43 地、固まる?
──むかしむかし、森の奥の遺跡に、悪い魔女が住んでいました。
魔女は、ドラゴンを捉えて無理矢理従えたり、心優しいお姫様を捕まえてまるでしもべのように扱っていました。
心優しいお姫様は、それはそれは魔女の事を痛く心配して、丹精込めてお世話をしました。
優しいお姫様に心打たれた魔女は改心して、ドラゴンを解放し、お姫様と仲良くなり、幸せに暮らしました。
「──っていう話らしい」
「なああんでええええ!!!!」
リリーは頭を抱えて机に臥した。
「お、こっちは騎士様が魔女を倒して姫を救う英雄譚風」
「こっちは…………」
あれから街は大騒ぎ。
面が割れているリリーたちは迎えにきたシスカたちの船にこそこそ乗り込み帰国の手筈となった。
あちこちで暴れる囚われのドラゴンを見たとか、女の子がお姫様になったとか、あながち嘘では無さそうな噂に尾ひれや背びれが付いて戯曲になり、崩れた遺跡はすでに行列が出来んばかりの観光スポットになっている。
更に老婆からお詫びに、と受け取ったのはドレスだけではなく、例のブイヤベースのレシピもあった。
魔法カメラで写しを撮ってから市長に献上したので、街の新名物となることだろう。
「もう恥ずかしくてあの街行けない……」
頬をべったり机につけたまま呟いたリリーは黙りこくって戯曲の紙を真剣に読んでいるラーニッシュを見た。
シスカやアレク、ブラウまでも覗き込んでいる。
「何をそんなに真剣に読んでるんですか?」
リリーの声にはっとしてアレクとブラウは身を離した。
「これは姫様がドラゴンからあんな目やこんな目にあったり騎士様とそんな風になるちょっとアレな……官能小説だな」
「んなー!?」
凄い勢いでリリーは紙に取り付き、勢いそのままびりびりにした。
「あっ!何をする!ちょっといい所だったのに!」
「だめ!不埒!風営法違反!」
「やめろこの暴れドラゴンめ!」
取っ組みあって言い合うラーニッシュとリリーをヴィントがばりっと引き剥がした。
「……ふんだ。そんな偉そうな口聞いてもいいんですか?ブイヤベースのレシピは私が持ってるんですからね!」
ヴィントに両脇を抱えられたリリーは椅子に降ろされ、作ってあげませんよ!とそっぽを向く。
「ぐっ……お前も言うようになったな……」
「あのブイヤベースが再現できるようになるのは嬉しいですね!」
にこにこ顔のトルカの横で、
「ホント、ソレソレ」
「タノシミダナァ〜!」
…………。
「俺はずっと思ってたんですがヴィント様何なんですかこのうさぎ」
シスカが指をさす、その先にどこかで見たことがあるような二匹の喋るうさぎ。
「図々しいんですよ、勝手に乗り込んできて飯を食うわ風呂に入るわ終いにゃベッドも要求するわ……」
「うさぎ……」
ヴィントが半目で睨みつけるそのうさぎ、遺跡で出会ったうさぎに似ている……ような。
但しこちらはひよこのようなふわふわな黄色の毛並みである。遺跡で出会った灰色のうさぎとは色が違う。
「シバラク、ソトグラシガナガクテ、ハイイロニナッチャッタケド……」
「ボクタチ、ホントハ、キイロ!」
キレイ〜!カワイイ〜!ぷにっと両手?両脚?の手を合わせて二人?できゃっきゃしている。
「やっぱりお前らか!何勝手についてきてる!」
ラーニッシュの大声にも動じず、
「ボクタチモ、オシロニスミタァ〜イ!」
「タダメシ!タダフロ!タダオシロ!」
……欲望に満ち溢れたうさぎである。
まあまあ、とトルカ、
「住民が増えますよ!」
……良い事、なのか?
食料の間違いだろ、とラーニッシュの突っ込みに人権侵害…と思ったリリーだったが、何か腹ただしいうさぎなので庇わず黙っておいた。




