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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
秘湯!名湯!激湯!
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34 やっと温泉


「おかしいと思ったんだよな、あのうさぎども!」


追い縋る魔物や野獣の類を千切っては投げ千切っては投げ……這々の体で森を駆けずり回り、ようやく落ち着いた頃ラーニッシュは酷く憤慨しながら言った。


「この匂いに気づいて一緒に居ればただでは済まないと思ったんだろうな」


肩をすくめながら言うヴィントに、リリーも顎に手を当てて思案顔で言った。


「あのうさぎ……とおばあさんは結局魔物だったんですかね?」


獣道が途切れ、やっと人の手で整えられた砂道に出る。

しばらく歩けば街まで続く石畳の街道が見えてくるはずだ。


「そんな事よりも……ぼくはおなかが空いて……ヘトヘトです……」


がっくりと肩を落とすトルカの背を軽くさすりながらメイドたちに何か食べるものを送ってもらえば良かったかな、とリリーは考えた。








市長に面会をとりつけ待っている間、やめろ来るないいや行く話がややこしくなるからやめろいいからまかせろ、とやや体術の入った暴力的な話し合いをするヴィントとラーニッシュの横に座ったリリーは隣のトルカに話しかけた。


「最初はびっくりしたけど、最近私も慣れてきたなー」

「そうですよー。慣れは大切です」


どうしても平和的な話し合いを切り出す事ができない二人と同じ長椅子に座ったリリーとトルカは振動で腰がびょんびょん跳ねる。

どすんばたんと高級長椅子が跳ねる音は、壁一枚向こうの市長室まで聞こえているような気がする……ぜったい聞こえてる。

がちゃりとドアが開き、お入りください、と招かれると心得たとでも言うように流れるような動作でトルカがラーニッシュを長椅子に押し付けた。

リリーは出来るだけ上品ぶった顔でひらひらと手を振りヴィントを送り出した。

ドアを開けた秘書の顔が若干引き攣っていた気がした……見ない見ない。


「やめろ離せ!儂も交渉するぞ!」

「パウチのステーキ!ステーキ!メイドのみんなに送ってもらいましょ!」


リリーの提案にぴたっとラーニッシュの抵抗が止まったので追撃する。


「サーロインですよ……」


トルカの目もきらきら輝いている。

……トルカの分も送ってもらおう。


「ヴィント様のいない間に食べるステーキはさぞ美味しいでしょうねー……」


ちらっと横目でラーニッシュを見るとすっと居住まいを正して座り直した。トルカも横にぴっと座る。


「……それで手を打とう」


……なんだか最近変な事ばかり得意になってる気がする。

リリーはほうと息をつきながら、


「人生って奥深いですねえ……」


悩ましげに言った。

いいから早く!と野次が入った。







どうか内密に、と四人が案内されたのは展望台と同じくらい高さのある時計塔の内部だった。


「祭りの期間中は毎晩花火を上げるものですから、花火がよく見えるようにと時計塔を模したホテルなのです。一般には公開していない宿泊施設ですので……」


細身の煉瓦造りの時計塔内部とは思えないほど広く、白と赤を基調としたホテルは荘厳で美しい。

市長が部屋の鍵を開けると、


「わあ……!」


リリーは市長の前だと言う事も忘れて感嘆の声を上げた。

部屋の内部は落ち着いたアイボリーを基調にしているが、正面の大窓から溢れる陽光で部屋内部が光り輝いている。

ゆっくりなさって下さい、と市長が部屋を出るか出ないかのタイミングで部屋に飛び込もうとするラーニッシュとトルカの首根っこをヴィントが掴んだ。

もー!とリリーは抗議する。


「部屋に入る時は靴を脱ぐって言われたじゃないですか!」


てへへと照れながら靴を脱ぐトルカとばつが悪そうに靴を脱ぐラーニッシュは部屋の床に足をつけると


「わー!」

「おお!」


と声を上げた。

そ、そんなにですか……とわくわくしながらリリーも靴を脱いで床に足をつける。


「こ、これは……!」


毛足の長いカーペットの感触を楽しみながら足を動かす。暖かい……


「全室この床暖房だそうだ」


入室したヴィントも心なしか嬉しそうだ。


「すごい!おっきい鏡!」

「ベッドもいっぱいですよ!」

「クッションが200個ある!」


流石に200個はないだろうが、これでもかというほどクッションで溢れてるのに全く床が狭くない。

それほどまでに広い。

興奮して部屋を探検して回るラーニッシュとトルカとリリーは、ひとしきり歩き回ると大窓の前に佇むヴィントの横に並んだ。


「街が一望できるな……」

「夕陽がきれいですー!」

「苦労した甲斐があったというものだ!」


三者三様に感想を述べる横でリリーはぼそっと呟いた。


「……でも市長さん、私たちのことほんのりブイヤベースの匂いって思ってただろうな……」


あーっと頭を抱える三人に余計な事を言った!とリリーは焦りながら


「お、温泉!本物の温泉入りましょ!確か部屋についてるって……!」


と言った。

おんせん!!

ラーニッシュは叫ぶと部屋の奥に消えた。

追うトルカの声が遠くに聞こえる。

王様ぁー!全裸早いです!

……全裸早いです?

リリーは追うのをやめた。


「あっ!リリーちゃん!浴室ふたつありますよ!ぼくたち反対入りましょうね!」


思わぬ朗報にリリーはぱっと顔を明るくする。

ヴィントと別れて部屋の奥の浴室に向かった。






「はーーーーーー体を洗う事にこんなにも幸せを感じるとは……」


魔法でものすごく泡だてまくった石鹸で作った泡の塊に全身を突っ込み、頭だけ上に出したリリーは悦に入る。

髪も泡まみれにしたので顔以外は全身真っ白だ。


「これでブイヤベースともお別れですね」


レシピはちょっと知りたかったなあ…と呟くトルカも隣で泡まみれだ。


「どうしてライオンの口からお湯が出てくるのかしら……」


金ぴかのライオンの顔を模った像から温泉のお湯は溢れ出ている。

あとで触ってみましょうね!と楽しそうに言うトルカと泡を流すと温泉に浸かった。


「王様たちの声全然聞こえませんね……」


リリーは肩まで湯に浸かってぐにゃぐにゃに解けている。少し熱いがいつまででも浸かっていたい。

ブイヤベースとは大違いだ……


……洗い流してもなかなか思考から離れてくれない。


「ドアの向こうは露天風呂みたいね…」


入ってみたいが、混浴であることが注意書きに書いてあるので躊躇する。


「タオルみたいな水着ありますよ」


専用の水着を着衣して入る旨も書いてある。

ドアの前の籠にタオルのような生地で出来た肩紐のワンピースがあった。


「うーん…」


ワンピースを広げてリリーは悩んでいるとせっかくだし入りましょうよおとトルカから肩を押される。

まあ水着だと思えば……


「入っちゃう?」

「入りましょ!」












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