いーち
新作です。
書いてみたくて書いてみた。ご都合主義である。
なお、ひとまず一章にあたる分は書き終えているので、その分は全て予約投稿します。十九時更新です。
本日はとりま三話分更新。深く考えずに楽しんでくれたら嬉しき。
よろしくどうぞ〜。
望んで聖女になった訳じゃない。
望んで王太子の婚約者になった訳じゃない。
望んでこんな、自由のない日々を送っている訳じゃない。
なのに……なのに、何故。
(なんで私が……こんな目に、遭わなきゃいけないの……?)
マリアはそう思いながら、顔を覆い隠す厚いヴェールの下にある濁り切った瞳を薄紫色の髪に鮮やかな碧眼を有した美丈夫──王太子ネイト・フォン・エキセアに向ける。
煌びやかなシャンデリアの光が降り注ぐ大広間の中央。
王立学園の卒業を祝うために開かれた卒業パーティーに参加していた学園関係者及び卒業生達の視線に晒されながら……肌の露出が一切ない純白のドレスに顔を覆い隠すほどに分厚いヴェールという、この場ではかなり浮いた格好の女──……平民出身の聖女であり、王太子の婚約者であるマリアは屈強な騎士二人によって床へと押さえつけられていた。
いつもは神殿からの外出することは一切許されないというのに、見知らぬ神官に外に連れ出され、強制的に馬車で運ばれたと思えばこれだ。
一体、何がどうしてこんなことになっているのだろうか? はっきり言って意味が分からない。
けれど、一つだけ分かることがある──……。
ここにいる誰も彼もが……自分に対して悪感情──嫌悪や憎悪など──を抱いていること。怒りを宿した目で睨みつけている様子からも、それだけは確実に、間違いようのない真実であるようだった。
「聖女マリア! お前は聖女という地位につきながら、豪遊生活に溺れ……! わたしという婚約者がいながら、複数の男と不貞を働き! 更には聖女補佐を務めるヘレナ・アデュール公爵令嬢が自身よりも人々に慕われているからと逆恨みを抱き、彼女を排除しようとした! そんなお前は未来の国母になるには相応しくない! よってわたし、エキセア王国王太子ネイト・フォン・エキセアは貴様との婚約を破棄する!」
(…………は?)
そんな孤立無援の状況に置かれていたマリアは、王太子から告げられた言葉に困惑を隠さなかった。
それもそうだろう。はっきり言って王太子ネイトの言葉には一切合切、身に覚えがないのだから。困惑するのも当然という話だ。
「……一体、何を……おっしゃって……?」
「ハッ……白々しい! 身に覚えがないとでも?」
「あ、当たり前です……! 私は豪遊生活も不貞も! アデュール公爵令嬢に害をなそうとしたことも! 一つたりともしたことがないのですから!」
「黙れっ!」
──ビクリッ!
王太子が怒鳴ると同時に押さえつけてくる騎士達の力が強くなる。ギリギリと締め付けるような痛みに、思わずマリアの口から小さな声が漏れる。
けれど彼らはそんなことを気にすることもなく……益々憎悪を紛らせて。マリアを殺さんとばかりに睨みつけていた。
「聖女でありながらお前は神殿の寄付金に手をつけて、神殿内で随分と優雅な生活を送っているそうだな? 更にはわたしとの交流のために開かれている週に一度の茶会。そのために王城へと訪れる度に、お前が王城で働く騎士達と近過ぎる距離での逢瀬を交わしているのを、王侯貴族や城で働く者達が何人も見ている。だが……何よりも許し難いのは、ヘレナを殺そうとしたことだ」
「…………」
「お前が現れるまで──……ヘレナは、聖女候補だった。だが、聖女の力を持ったお前が現れたことで、彼女は聖女補佐となった。しかし、当の聖女は聖女としての務めを全うしようとはしない」
(……は?)
おかしい、と思った。
マリアは間違いなく、聖女としての務めを果たしていたはずなのだから。
だから、ずっと神殿の中に閉じ込められていたのに。
なのに、聖女と務めを果たしていなかったと彼は言う。周りの人々も同意するような視線を、こちらに向けてくる。
流石にこれを認める訳にはいかないと、否定の言葉を紡ごうとするも、何か言おうとしたのを感じ取った騎士達が抑え込めてくる手に更に力を込めてくるから。痛みから何も言い返せずに、王太子の言葉を聞くしかできない。
「そんなお前の代わりに慈善活動を積極的にしていた彼女が人々に慕われるようになるのは必然であるというのに。なのに自分よりも慕われる彼女を烏滸がましくも怨んで。殺そうと……殺そうと! するなど!」
蠢くような憎悪が宿った瞳。今すぐにでも殺してやりと言わんばかりの表情。
……それで、理解してしまった。
ネイト王太子は例え、どれだけ否定しようともマリアを許すことはないだろうと。
どれだけ違うと訴えようとも、マリアの言葉を聞き入れることはないだろうと。
(あぁ……結局、殿下も……。私から搾取する〝彼ら〟と同じなんですね……。何を言おうが、意味がない……。こうやって、私の否定を無理やり遮って……。私の意思は、尊重されない……。いつもと、同じ)
だから──……その瞬間、マリアは諦めた。
(なら……もう、いい。どうなろうと……意味がないのだから……)
何をしたって、何を言ったって無意味だというのなら。このまま受け入れるしかないと全てを諦めてしまった。
そこから先はあまり覚えていない。
確か王太子が〝追放〟だとかなんだとか言っていた気がするが……マリアは大人しく全てを受け入れて。王太子が命じた指示に従った騎士達に大広間から連れ出され、人目を避けるように置かれていた馬車の中へと詰め込まれた。
そうして行き先も分からぬまま、何処かへと馬車は動き出す。
(これから私はどこに連れて行かれるんでしょう……? …………まぁ、碌でも行き先なのは間違いないでしょうね……)
マリアは現実から逃避するように、そっと目を閉じる。
今の今まで堪えていた、襲いかかるような疲労感に逆らえなくなる。
(…………せめて……痛い目に遭わなければ、いいのだけど……)
これから先のことを思うと不安は尽きないけれど。
けれど、聖女なれど搾取される立場であったマリアにはどうすることもできないのだから、意味のないことをするだけ疲れるだけだ。
(…………あぁ……疲れ、た……)
その言葉を最後に……マリアはゆっくりと、意識を手放す。
だが、彼女は知らない。
この騒動が、マリアの運命を大きく変えることになることを──……。
彼女が向かう行先に、運命の出会いが待っていることを……。
この時のマリアは微塵も、知る由もないのだった……。




