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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
出会いと別れの冬、そして春
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51 サメサメパニック!(下)


「お前らと一緒にやれるか!俺は行く」

「あっ待ってダメ!そっちは──!」


回廊に出るなり潜んでいたサメがスピードを上げて襲いかかってきた。

サメはオルフェの左腕を引きちぎり、獲物を誇示するように首を振ってから上に放り投げ、口の中に入れようとする。

リリーは悲鳴を上げて翼で全速力、腕を取り返すとオルフェにくっつけた。


「大丈夫、いけるいける!」


回復魔法とほんの少し時間を巻き戻す魔法を使って血液を回収しオルフェの腕をくっつけた。


「は………はぁっ?お前本当どうってンだよその魔法!!普通くっつかねーだろ!!」

「くっついちゃった……」


自分の魔法はなかなかだと思っていたリリーだったが、本当にくっつくとは思わなかった。

ヴィントがサメのエラから長剣を差し込み、そのまま雷魔法で止めを刺す。


「助けてもらっておいて何だそのいい草は」


呆れたように言うヴィントの後ろでリリーは上下逆につければ良かった、とこっそり思った。






とにかく俺は行くからな、と別行動を宣言してオルフェはどこかに行ってしまった。


「もうこんなところにまでサメが……」


こんなところもどんなところも本来ならば居たらおかしいのだが。

先程の雷撃を警戒してかサメたちは上空を旋回するように泳ぎ降りてこない。


「これではオルフェから聞き出すどころではないな……」

「何が聞きたかったのー?」


中庭から水膜に貼り付いて双子が寄ってきた。

オルフェと近しい双子。

何か知っているのだろうか。

リリーはヴィントを見る。

ヴィントは双子に目線を合わせると聞いた。


「人工魔獣を、誰が作り出したのか知っているか?」


双子たちは顔を見合わせた。


「知らないよー?」

「あの手紙はどこで預かった?」

「ナルフだよ?」


意外と近い……!


「あいつ俺らがナルフに居た時近くに居たんじゃないのか?」


いつの間にか双子の隣にシスカが来て言った。


「あれ!?」

「どうやって出た!?」


「いやーそれが……頭からばっくり喰われてな……」

「食べ…………えっ?」

「気がついたらここに」


何が何やら……と頭を掻くシスカに我々も……と部下二人もやってきた。

魔法でできている生物なので道理が違うのだろうか……?

激しい爆発音がして上を見るとラーニッシュが上空で一対多数でサメと交戦していた。

行かなきゃ、と駆け出すリリーとヴィントに双子たちが言った。


「人工魔獣は虚無だよ」

「──虚無っていうのはね、何も無いって意味だよ」


何も無い……


返答に困り考えあぐねているとまた爆発音がして、慌てて上空に向かう。

双子たちはそれ以上何も言わなかった。


「サメばっかりもだんだん飽きるな」

「散々暴れ回っておいてよく言う」


やる気が削がれてきたらしいラーニッシュの横に並んでヴィントが言う。


「クソが!やってやる!鍵とやらを!探して!クソ魔術師の頭に突き立ててやるまでなァ!」


武器を双子が持っている為、徒手空拳でサメと渡り合うオルフェを見てリリーは引いた。

鍵を頭に?雪人形に双剣を立てられたせいで変なインスピレーションまで沸いている。

頑張れー!!とメイドたちの声援は空間の外から。

いつの間にかリタイアしていたらしい。


「サメが泳いでたんじゃ、城がいくつあっても足りない、よ!」


リリーもヴィントのようにエラから剣を刺し雷撃を送って葬る。

早く仕留めなければラーニッシュがエライユを更地にしかねない。


「ぎゃっ!」


後ろから気配を感じ、咄嗟に翼を収納する。

ばくんと口が空を切ったサメはヴィントに屠られた。


ぎゃあぎゃあと何か言い争っているオルフェとラーニッシュ、どうしても勝負がしたいらしく大剣はフェアじゃないからこっちも拳だとか何とかラーニッシュが言っている。


その隙を死角から忍び寄ったサメが二人を狩ろうとスピードを上げる──!


「しつこい!!」


二人同時に叫び、飛び蹴りも同時に決まった。

小型のサメは堪らず口を開いて悶絶し……何かを吐き出した。

キラリと光る黄金色……


「あっ」

「鍵!?」


なりゆきで鍵が飛んできた方向に居たリリーがぱしりと掴む。

それと同時に弾けるように海のような空間もサメも消えた。

消えたということは海のような浮力も消滅したという事で……


「ひ、落ち、」


きゃああと悲鳴を上げてリリーは落下した。

翼があるのにまた落ちた、と思う前に地面すれすれでヴィントがリリーを抱き止める。


「ご、ごめんなさ………うわ!?」


持っていた鍵が突然、ぴかぴかと七色に光るとコングラッチュレーショォン!と機械音で告げた後ぽん!と軽快な音と共に弾け消えた。


「………なにこれ………疲れる………」


渋い顔でリリーは鍵が消えた手のひらを見つめた。



──虚無っていうのはね、何も無いって意味だよ



急に双子の言葉を思い出す。


「……何も、無い?」

「………リリー、君に言いたいことがある」


はっと気がつく。

そういえば仰向けで倒れているヴィントの上に思いっきり乗っている。


「あ、あああごめんなさいごめんなさい」


慌てて退こうとすると腕を引かれ、そのまま抱きしめられた。


「は、ひぇ、何なりとお申し付け下さいませ!?」


一体全体どういうことかと混乱を極め早口でよく分からない思いの丈を口走る。


「……いや、今言うことではないな……」


……ということは。


…………どういうことだ?



クソッ!イチャつきやがって!!と同じく落下したらしいオルフェが悪態をついているのが聞こえる。

リリーはヴィントの胸に顔をうずめたまま、嗚呼願わくばだれかこのまま担架でベッドまで運んで、と思った。


……こんな赤面、誰にも見せられない。


どうしようもなく、心が重傷だ。











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