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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
出会いと別れの冬、そして春
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54 人生振り返るにはまだ早い


人を助ける事は良い事だ。


助けた替わりに食べ物を貰ったり、寝床を与えられたり、そうやって生きてきた。

ただ、いつからか口では助けてと言いながら悪事に加担させようとする連中が増えてきて辟易した。

それならひとりでもいいか、と、もう何日食べていなかったからだろうか、彷徨っていると急に目の前が暗くなりぼとりと落下した。


「何か落ちてきたぞ」

「わあびっくりした。こりゃ珍しい。ドラグーンの子供ダヨ」

「ドラグーン?」

「地上で一番強い種族じゃないかな。ドラゴンの血を引いてるなんとか……石とか土とか食べても生きていけるし、体も頑丈なんだけどネェ。親が子育てしない種族だから今の時代はネ。死んじゃう子供が多いんだヨ」


戦争で悪いコト考えてる奴が多いからネ、と動かないヴィントの翼を摘み上げた。

ばし、とその手を払いのける。


「あれ生きてる」


のろのろと体を起こすとローブ姿の少年と大剣を背負った少年と目があった。


「お前らだって子供だろ」


睨みつけたが、少年たちは意に返さず泉に石を投げ入れていた。


「……何をしてるんだ……?」


怪訝なヴィントの問いに、何って、ローブ姿の少年は答える。


「泉の主に喧嘩売ってるのサ」


はぁ?と疑問の声を上げるとざばぁ、とその泉の主が姿を現す。

どうやって泉に体を納めていたのかと思うくらい巨大の水獣だ。


出たぁ!!と半ば二人に引きずられる形でその場から逃げ出す。


「あははは!見た!?歯!!三重ダヨ!!!」

「く、食われる!!!」


ぎゃははと笑いながら緊張感も無く。


「いくよ、ホラ武器モッテ!」


ぶわっと魔法の力で体が上に押し上げられる。

ローブの少年の魔法だろう。


「お前、強いんだってな。あのデカブツ、頭のてっぺんが弱点だからな」


一緒に押し上げられ大剣を構えた少年が言う。


「……バカじゃないのか」


心底呆れたように言い剣を構えるヴィントに、大剣の少年はニヤリと笑って言った、よく言われる、と。









……ラーニッシュとクルカンと出会ったばかりの事を思い出していた。

死ぬ間際の走馬灯としてはなかなか最悪だ。

どのくらい気を失っていたか分からないが、魔獣はまるで弱いものには興味がないとでも言うかのようにあたりを破壊し魔王の封印された雲を吸い取るばかりでこちらには一瞥もくれない。


軽く息を吐いて自分の体に回復魔法をかける。

思い出すならもっと他の事が良かった。



春になったら少し困るなあ、とリリーは言った。

寒いからという理由で外を歩きながら二人で手を繋いでいた。


「……春は、まだ雪も残っていて足元が滑るだろう」


そう言うとリリーははにかんだ。

夏が来たら、とは聞かなかった。

春が来たらと言った事を待ってくれているのかもしれない。


抱きしめられるような立場でもなく、権利もなかった。


初めて雪が積もった日、早起きして一番乗り……!とこっそり呟いて足跡をつけて歩くリリーの後ろをついて歩いた。

好きなだけ歩いて回って、満足して振り返って笑う。

そっと両足を抱えて縦に抱き上げて、転ぶから、と来た道をゆっくり歩いて帰った。


「ヴィントサマー、ゴハンデキマシタヨ、アチャアチマミレ!」


……時間をかけて、ゆっくり。

たどり着くまでふたりきり。

抱き上げたまま、離さずに。


「ヴィントサマッテバ!シンジャッタ?」


………………情緒がない。


「……死んでない」


うさぎは思い出に浸らせてくれないらしい。

現実に立ち返って体を起こす。

タマゴが持ってきた回復薬を煽って、そうだな、食事だな、とヴィントは返事をした。


人生振り返るにはまだ早い。






「あちゃあ〜……世紀末だよこれ」


フラーは額に手を当てて嘆く。

オンセンとタマゴの掘った穴から城の外に脱出し、全員宇宙船の前に集まった。

うさぎたちはどうやら船の動力を使って食事を作ったらしい。

つくづく器用で抜け目のないうさぎだ。

丘の先、遺跡も城も魔獣が暴れ回りめちゃくちゃに破壊されている。


あーあ!温泉が……スケート場も!リリーのくれたお土産もあるのに!とメイドたちはそれぞれ憤慨する。


「またいくらでも作り直せばいいし、お土産だって買い直せる」


そうだろ?とラーニッシュはリリーに同意を求めるが、リリーは俯いて本と向き合ったまま返事をしない。


「さ、食べよ!」


メイドたちの掛け声でいただきます、と皆食べ始める。


「化け物眺めながら食事とは…」

「次は平和なピクニックがいいですね」


肩をすくめるアレクとブラウ。


「労働の味だあ……」


ぼろぼろ泣きながらサンドイッチを齧るジェーンの頭をすんっと鼻をすすったフラーが撫でた。

フラーとジェーンは非戦闘員で、悔しさもあるだろう。


「次こそは一撃必殺で、仕留めてきますから」


ふんと鼻を鳴らして次々と口に運ぶトルカは気合いを語る。

よしやれできるえらいよがんばれと皆から揉みくちゃに撫で回されて笑い声を上げた。


リリーは翻訳に集中しながら差し出されたサンドイッチを齧る。美味しい。

一文でも間違えれば封印の魔法は失敗する。

でも不思議と、出来る気しかしなかった。


「失敗したら戻って来て下さいよ。船出しますから、そこから全速でロマネストに行ってクルカンの奴ぶん殴って手伝わせましょう」


シスカの言葉にリリーはようやく頭を上げた。

食べ終わり、ヴィントもラーニッシュもトルカも魔獣の所に戻るようだ。


皆何も言わずにに笑った。

魔王が復活すればその衝撃で惑星二、三個吹っ飛んでもおかしくないはずなので、例え外に出ているヴィント達を置いて逃げたとしても間に合わず皆死ぬだろう。

誰もが分かって、でも笑った。


本を膝に乗せて座り込んでいるリリーのそばでヴィントは膝をついた。


「行ってくる」


両肩を抱かれたまま、リリーはヴィントの胸に頭を預けた。

大きく息を吸い込む。頑張れそうな気がした。

そのまま抱きしめられたのでリリーも腕を伸ばし、ヴィントの背中の翼に触れた。

ドラゴンのような翼は皮膜の部分はあたたかくて、体毛があって柔らかい。

骨格の部分は硬くて、自分の翼とは全然違う。


「やる気出ました。頑張れます」


ん、と体を離してヴィントは立ち上がった。

後ろでアンとフラーが抱き合ってうそでしょ今ちゅってする雰囲気だったじゃん!?いや今のはリリーが悪いでしょ頭突っ込むからなどと言っているが、気にしない。


今はとにかく、やるしかない。









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