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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
出会いと別れの冬、そして春
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52 春が来たら


春が来たら。


春が来たら言う、とヴィントは言った。

春とはいつだろう。

雪が止んだら?

暖かくなったら?

ふう、と軽く息を吐いてリリーは窓の外を見た。

積もっていたであろう雪がとさとさと音を立てて落ちるのが見えた。


「はぁ…………」


少し離れた窓際でトルカがため息をつく。


「どうしたの?」

「二人とも……帰っちゃいました……」


二人とはオルフェと一緒に来た双子のことだろう。


「せっかく仲良くなれたのに……もう来ないって」


今日のところはこれで勘弁してやる、と、よろよろと…頑丈なラーニッシュはともかく高所から落下して相当痛かっただろう、エライユを離れるオルフェをリリーはにっこにこして見送った。

前回してやられた手前いい気味だ。

メイドたちは一晩!一晩泊まって行ってよお!などと誘い込んでおり……なんというか本当に剛健だ。

ばいばい、とわりとドライにオルフェと共に乗船する双子も見送った。


しょんぼりしてトルカが見つめる先は中庭だ。

三人で遊んだ時の事を思い出しているのだろう。

もう来ない……仲良く遊んでいたのに子供はなかなかにシビアだ。

どう慰めたものかと考えているとぽそりとトルカが呟いた。


「エミリオ……ラヴィエスカ……」


リリーは目を丸くしてトルカに尋ねる。


「二人の名前を聞いたの?」

「男の子の方がエミリオで、女の子の方がラヴィエスカです……」

「それは……脈ありだよ!」


リリーは力説する。

故郷のティースでは友達おろか名前で呼び合う仲の子はいなかった。


「もう来ないって、照れ隠しかも。どうでも良かったら名前なんて教えないよ」

「……そうかなあ?」


下がり眉のまま見上げてくるトルカにうん、と肯定する。

そっかあ!とはにかむトルカの手を取ってスケートしよ!とリリーは誘った。









「ぜ、ぜったいに……ぜったいに離さないで下さいよ……!」


リリーはヴィントの手をぎっちぎちに握りしめて言った。


「離したことはないだろう?」


涼しい顔で言うヴィント。


「最近人目を憚らずにいちゃつき始めたな」


トルカと一緒に作った雪のアイスクリームタワーを更に積み上げながらラーニッシュは言った。


「仲良しでいいじゃないですか?」

「お前らよく見とけ。あれがヴィント様のめちゃくちゃ機嫌が良い時の顔だ」


アイスクリームタワーにぺちぺちと模様をつけるトルカは首を傾げ、腕組みして見守るシスカは部下たちに講釈を垂れた。


「あらあ〜リリーったらそんなに足開いてダ・イ・タ・ン♡」


氷の上を優雅に滑るフラーが立つのにやっとなリリーを煽った。


「だって、だって、勝手に開いちゃ、どうするのこれええ!?」


スケートリンクの真ん中で一番運動の得意なメイドのナナリーが空中六回転ジャンプを決めた。

おおー!十点!十点!と外野から声援。


「あらあ〜わたくし手が滑って、」


アンがリリーの背中を軽くとんっと押した。

リリーはそのまま体勢を崩してヴィントの胸に突っ込む。


アンにも十点〜!とメイドたちが沸く。

ヴィントはリリーの両肩を支えて大丈夫か?と聞いた。

リリーはヴィントを見上げて涙目で言う。


「も、もう立てない……!」


そのままずるっとヴィントが尻餅をついたのでリリーは一緒になって倒れ込んだ。


「優勝はリリーだな」


腕を組んだラーニッシュが言って、わー!!と声援が上がる。

な、なんでぇ!?とリリーは叫んだ。

……何の勝負だ。



まさか何でも出来ちゃうリリーがスケートが苦手だなんてね、と言いながらフラーはくすくすと笑う。


「……もう。すぐ上達してみせるんだから」

「ヴィント様に手取り足取り教えてもらうからゆっくりでいいんじゃない?」

「足!関係ないでしょ!」


つんとするリリーにうそうそ、ごめんとアンがじゃれる。







「ご飯にね、揚げ物するんだけど食材何があったかな?」

「かぼちゃ……にんじん……たまねぎ……」


フラーが指折り数える。


「じゃ私海老と豚肉取ってくる」


そうリリーが言うと、アンは、


「私西棟の裏でふきのとう取ってくる!」


と言う。

えっ?もう生えてた?春なんだねえ、こんなに寒いのに、などと言い合って三人はそれぞれ別れた。


春は近い。

今日は晴天でだいぶ雪も溶けた。

それでもまだ残る雪が陽光を反射して彩度を上げる。

リリーは回廊から外の雪を眩しげに見つめた。


ぱたぱたと走る足音にリリーは後ろを振り向いた。

メイドのメルとライラが走ってくる。


「……リリーごめん。失敗しちゃった…………」


小柄なメルは勢いを殺さずリリーにそのまま抱きついた。

ライラはリリーのそばにへたり込む。


「ごめんねえ。あたしたちこのままでいいから、ルイーネ呼んでくれる?」


へへへ、と力なくライラが笑いながら言った。


じわり、と床に血溜まりが広がる。

抱きついたはずのメルがずるずるとそのまま床に落ちる。

ぐったりと倒れたメルは目を閉じたまま、動かない。

心臓がぎゅっと掴まれたように苦しくなり指先から血の気が引く。

轟音で何かが崩れ、中庭までばらばらと石が飛んでくる。


大丈夫、大丈夫よ、とメルとライラの二人に回復魔法をかけるとよろける足を心の中で叱咤しながらルイーネを探しに走る。



── 私西棟の裏でふきのとう取ってくる



轟音で吹き飛んだのは西棟ではなかったか。

痛いほど暴れる心臓も、震えて命令を無視する体も構っている余裕はない。











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