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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
秘湯!名湯!激湯!
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38 ホームシック


はっと気がつくとどこをどう歩いてきたのか、ホテルまで帰ってきていた。

部屋の中で数少ないソファーにぼんやり座っている。


「外は寒かっただろう」


マグカップに入った温かいココアをヴィントに渡されてリリーは受け取る。


「あ……ありがとうございます……ごめんなさい、私、ぼーっとしてて……」


それに対しての返答はなく、テーブルがいるな、とソファーの脇を通りすぎる際にぽんと頭を指先で軽く撫でられた。

気を使わせてしまった、まだぼんやりする頭で考えながら移動してきたサイドテーブルを設置するヴィントの後ろ姿を見る。

リリーはマグカップのふちに口をつけて、ふーっと吐いた息が跳ね返る湯気の温度で熱さを計りながら飲むタイミングを見計らう。まだ熱い。


テーブルに置いた通信機がぱっと光って映像と音声が入った。


「ねーリリー!これ凄いよお〜いっぱいキラキラのやつ、あのね昨日ラジオの調子が悪くてー、それとは関係ないんだけど飲みすぎちゃってまだみんな寝てるのえー!?どうしたのその顔!ホームシックで寂しいーって顔!」


通信が入った瞬間わーっとフラーは話だし、目をまん丸にしてリリーを見た。

呆気にとられたままフラーを見つめ返す。


ホームシック。

言われてみればそうなのかもしれない。


「……そうかも。なんか、早くみんなに会いたい」


リリーがへにゃっと笑うとフラーは顔をぐしゃぐしゃにして泣き出した。


「そんな、リリー!そんなに、あ゛た゛し゛た゛ち゛の゛こ゛と゛す゛き゛ー!?」

「そ、そんなに泣かないで……」

「リリー寂しそう。ヴィント様ったらおやすみのぎゅっとちゅー、おはようのぎゅっとちゅーちゃんとしてる?」


クッションを挟んで隣に座るヴィントは表情を変えずにすっと通信機に手を伸ばした。


「通信の調子が悪いようだな。切るか」

「あーっ!待って待ってごめんなさい嘘です切らないでぇ!!」


すっかり寝ちゃったあーと画面の外からやってきたアンも椅子に座り、机に広げられたお土産を見る。

いつ帰れるか怪しくなってきたので、買ったお土産だけ先にエライユに送ったのだ。


「わーネイル。うれしい。この飾り瓶も?」


アンはまだ眠そうな目でうっとりとお土産を眺める。

ラジオラジオ!ラジオ壊れちゃったの!ヴィント様直してー!とにぎやかなフラーとネイル塗っちゃお、とマイペースなアンで画面がとても明るい。


「塗ってる間暇だからー、フラー歌ってー」

「いまマリンバしかないけどいい?」


マリンバしかないけどいい!?

どうして突然マリンバが出てきたのか、演奏しながら歌うのだろうか。

謎な状況に突っ込む前にフラーが画面から消え、ガラガラとマリンバを持ち出してきた。


「塗るか」

「えっ!?わ、えーっ!?」


アンはすでに自分の爪しか見ていないし、フラーはマリンバを奏でるマレットを構えているし、困惑している間にヴィントがネイルの容器を開けてリリーの手をとっている。


塗るって、私に!?


歌います!じゃっと格好よくマレットを構えたフラーが歌い出した。


「あるー晴れたー庭にー!」


なかなか演奏が様になっている。


「一匹のマンボウがー!」

「ぐっ……!くそっ……」

「んっ、んふ、」


なかなかの歌詞にたまらず吹き出したヴィントが手元を狂わせたのか筆先が爪じゃない指に付いてちょっと冷たい。

アンも肩を震わせて手を止めている。

笑ったら塗ってるヴィントにも、一生懸命歌うフラーにも迷惑が、と考えるとリリーは腹筋に力を入れて笑いを堪える。


「川にー!いましたー!」


川はダメだろ……という小声のヴィントの突っ込みが余計に腹筋を刺激する。


六本のマレットを器用に操って奏でられる旋律と独創的な歌詞は集中すれば集中するほど笑いが込み上げる。

片手分が終わり、反対の手を差し出したがリリーは震えながらもうダメです……とヴィントに囁いた。

もう少し……と返したヴィントは苦悩の顔だ。

ひぐっ!と笑いすぎて引き笑いになっているアンはもうネイルが塗れない。


「あーあ!そのボブキャット!耳がふわふわ〜」


じゃじゃじゃーん!!と余韻を残して歌と演奏は終わった。








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