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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
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3 色鮮やかなあれとそれとこれ


随分と遠くに感じるようになった秋の空は、澄み渡っていて気持ちがいい。


「おーい」


川原で呼び止められてリリーは目線を向けた。


「こんにちは。シスカさん」


シスカは立派な髭の中年の男性で、ヴィントの部下だという。明らかに年下のヴィントの部下ということで最初は驚いたが、エライユでは驚く事が多くありすぎて段々気にならなくなってきた。


「何してるんですか?」

「釣りだよ。お前もやるか?」

「つ、釣り……!これが……!」


リリーは本で釣りを見た事があるものの、実際にやった事はない。


「王様また二日酔いかぁ……お前も暇だろ」


からからと笑いながら差し出された釣り竿を受け取る。


「やります!」

「おー。赤とか黄色とか、カラフルなやつが釣れたら逃がせよ。食えないからな」

「なるほど……エライユには色鮮やかなものが多いですね。そういえば王城の堀に流れる水も……橙色?ですね」

「お前飲んだ事無いのか?アレ飲めるぞ」

「えっ!?飲、ええっ!?飲め、うそぉ」


だははとシスカは大笑いした。


「いい反応するなあ。お前詐欺とか気をつけろよ」


詐欺。

……冗談?


「あっ引いてる!」


川に垂らした釣り糸が引いている。


「おっ!いけるか!」

「やってみます!」


リールを動かして引き寄せる。


「あっ釣れ──!」


じゃばっと釣り上がった魚は見事な虹色だった。


「虹色は中々無いな!運がいいぞ」


運かあ。

初めての釣りにしては幸先がいい。

釣れた魚はバケツの中を優雅に泳ぎながらぽこぽこぽこと鳴き声?を上げている。

……魚とは鳴くものだっただろうか?


「北の塔の上に桃色の雲……?がずっとありますけど、あれは何ですか?」


釣り果は四匹。

初めてにしては上出来らしい。食べられる魚は一匹も釣れなかったが。


「あれな……あそこには魔王が封印されてんだ」


持っていた釣り竿を落としかけてがしゃっと大きな音がなった。


「あ、あぁ、冗談!」

「じゃあ、ないんだな」

「……全ての星を飲むって。魔獣を生み出す、あの?」

「そんな奴がひとりもふたりもいちゃぁ困るからな。そのだと思うがな」

「……私が読んだ本には、滅んだって。勇者が倒したって」

「倒せなかったからなあ。封印されてるんだよ、あそこに。嘘だと思うなら聞いてみろ。その勇者がいるからな」

「え?」


「いるだろ。城に。今は二日酔いの王様が」


「……狼少年という物語がある。嘘をつきすぎて本当の話をしても信用してもらえなくなる話だ」


本気か冗談か見定めようとまじまじとシスカを見つめていると、いつの間にか隣にヴィントが立っていた。

ヴィント様、と二人とも反応するとシスカは焦り、リリーはますます悩ましげに腕を組んだ。


「……という事は嘘?」


リリーの呟きにシスカは慌てる。


「嘘じゃねえぞ、よし俺が魔王封印について話してやる」

「……この魚、何で鳴いてるんだ……?」


複雑な表情でバケツを覗き込むヴィントにつられてリリーもバケツを覗き込む。


「やっぱり魚は鳴かないですよね?」

「俺の話聞いてるか?」


今はヴィント様と魚の話してるので、としれっと言うリリー。


「新種かもしれないな……」

「そもそも魚なんですか?」


どうだろうな、とヴィントはシスカから釣り竿を預かると川に釣り糸を垂らした。

よしお前も釣れ!とシスカに釣り竿を押し付けられリリーはヴィントと並んで釣りをすることになった。

……騎士って釣りするんだ……いやしてはいけないということはないが、物語の中の騎士とはイメージがちょっと違う。


「いいか、話すからな、ちゃんと聞けよ」


釣りで身動きを封じてから話を聞かせる作戦らしい。

リリーは目を細めてシスカをねめつけたがお構なしに語り始めてしまった。


「……数々の星を飲み、魔物より遥かに強い魔獣を生み出し宇宙全体を混沌に陥れた魔王はここエライユを終焉の地とし、“雷神”ヴィントに手傷を負わされ、“勇者”ラーニッシュに封印されたのだった!」

「雷神……」


横を見るとヴィントが片手で顔を覆っている。


「おかしい事言うから……」

「嘘じゃねえ!?」

「嘘じゃないと仮定してですね、なんであの柔らかピンクのふわふわに封印したんですか引いてる!?」


話の途中だが釣り竿に引きを感じリリーは叫んだ。


「あ、ええっ!?」


今までとは明らかに違う強い引きに川に引き込まれそうになるものの、後ろからヴィントに腰と釣り竿を掴まれ水に引き込まれる難を逃れる。


「こ、これ、竿も糸ももたない……!」


川面に向かってぎゅっと弓形にしなる釣り竿が大型の魚である事を示している。

まずい、と思ったその時大きな水飛沫の音と一緒に魚が川面から飛び出した。


「また虹色……」


今度は巨大な虹色魚が身を捩りながら飛び出し、拍子にぶつりと音を立てて釣り糸が途切れた。

じゃばーんと再び飛沫をあげて川へ帰っていく巨大魚をリリーは呆然と見送った。


「……えーっと、嘘をつきすぎた勇者がピンクの雲に魔王を封印して虹色魚……だめ、全部混ざっちゃった……」


下唇を噛むリリーにシスカはげらげらと大笑いした。

ヴィントはまたも顔を覆っていたが、よく見ると肩が小さく震えている。


「……笑ってます?もー!」


結局何が本当かさっぱり分からない。








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