27 恋占いのネイル
「恋占いのネイル?」
真剣顔でリリーの手と向き合っているアンに首を傾げてみせる。
「お風呂に入るとね、色が変わるの!」
「一回きりですぐ取れちゃうネイルなんだけど」
「両思いだと赤で、片思いだとピンク、脈ありは黄色、相手には他の好きな人がいますだと紫色!」
椅子に座って大人しくネイルを塗られているリリーを取り囲んでメイドたちはわちゃわちゃ話している。
リリーは感心してアンに塗られていく爪を見つめた。
見た目は透明に少しピンクを足したようなネイルだ。
それが風呂に入ると色が変わるのだという。
「まあお湯の温度で色が変わるんだけどね」
身も蓋もない。
「でもそれがすっごく可愛いの〜!」
「これでおしまいだから、ぜったいお土産に買ってきてね!」
「最後の一回私に使って良かったの?」
もちろん!と皆笑顔だ。
「温泉旅行だもんね〜オシャレしないと!」
「新調コート!同色パイピングでちょっとエレガントなお姉さん風でーす!」
エレガントなお姉さん……コンセプトに若干不安に感じるものの、新しくリリーの為に作られたミルクホワイトのケープコートは暖かそうでこれからの季節に丁度いい。
「何かあったらすぐ通信入れてね。必ず助けになるからね」
あれよあれよという間に決まった温泉旅行。
エライユから程近い惑星ゼノンという所にあるらしく、船で向かうことになる。
送りと迎えはヴィントの部下たちが船を航行させてくれるということでリリーは旅支度を整えた。
てっきりヴィントは来ないのかと思いきや、「放っておくと三日が三ヶ月になる可能性がある」としっかり同行してくれる事になった。
見知らぬ土地で三ヶ月……しかも王と一緒では爆発と崩壊の危機が隣り合わせに決まってる。
リリーは心底安心した。
リリーはメイドたちに着るのを手伝ってもらってコートを羽織る。
回って回って〜とのせられてくるりと回る。
ひらりと裾を翻したコートは軽くて動きやすい。
へへへと照れ笑いをするとメイドたちはかわいいー!と拍手した。
「……もういいかー?さっさと出発するぞー」
ラーニッシュの覇気のない呼び声にはっとして振り返ると一緒に行くラーニッシュやトルカ、ヴィントにも見られていた。
リリーはす、すみませんと慌てて駆け寄った。
「リリーの髪型見て!気合い入れて編みこみました!」
「コートの下も可愛いの!」
「ネイルも見て!」
わあわあ言い募るメイドたちにラーニッシュがぼそっと言う。
「儂より懇切丁寧に仕立てられとる…」
「あーん!違うの!愛のかたちが違うのよお!」
王様のことも大好きだからああ、ね?ね?とメイドたちに揉みくちゃにされてラーニッシュはまんざらでもない顔をした。
「前回のオルフェの事もあって国際警察が取り締まり強化で警察の航行数が増えている。道中もエライユも安全だろう」
ヴィントはそう言うと手を差し出した。
リリーは手を乗せてタラップを上がる。
「……コート、よく似合っている」
「あ、ありがとうございます!……ヴィント様も、グレーのコートかっこいいです」
ヴィントもいつもの騎士服ではなくライトグレーのコートを羽織り、装具も少ないせいか細身に見える。
見慣れない姿のせいか隣に並ぶと落ち着かない。
「気をつけてー!楽しんできてねー!」
大振りで手を振りながら見送ってくれるメイドたちにリリーも笑顔で手を振り返した。




