49 所有権の主張
いーやーだ!いーらーなーいー!と暴れる双子を摘み上げ、ヴィントは船に押し込む。
「タダより高いものはないんだよ!」
「そんな施し!受けられない!」
駄々を捏ねる双子にヴィントは片眉を上げたが、膝をついて双子に目線を合わせると説明する。
「……オルフェとはあまり仲が良くない。友達ではないし、隣に座ったりもできない」
怪訝な顔の双子にヴィントは続ける。
「ただ死なれては困る。聞きたいことが山程ある。だからこれは取り引きだ。オルフェが目を覚ますまで、君達が守って欲しい」
ちら、と双子は顔を見合わせると分かった……と渋々呟いた。
「何かぼくたちに聞きたいことある?」
エミィ!と双子の少年を少女の方が引き留める。
珍しく意見が合わないようだ。
「いや、話はオルフェから聞くとしよう」
にやり、とヴィントは笑い。
「タダより高いものは無いんだろう?」
そう言って別れた。
シスカたちと再会すると謝罪合戦になってしまった。
あんなに食べ回ってはしゃいでいたトルカがすっかり萎れてしまい、可哀想な事になっている。
エライユに戻る船の中、お菓子食べる?ご飯にしようか?と勧めても首を下げたまま、
「ぼく……ぼく……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
ついにわんわん泣き出してしまった。
ぎょっとしてリリーが背を撫でるも、まったく泣き止まず寝室に連れて行った。
「妖精というのは存在があやふやで、感情もあまりない」
様子を見にお茶を持って来てくれたヴィントは語る。
トルカは妖精たちの中でも変わっていて、あれは何ですか?これは?と好奇心旺盛で、気に入ったラーニッシュが名前をつけてエライユの民みんなで可愛がっていた。
魔王との大戦時にエライユの妖精は死滅してしまい、トルカだけが残ったが、トルカはあまりよく分かっていなかったようだ。
ただ、ぼんやりと、他の妖精達も良く集まっていた花畑だった場所を見つめていただけだった。
「……亡くなる、別れる、というのが想像がつかなかったんだろう」
こんなに泣いている所は初めて見た、とヴィントは言う。
泣き疲れてすやすや眠るトルカの髪をリリーは撫でた。
人懐っこい丸い目から大粒の涙をこぼしたトルカ。
いつも笑っていて欲しい。
もう泣かせないようにしなければ。
リリーはトルカの隣で横になる。
「ヴィント様……私、もっと、強くなりたいです」
そっと右手を伸ばした。
その手をヴィントがとり、手を合わせる。
「程々にな。皆がいるから、安心していい」
初めてリリーの翼に触れた時、ヴィントは自分とは違うどこか瑞々しいそのやわらかさに驚いた。
翼だけではない、腰にも、髪にも、肩にも、手にもあちこち随分触った。
事態が事態とはいえ、ハラスメントで訴えられたら即負けるだろう。リリーの性格が若干流されやすくなければ危うい所だ。
どうしても、他人が触れる事には辛抱ならず、でも自分は触れたいと思う。
それは乱暴な言い方をすれば所有権の主張のようなもので、例え恋人や夫婦など特別な仲になったとしても全てに触れる事が赦されるわけではない。
ただ主張がしたいのだ。
どうしても。
ストレッチです、などと言い合わせた指を人差し指から順に押して遊んでいるリリーの手から指を絡めとって繋ぐ。
自分から触れてこないリリーから伸ばされた手は貴重だ。
「……あんまり繋いでると、仲良いって噂されちゃうかも」
言いながらリリーはきゅっと握り込んだ。
「もっと周知した方がいいんじゃないか?」
顔を赤くしてリリーは押し黙った。
……そこは流されてもいい所だ。
リリーは顔だけしゅっとタオルケットに突っ込んで、小声で……そうかも、と呟いた。
よし。




