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じゅー

 




 あの後は表立って差別的な反応を示す街はなく……街に宿泊をしながら、王都へと辿り着いた。

 なお、旅の資金は懸賞金でなんとかなった。閑話休題。



「わ、わぁ……」


 王都を丸っと囲む外壁。周りには深い堀が掘られており、たっぷりの水で満たされている。堀を渡るための大橋は馬車がすれ違っても余裕があるほどに幅広く。その先には見上げるほどの大門……。

 王都に入るための大行列の並びながら──やっぱりここでもスレイはやけに目立っていた──……御者席に座ったマリアはぽかんと口を開けて王都の大きさに驚いていた。


「マリィ、マリィ。口が開いてるぞ」

「ハッ……失礼。驚き過ぎました……」

「いい反応ではあるけどな。お上りさんっぽくて」

「う!」


 隣に座るロキだけではなく。彼の膝の上にいるホープにも温い目で見られてる気がして、マリアは頬をじんわりと赤くした。

 にしても、だ……。


「あんまり進みませんね……王都に入る列」

「こればっかりはな〜仕方ない訳よ。なんせこの国の王族が暮らしてる場所だからなぁ」

「…………」


 ──王族。

 そう言われてマリアの脳裏に思い返されるのは、かつての婚約者の姿。彼女は直ぐにその姿を掻き消そうと首を軽く横に振る。


「マリィ?」

「ママ……?」

「……いいえ。大丈夫です。少し嫌な顔を思い出しただけ」


 とはいえ、話の流れ的にロキは彼女が思い返したであろう人物を薄らと察していたが。敢えてそれには気づいていないフリをしながら、話し始める。


「んじゃあ良い機会だから……ウチの国の王族の話するか。別名・国王と愉快な御一家達」

「なんて??」


 ──ぐりんっ!!

 マリアは思いっきり首をロキの方に向けた。彼はケラケラと笑いながら、セヴェール王国の王族達の説明を始める。


「まず国王陛下はディバルト・フォン・セヴェール陛下と仰られるんだが……まぁ、白髪つるっ禿げなお茶目爺さん御年六十二だ」

「そのような紹介が許されるんですか!?!?」

「あっははは。大丈夫、大丈夫。言ったろ? 国王と愉快な御一家達って」


 絶句するマリアを置き去りに……愉快な王家の紹介は続く。


「王妃様はイーリス・ルソル・セヴェール様と仰られる、すっごいほんわかしてる……若干ぽっちゃりしたお婆ちゃま五十六歳」

「ひぃっ」

「王太子はディナント・フォン・セヴェール様ら、王太子妃ミランダ・セヴェール様。二人とも三十七歳。万年新婚のようにイッチャイチャしててな……偶にお忍びで城下町逢瀬(デート)してる」

「……………」


 マリアは心配のあまり顔面蒼白になった。

 確か、不敬罪というものがあったはずだ。身分が高い方に不敬なことを言ったりしたりすると、罪に罰せられるヤツ。

 顔色が悪過ぎたのだろう……。今にもぶっ倒れそうなマリアに気づいたロキは流石にヤバいと思ったのか……「あ〜悪い悪いと」心底申し訳なさそうな顔になった。


「言っとくが……大丈夫だからな? こんな風に紹介しても。だって王族の方々公認だし」

「何故に!?!?」

「だから、国王と愉快な御一家なんだって……。本当、この国の王族方はお茶目なんだよ。本当、誰も彼も王族としての能力はピカイチなんだが……」


 ちょっと不安になるマリアである。

 だが、この話は有名なのだろう。丁度前に並んでいた荷馬車の後方で護衛をしていた冒険者らしき男性が〝分かる分かる〟と言わんばかりの顔で頷いているのが目に入った。


「すまん、話が耳に入っちまってな……お隣の兄さんらは初めてじゃなさそうだが、お嬢ちゃんは王都が初めてかい?」


 くるりと振り向いた男性は、冒険者らしい屈強な身体付きをしていた。

 赤い髪と翠色の瞳、更には頬に刻まれた大きな傷でかなり怖く見えるが……柔らかな笑顔がそれを上手く相殺している。


「あ、えっと……」

「あぁ、そうなんだ。今までは勉強暮らしだったんだが、共に暮らすことになってな。だから、緊張を解してやるつもりでお茶目な国王陛下達のお話をしたんだが……余計に緊張させてしまったみたいだ」

