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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
30/64

23 あなたの方かもね


リリーは城内に戻ると足早に回廊を進む。

歩きながら魔法で体中の雨水を飛ばす。


城門付近で大きな音と噴煙が上がる。北の塔付近では時折雷鳴が響き渡った。

城門ではラーニッシュが、北の塔付近ではヴィントが戦っているのだろう。


「リリー」


こっちだ、とシスカに呼ばれ広間に入る。

中ではオルフェの部下達が縄で拘束されて座り込んでいた。


「王様が戻ってきて、」


そう聞くや否やああ、暴れてるな確かに音が凄いとシスカは苦笑する。


「こいつら妙な事を言い出してな……」


どうもオルフェたちは惑星ナルフにヴィントたちを誘い出し、その間に人工魔獣を使ってラーニッシュを倒す計画だったらしい。

そのラーニッシュは行方不明、ヴィントたちは飛んで帰ってくると計画倒れではあったが。


「どうしてそんな事を?」

「何でも魔王の封印を解いて、違う所に封印し直すつもりだったらしい」

「……何ですって?」


シスカも怒り……というより困惑顔だ。


「魔王って……存在してるだけで一瞬で星を滅ぼすって聞きましたけど……そんな、一度封印を解いたら星を滅ぼす魔王に巻き込まれて……死んじゃうんじゃないかしら…………」

「……そこまでは知らねえよ、俺たちはとにかく、ラーニッシュの奴を殺せとしか、」


オルフェの仲間が呟くと殺す!?捕まえるとかそういう話じゃなかったのか?命を取るなんて聞いてない!と仲間同士で言い争っている。


「お前ら知ってる事は全部話せよ。今からお前らを突き出す国際警察ってのはな、嘘ついたり黙秘したりすると刑期が伸びるんだよ」

「う、嘘だ!」

「嘘じゃねえよ俺は元警察官だ」


と言うシスカに驚いてリリーはシスカを見つめる。

冗談だろうか?シスカはなかなかに読めないところがある。


「私、ヴィント様の所に行きます」

「待て……いや、うーん、ちょうどいいか」


シスカは少し悩んでちょっと秘策な、とリリーに囁く。


「……分かりました。行ってきます」



広間を出ていく途中にシスカやオルフェの部下たちの衣類からまだ少し濡れている雨水を魔法で完全に取り去った。


「……あの人何で俺たちにも優しいんだ?」


思わず呟くオルフェの部下のひとりに、


「……惚れるならやめとけ、親鳥おっかねーぞ」


シスカは腕を組んで忠告した。




北の塔まで飛んでいくと塔にもたれかかるようにぐったりと座り込んでいるヴィントが見える。

近くに人工魔獣だろうか?体から煙を上げて倒れている大型の獣は完全に事切れている。

ヴィントに向かい合うようにオルフェが立っていた。


「何故こんな事をするの?」


リリーはヴィントに駆け寄って側に膝をつく。

リリーの問いにオルフェが肩をすくめた。

男に擦り寄って生きてる女には分からねえだろうが、とオルフェは言う。


「力さえ……力さえあれば俺たちは惨めに生きなくてもいい」


リリーは、うーん、と眉間に皺を寄せる。


「それを言われちゃうと、私は女で、あなたは男で産まれたから対話できませんって言われてるみたい」

「対話する必要があるか?」


オルフェは自身の剣を引き抜く。

リリーはヴィントに覆い被さるように抱きついた。


「ここで纏めて死ね」


オルフェが距離を詰めるように一歩動くと足の裏に僅かな振動を感じた。剣を持つ手から指先にも感じる。


「……?」

「──経験が足りないのはあなたの方かもね」




──いいか、ヴィント様の剣は特別製だ。最大限魔力を込めてもそうそうぶっ壊れたりしない。お前は雷魔法で相性がいい。もしヴィント様に追いついたら……




さっとヴィントから身を離したリリーやヴィントの周りから小さな稲妻がほとしばっている。


オルフェ自身に感じた振動が振動ではなく、ヴィントの刀身から溢れる雷からくる痺れだと気がつき、リリーがヴィントに覆い被さっていたのは剣に雷魔法を最大限送り込んでいたのだと気がついた時、すでにヴィントはオルフェに向かって剣を振り抜いていた。


轟音と白く輝く雷撃でオルフェは吹き飛ばされ、ちくしょう、という呟きはかき消された。






大丈夫ですか?と心配そうにリリーはヴィントの顔を覗き込んだ。

ああ、と返事を返すもののヴィントは動かない。

もしかしてどこか怪我をしたのでは、と不安が顔に出るリリーの髪を一房手にとって漉く。


「あっ……結構、泥、跳ねたから……」


言った後に恥ずかしくなってくる。

雨水を落とす事に夢中になっていたが、泥汚れまで頭が回っておらず結構酷い格好のはずだ。

ヴィントは白いグローブを外すと人差し指の甲でリリーの頬を拭う。


「ほ、本当に大丈夫なんですか?」


落ち着きなく目を泳がせたリリーはヴィントの肩にそっと手を触れる。

ん、とゆっくり身を起こしたヴィントに目を合わせられず、雨止みそうですね、と小声で呟いた。











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