最上品の美食
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
提供された時間が最上品で、そこから段々と落ちて行くと思うんですよ。
何でもそうだと思います。
その城に住まう主は希代の美食家として名を馳せている。美味と感じる物に目がなく、その為ならば、どんな手段、行動にも取るような者である。そんな城の主は、ある時は秘境にある高級レストラン、ある時は下町の大衆食堂。所構わず顔を出すと噂されている。
そんな彼女に招かれて食事を共にする事になった。小さな部屋だった。振込時計の秒針と赤赤と燃える火花が散る音だけが静かに響く。恐らく食事をとるであろう小さな正方形のテーブルと、やや固めそうな椅子だけが私達を待っている。
料理はまだ提供されていない。彼女は私の顔を見ると僅かに口角を上げた。
「少し驚かれるかも知れません」
その言葉を皮切りに、料理が提供される事になった。コース料理宜しく、大皿の中心に小さな作品が陣取っている。
静かに口を開いて口に入れる。柔らか過ぎず、固すぎず、しっかりとした肉の感触が口一杯に広がる。手ごねの肉塊。一口で食べ終わると、直ぐに新しい料理が提供された。
掌大の層を持ったもの。パイ生地とパイ生地の間にチーズが挟まっている。口に入れるとサクサクとした食感に混じって、とろりと溶けるチーズの濃厚さ。
彼女はそれを黙って見ていた。食事は既に終えていた。
この二品を食べ終えて、思ったことがある。今の二品共に、全て一口で収まる大きさに計算されている。切り分ける事も、噛みちぎる事もしていない。その一口こそが芸術であると言うように。
彼女はただ静かに口を開く。『今は規則に反しておりませんので』と。
「貴公、『料理』と言うのは、最初の一口が最上品なのです。そこから質と言うものは、物凄い速度で劣化をして行きます。口の中で蕩ける様な感触も、噛み締めた時の柔らかさも、二口目にはすでに損なわれております。それは何も高級な料理だけでは御座いません」
彼女はそう言って、まだ栓の開けられて居ないワインボトルに目を配った。恐らく相当な年代物であろう。
「作って直ぐに口に入れなければ、その最上品を味わう事は不可能であると思うのですよ。ですので貴公、どうか前の料理に躊躇う事の無いよう」
言い終わるのを見計らった様に、新たな料理が提供された。観察するまも、静かに口に入れる。
「……」
「先程とは違いますでしょう?」
出来たてが一番美味しいと思うんですよ。
ピザとかハンバーグとか食べていて、一口目と二口目では味の感覚に雲泥の差がやっぱりあるんですよ。
チーズとか落ちちゃいますしね。
肉汁も固まってしまいますしね。
だから提供されてから、口に運ぶまでの時間が長いのは、私の趣味にはあいません。
出されたら即刻口に入れたい。
そんな話です。