「ははははっ! 兄さん、この国の王族らに毒されてんな! 普通はお嬢ちゃんの反応が正しいだろ!」

「だな……次は気をつけるわ」

(す、凄い……)


 ほんの一瞬で会話に繋げたロキの手腕に、マリアは下を巻いた。

 自分にはないであろうロキのコミュニケーション能力の高さに、本当に感心する。


「おっと……悪い悪い。自己紹介してなかったな。おれはカーディナル。冒険者だ。オタクらは?」

「ロキ。下っ端騎士をしてる。こっちは甥っ子のホープと子守のマリア。後、馬」

『…………ヒヒィン』


 ──ぶるんっ。

 強い鼻息を溢すスレイにビクッとカーディナルが「や、やっぱり錯覚じゃないのか……」と顔を引きらせかけるが、なんとか堪えているようだ。

 ロキは苦笑を溢しながら……彼がスレイから意識を逸らせるように。彼の渾名あだなを口にした。


「よろしくな、カーディナル。いや、こう言ったほうがいいか? 《真紅の灰刃》」

「…………ほう。おれもそこまで有名になったか。嬉しいね」


 有名人だったのだろうか……? スレイからこちらに意識を戻したカーディナルは満更でもなさそうな様子で、顎を撫でる。

 だが、いい年して知らないのも変だろうし……。本人に聞くのも少し躊躇ためらわれる。

 すると、それをロキが察してくれたのだろう。彼はホープに教えている風を装って、説明をしてくれた。


「冒険者ってのはある程度の階級に進んだり、功績なんかを残すと渾名を付けられるんだよ。赤髪赤目にカーディナルという名前。背中の大剣から見て、《真紅の灰刃》……刃に纏った炎で敵を灰に還しまくったことでその渾名で呼ばれるようになったそうだ」

「う〜?」

「…………そんなちびっ子に真面目に説明するかぁ? 普通」

「知らんのか。幼い頃から色々と教えてやると賢くなんだよ」


 つまり、渾名を持つほどの実力のある冒険者ということなのだろう。

 〝へぇ〜……〟と思いながら、カーディナルの方を見ると、彼はにっこりと笑ってマリアに声をかけた。


「そんな熱い目で見られると照れるな。マリア」

「…………はい??」


 マリアは首を傾げる。

 別に、マリアは熱い視線を向けたつもりはないし、確実に向けてもいない。

 だが、そんなの関係ないのだろう。視線を向けられた、それだけでカーディナルが口説く理由としては充分のようだった。


「確か子守って言ってたか……。ということはロキの連れじゃないってことだよな……」


 カーディナルの目元がキランッと輝く。

 本人に自覚はないが……この一週間の間にマリアは鶏ガラから華奢という程度の体型まで回復していた。無理やり魔力を消費させられるようなことがなくなったからだ。ストレスがかかってないのも回復の一助となっている。

 つまり、今のマリアの見た目は……儚い系の美少女である。

 そんな彼女を前に、女たらしなカーディナルが声をかけないはずがない。


「なぁ、マリア? もし君が良かったら、今夜、おれと一緒に食事にでも──……」

「ふんにゃぁぁぁぁっ!!」


 ──がばっ!!


