からないため──それだけ騎士団長が怒っている可能性が高いらしい──……一応、持っていくのだとか。


「もし夜までに帰ってこれなかったら……悪いんだが旅袋に入ってる保存食を食って乗り越えてくれ。風呂は宿屋でも使い方教えたから大丈夫だよな? ここもおんなじで、部屋ごとに浴室がついてっから」

「はい、大丈夫です」

「…………後で連絡用の魔石買ってくるわ。何かあった時に連絡できるように」

「あ、一応その方がいいですね。ホープに何かあった時、困りますもの」

「マリィに何かあった時にも使うんだからな??」

「…………」


 本当、本人は何気なく言っているのだろうけれど。どうして一々マリアが嬉しくなるようなことを言ってくれるのだろうか……。なんか少し、狡いと思ってしまう。


「さて、ホープ。マリィとお留守番よろしくな」

「あい!」

「良い返事。それじゃあ、ホープ、マリィ。行ってきます」

「行ってらっしゃいませ」

「にゃいにゃい!」


 最後の最後で可愛いホープの見送りに崩れ落ちそうになりながらも……ロキは屋敷を後にした。

 マリアは言われた通りに直ぐに鍵をかける。旅の間、何度か別行動をしたことはあったが……何時まで、というのが分からない別行動は初めてだ。

 …………案外、自分は彼を頼りにしていたらしい。彼の姿が見えなくなっただけで、ほんの少しだけ不安が芽生える。

 だが、そんなマリアの手を掴む……小さな手があった。


「…………ホープ?」

「う!」


 隣にいたホープが手を握りながら、〝僕がいるよ!〟と言わんばかりに笑う。

 そんな幼子の姿に、マリアの不安は霧散する。


「ホープは頼りになりますね」

「う!」

「それじゃあホープ……まずはゆっくりとお茶を飲んで休憩をしましょうか。その後のことはまたその時に考えるということで」

「にゃー!」


 猫みたいな返事を返すホープにほんわかしながら……マグカップを置いたままのキッチンに二人は戻る。

 ロキがいつ戻ってくるのかは分からないけれど……この子と一緒なら、きっと大丈夫だろうと。そう強く思うマリアなのであった。





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