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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
出会いと別れの冬、そして春
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46 ナルフへ小旅行


軽快に歩く度に揺れるポニーテールの後れ毛が陽光を浴びて光る。


この、最近逐一観察してしまう癖をどうにかしてやめたい、とヴィントは思った。

目線を強制的にリリーの足元へ落とし──リリーは後ろのメイドたちを気にして手を振りながらタラップを歩く。

転ばない様注意して手を引きながら、リリーの横顔のまばたきする度に震えるまつ毛を見て本当に、


この、本当にやめたい。





「リリーったら、いくらナルフが暖かいからって薄着じゃない?」

「あれは意図的コーディネートなの」

「というと?」

「賭けてもいいわ。帰りはヴィント様のカーディガン着て帰ってくるから」


きゃあっとメイドたちは盛り上がる。

いい事を教えてやろう……ぬっ、と悪人顔でラーニッシュがやってきた。


「邪魔者は全員追い出した。これより───混浴だ!!」


きゃー!とメイドたちはもっと盛り上がった。












食事の支度を手伝う、と申し出たものの船の中のキッチンは使い勝手が違うから、とヴィントの部下たちに追いやられ、リリーはヴィントの隣に座るよう促された。


「……ナルフはそこまで治安が悪いわけではないが、」


銀の鎖でできたブレスレットを渡される。


「魔法効果を遮断する力がある」


へー、と感心してブレスレットを見つめていると後ろから来たシスカが、


「ヴィント様、まだ腕に一本、足に二本と首輪が足りないですよ」


と言う。


「もう!首輪!忘れてください!」

「今回は優秀なボディーガードもいるからな」

「えっへん!」


リリーの反対隣に座っているトルカが胸を張った。

ん?今回は?

つけてもらうのにヴィントと向き合うよう体を動かす。

膝と膝が触れ合うかと思うくらい近くなりどきりとする。

リリーは無理矢理視線を切り替えて自分の腕を見つめる。

ブレスレットのアジャスターを動かすヴィントの指先を見て落ち着かなくなり、目線が迷子になった。


つけ終わり礼を言うと向き直り、ばれないようにほんの小さく深呼吸した。






「──それでオンセンとタマゴが言うには、穴を掘って地下を開発するつもりみたいなんですけど──……」


温泉タマゴがなんだって?

色気のない話を夢中でしているリリーにちょっと物申したい。


「何だよ温泉タマゴって……」


呆れ顔でテーブルに料理を並べるシスカにリリーは言った。


「違いますよ、オンセンとタマゴです。うさぎの名前。つけて欲しいっていうから……」


誰もその名前に異議はなかったんだろうか。


「くじ引きで決めました」

「それはどうなんだ……」

「自分で投票したのが当たったみたいで喜んでましたよ」


うさぎ自身のネーミングセンスが悪い。


身振り手振りで話すリリーは普段に比べると随分と饒舌だ。

頭の先からつま先まで懇切丁寧に仕立て上げられたリリーは随分と気合の入った服装に──何故かヴィントのカーディガンを羽織っている。

どうも惑星ゼノンの温泉旅行を皮切りにメイドたちにお膳立てされているらしく、今回の惑星ナルフ行きも仕込みだろう。


「よしトルカ、今からパンケーキ三十五段仕立てを実演してやる」

「えーっ!?本当ですかあ!?」


呑気に喜んでいるトルカをヴィントとリリーから引き剥がし、暫く二人きりにさせてやるとする。

リリーの一挙一動に目を細めて微笑んで見守っている主人の幸せは部下の幸せでもある。

シスカはトルカを連れてその場を離れた。










ごゆっくり、と興味なさげに一瞬だけ目を上げた店主はまた手元の新聞に目線を戻す。

はー、と感嘆のため息をあげたリリーは本で埋め尽くされた店内を見回した。


「本が、こんなにたくさん……!」


と、少女小説、雑誌……と頼まれた本から探し始めるのはリリーらしい、とも言える。

こいつ適当に食わしときますから、と本には興味ないのかシスカたちと食べ物にるんるんなトルカは本屋を離れ、リリーとヴィントだけ店内に残った。


本の表紙だけでも種類が豊富で目の保養だ。


一緒に本を選んでいるはずのヴィントに声をかけようと本棚から顔を覗かせると、脚立に浅く腰掛けて本を物色する姿が目に入った。

か、顔が良すぎる……

いつだったか、メイドたちが国宝なのよ、あの顔!!と力説していたがまさに。

……やめよう、心臓に悪すぎる。

顔を引っ込ませると本選びに戻った。


ここで二人ともミスをした。

せっかくゆっくり本を選んでいるのだから、と声をかけずに時々様子を伺いながら自分の本選びに夢中になる、というのをお互い繰り返したせいですっかり日が暮れている。


「……はっ!」


最低限の採光窓しかない店内では時間の感覚が分かりにくいが、あたりが暗くなっている事ははっきりと分かる。

連れてきてもらっている手前長々と過ごすには罪悪感がある……もうかなりだいぶものすごく時間を浪費してしまったが。


「あ、あの、すみません長々と……!」

「……つい長居してしまったな」


買った本をエライユに送って反省会モードで店の前に佇んでいると、トルカたちが戻ってきた。


「ごめんなさい、すっかり待たせちゃって……」

「気にすんな。経済回しといたから」


トルカが、とシスカ。

当のトルカはあそこのイカ焼き食べてもいいですか?とまだ食べる気のようだ。

港に面した屋台まで駆けていくトルカに遅れて皆でついていく。


日が暮れた港は等間隔の街灯が当たりを照らしていて露店も立ち並び、雰囲気が明るい。

船着場には大きな旅客船が止まっている。


「遊覧船でしょうか?」


屋台から戻ってきたトルカが横に並ぶ。


「時刻表…あっ!最終便がまだありますよ!」


出発時刻が記載されている立て看板を見ていたトルカが乗りたいです!とヴィント達を期待を込めた目で振り返る。同時にリリーも振り向いた。もちろん期待を込めて。










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