「「「!!」」」


 ホープが鳴いた。仁王立ちをして、両手を上に上げて。威嚇するような顔をカーディナルに向けている。

 …………はっきり言おう。


 地味に可愛かった。


「か、可愛い……!! ホープ可愛いです……!!」

「うっわ、ホープ……威嚇も可愛いなぁ……!!」

「にゃー! うにゃー!」


 ふんすふんすと鼻息荒く威嚇する幼子に反して、保護者組は顔がデロデロだった。マリアの方はなんでこんなポーズをしているのか全然理解していないが……ロキは理由が分かってしまうだけに、余計におかしくて堪らない。

 勿論、カーディナルもホープが威嚇する理由を察したのだろう。彼はポカンッ……と固まってから、苦笑する。


「あー……ごめんな。ちびっ子から大事なお姉さんを取ろうとして」

「にゃっ! まま! ぱぱ!」


 むぎゅうっ……。

 ホープは二人の間に入り込み、左右の腕を掴む。

 それが駄目押しになった。カーディナルは「降参だ、降参」と両手を上げる。

 すると、前から〝クスクス、クスクス〟と笑い声が響いた。荷台から降りてきたのは……長い茶髪を後ろで一つに括った、中性的な見た目の男性。彼はクスクスと笑いながら、面白がるような視線をカーディナルに向けた。


「負けましたね、カーディ。天下の女たらしも幼子には勝てませんでしたか」

「…………まぁな。ちびには勝てないよなぁ」

「これに懲りたら少しは女性を見かけたら誰彼構わず口説くのは止めておきなさい。いつか刺されますよ」

「うっせー」


 拗ねたようにそっぽを向いたカーディナルの代わりに、男性が穏やかな笑顔をこちらに向けてくる。

 そして深々と頭を下げてから柔らかな声音で、マリア達に声をかけてきた。


「わたしが雇った護衛が失礼いたしました。わたしはビー。オラシオン商会の商会長を務めています」

「……?」

「……! オラシオンの商会長……!?」


 ロキが驚いた声を漏らす。どうやらこちらの彼もそれほどの有名人らしい。


「…………王族御用達の商会なんだ、オラシオンは。商会長は若いとは聞いていたが……まさか、こんなにも若い方だったとは」

「あははは、お恥ずかしい。若輩者であるのは間違いありませんが……運良く王妃殿下、王太子妃殿下に気に入っていただけまして。贔屓にしていただいております」

「にしても商会長がそんな行商人スタイルで行動してるとはな……もしかして、自分の目で商品を確認したいタイプか?」

「勿論! 商会としての誇りがございますから……現地に赴いて、直接わたしが商品を確認を行います。わたしの目に適さぬ物は絶対に取り扱いませんとも」

「へぇ……流石だな。御用達になるだけある」


 そして、渾名待ちの冒険者を雇っている理由も納得だった。

 有名な商会長ともなれば、狙われることも多いだろう。なんせオラシオンほどの大商会となれば、他の商会とは比べものにならないほどに沢山の金銭を取り扱っている。彼を人質にとって身代金を要求すればかなりの金額をせしめることができるのだから、犯罪者達が彼を狙うこともあるはず。

 だからこその渾名持ち。実力者による護衛だ。

 それに……言い方は悪いが。商人らしい小綺麗な格好でも、大商会の主人に見えない見た目も功を奏している。ロキでも分からなかったように、今のビーは本当に、ただの一行商人にしか見えない。


「ここで会ったのも何かのご縁ですので……是非、今後は我が商会をよろしくお願いいたします。今回、わたしが雇った護衛が無礼を働いてますので……サービスさせていただきますよ」

「ははっ。商売上手だな? 機会があったら利用させてもらうわ」

「えぇ。お待ちしております」


 なんて会話をしていたら、それなりに時間が経ったらしく。ついに王都に入る番になった。

 ビーとカーディナルは左側の受付に。マリア達は右側の受付に向かう。

 ロキが騎士であったからか手続きは比較的早く済んだ。


「さて、遂に王都に到着だ。マリィ……心の準備はいいか?」


 スレイが進む。

 初めてこの地を訪れるマリアを、王都の美しい街並みが迎え入れた。


「セヴェール王国の中心──王都ヴェルリーナへようこそ、マリィ」





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