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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
秘湯!名湯!激湯!
47/64

40 夕闇


「……思ったより静かだな」

「どう思ってたんですか?」

「こう、止むに止まれぬ会議がフィーバーしてる感じだ」


止むに止まれぬ会議とは。

おそらくリリーとヴィントが篭ってるであろう寝室の扉に耳をつけてラーニッシュとトルカは様子を伺った。

部屋の中は物音ひとつせずしんとしている。

寝てるのかと思うくらいだ。


「御用改めであーる!!」

「ゴヨウアラタメ?みたいです!!」


二人はばーんと勢いよく扉を開けて押し入ると、わあびっくりした、と緊張感の欠けるリリーの返事が返ってきた。が、リリーはすぐ視線を手元に戻し、何かに集中している。

リリーとヴィントは二人ともクッションを抱えるように体を崩し、かちゃかちゃと何かを動かしている。


「何やってるんだ?」

「何って……パズルです。サイドボードに入ってましたよ」


手のひらサイズの小さなパズルは、部品を全て取り出してから箱に戻すルールのパズルだが、パズルの形に法則性があるようで正しい形ではめ込まなければ全てのピースが箱に収まる事はない。


「何だパズルって。もっと他に……あるだろ、こう」

「他に……猫を教祖にする宗教の本が入ってましたよ」

「猫を?じゃなくて、大人のオモチャとか……」


集中して聞き逃したリリーはえ?今何か言いました?と聞くのと同時にヴィントからラーニッシュにクッションが飛んだ。


「あ、これ、ここに嵌めるんじゃないですか?」


トルカの指摘にあ、そっか、とリリーは手を動かす。


「どれ、貸してみろ」

「どうしても2ピースから1ピース余っちゃうんです……」













「……じゃないだろ!なんだこれ!めちゃくちゃハマるな!?」

「はっ!?」


ラーニッシュとメイドたちの通信が終わるまでの時間潰しのはずが、いつの間にか四人で没頭している。

あたりはすっかり夜だ。

途中暗くなって無意識に照明をつける魔法を使った気もする。


「このままやってたら夜が明けそうですねー」


トルカは無邪気に笑いながら言ったがあながち冗談ではない。

四人はパズルを引き出しにしまうと温泉に向かった。





「月が四つに割れても何ともないんでしょうか……」 


潮汐とか……それ以外にもいろいろダメな気がする。

小さな月が四つも浮かぶ不思議な空を見つめてリリーは呟く。


「そういうのって魔法で何とかなるんじゃないのか?」

「うーん……」


その場合月に魔法をかけるのか惑星ゼノンにかけるのか。

ラーニッシュの問いにリリーは考え込む。


「何とか……なるような……ならないような……」


お湯で色が変わるネイルが気になるのかラーニッシュに腕を取られたまま手のひらがお湯に出たり入ったりばっしゃんばっしゃんされているし、反対の手は何故かヴィントにとられているし……自分で塗った手前仕上がりが気になるのだろう。

多分。


身動きが取れないのでお湯に身を沈めたまま呟く。


「温泉は気持ちいいし、ご飯は美味しいし、帰りを待ってくれている友達はいるし、幸せってきっとこういう事をいうんですね〜」

「スープに落ちた時はこの世の終わりみたいな顔してた癖に調子のいい奴だな」


もーブイヤベースは忘れる事にしたんです!口を尖らせるリリーにトルカが小さな巾着袋を持ってきた。


「揉むと香りが出る入浴剤ありましたよー!」

「わぁ……素敵……入浴剤もお土産に買って帰って、エライユに立派な温泉作る……!」

「ちゃんと混浴で水着なしの温泉にするんだぞ」

「何ですかちゃんとって……プールの時は水着でも良かったのに、温泉になるとどうしてダメなんですか」

「それはそれこれはこれ……水着は水着で見たいがその温泉の時の変なタオルの水着はダメだ」

「風営法違反だ。却下」


風営法……エライユにまともな法律があるとは思えないが、そこはヴィントの言う通りがいいと思う。


「そんな、混浴で水着なしの温泉なんて作ったら入った人出てこなくなっちゃうんじゃないですかー?」


どこまで狙って言っているかはさておき、トルカの突っ込みは妙に鋭い。

儂が王だから儂が法律だ!などと独裁者っぽい言い方をし始めたラーニッシュとヴィントが揉め始め、正直私を間に挟まないでやって欲しいなあとリリーは思った。

手放して。





ふ、と。





頬に一瞬、鋭いもので切り付けられたような痛みを感じた。

はっとする。

これは魔力の揺らぎだ。

誰かがどこかで、大きすぎる魔法を操ったのだ。


「……遺跡の方角か?」


ラーニッシュは遺跡のあった方を見つめ立ち上がった。


「あのおばあさんかと思ったんですけど……何か違いますね」


こめかみを抑えてトルカも魔力の感覚を追っている。

上がるぞ、とヴィントの声で全員温泉から上がる。


リリーは一度だけ振り向き、月夜を見つめた。

先程まで何の感情も伴わなかった風がざらりとした不快感で肌を撫でた。











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