28 いざ温泉
リリーの魔力はクルカンと同等か、それ以上かもしれないと主が言った時は半信半疑だった。
むしろ、惚れた弱みで多少贔屓目に盛っているのではないかと思ったほどだ。
それがどうだ。
稲妻が光の柱ともとれるような輝きを伴って王城を揺らしオルフェを下した。
オルフェは魔法耐性が強く、並大抵の魔法では体に傷一つつかないだろう。
駆けつけた時には完全に失神しているオルフェを見てとんでもねえ、とシスカは思った。
魔法封じの首輪にも物怖じず、人工魔獣相手に一歩も引かない胆力。
いつだったか、リリーの事を箱入り娘と揶揄した事がある。
多くを語らず、温室育ちのような純真さで己の過去を受け入れ他のメイドたちも包み込んでみせた。
今回の功労賞は間違いなくリリーだ。
何か労ってやれればいいが……突然金でも渡せば何か事案だ。どうしたものか。
見ればリリーはきゅっと口を結んで息を飲んでいる。
「そ、そんなに悩ませてしまいましたか……?」
土産は何がいいかと聞かれたところだった。
妙に察しのいいところがあるリリーを悩ませてしまったようだ。
「……俺らの事は気にすんな。何か美味いもんでもあればそれで」
「好みの味とかありますか?」
生真面目にメモを取っているところもらしいと思う。
濃い味、辛い味、酒に合いそうな感じ、なんて言った事をふんふんと聞きながら記している。そのうちトルカに呼ばれて向かっていった。
「三日分ですからね、たくさんですよ」
トルカが円柱型の缶をひっくり返すとバラバラとお菓子が大量に机の上に散らばる。
いまいち状況が飲み込めずリリーはぱちぱちとまばたきを繰り返した。
「……おやつ?」
「そうです!道中おなかが空いたら大変です!」
力説するトルカにリリーはふふっと笑ってテーブルのお菓子をつまみ上げた。
「そうだね、それは大変」
「かばんに入る分だけにしなさい」
紅茶を淹れて持ってきてくれたヴィントがトルカを諭すとええーっと落胆の声が上がる。
トルカは既に両腕いっぱいにお菓子を抱えていた。
宇宙空間に出ましたよ、とヴィントの部下アレクに声をかけられてトルカはお菓子を机に戻し窓に齧り付く。
「うわー!本当に真っ暗!すごい!」
リリーもトルカに倣って窓にくっついた。
「本当……来た時はこんなにしっかり外を見なかったな……」
「見なかったってお前……三百光年何してたんだ」
後ろから来たラーニッシュに聞かれリリーはうっと口を手で覆う。
「ずっと寝ちゃってたかも……」
寝てた!?と方々から驚きの声が上がり肩身が狭くなる。
「実質五百年くらい寝てたんじゃないか?」
「や、そんなはず、わりとすぐ……着きましたよ!?」
ラーニッシュに揶揄され反論する。
あの時は確かに、すぐに寝てしまって……魔法で出来ていたというリリーの乗ってきた船には他に乗客がなく、証明しようがない。
「五百年も寝てたらおなかすいちゃいますよね?」
トルカの問いにそれはそう……と思わなくもないが、真相は謎である。
というか、五百年も寝てたらあちこち痛めそうだ。
お菓子をありったけ鞄に詰めてヴィントに叱られるラーニッシュのやり取りを眺めながらリリーはテーブルに戻った。
「航路は見ますか?」
ヴィントの部下ブラウに促され紅茶を飲みながら立体映像を見る。
映像には点で表された船と線で導かれた航路が表示される。
「普段はこんなにエライユ付近に船はないんですけどね」
点に触れるとその殆どが国際警察の船であることが表示される。
「我々の船はこれです」
自船の点に触れると船員の名前が表示された。
「私の名前もある!」
「船の名前と出国名、目的地、乗組員の名前が表示される規定なんですよ。他の船とも情報は共有しています」
「ナルフに向かう途中、エライユ行きの商船が妙だったんでな。問い合わせたら実在する船じゃなかったからな。その時点で警察に通報して俺たちは戻ってきたって訳だ」
シスカの説明にリリーも納得する。
オルフェの船は商船と偽装してエライユに入り込んで来たのだ。
「エライユは田舎すぎてそもそも行商船すら来ないからな!」
だははと笑うシスカに反応しづらい。
「今時は通信販売が主ですから……船が来なくても困る事はそうないんですよ」
アレクにそうフォローされた。




