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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
29/64

22 ここでの暮らしが大切だから


ざばざばと水をかき分ける音がする。


「魔物が……」


壁を登ろうとしている。


「……あれは人工的に作られた魔獣だ」


シスカに殴られてすっかり大人しくなったオルフェの部下のひとりが呟く。


「お前それ言うなって……!」


言うなり隣の仲間に捕まれた男は腕を振り払うようにして言う。


「うるせえよ!俺は……その……そこの女に助けられたから……」


リリーは軽くため息をついた。

仲間といえど統率が取れた集団という訳ではないらしい。


「それであんなに硬いのか……」


ヴィントは険しい顔をする。

魔物──魔物改め人工魔獣は魔法の通りが悪く、ヴィントの剣でかなり深く刺さったはずなのに対したダメージを感じられない。


リリーは壁を登ろうとしている人工魔獣の足元に雷魔法を放った。

人工魔獣はずるりと足を滑らせてまた水に落ちる。


「……いけそうですね」


リリーはヴィントの顔を見た。


「本気か?」

「お任せください!」


リリーは握り拳を作って自信満々に笑ってみせる。

ヴィントはリリーに自身の外したマントをかけると


「問題があったら城内に逃げ込んでいい」


と言い、


「シス、そいつらは城内に連れて行け。聞き出せる事がまだあるはずだ」


と続けた。

ヴィントはすぐに飛び上がってオルフェを追う。

マジか、とシスカ、


「お前ひとりで大丈夫か?」


とリリーに問う。

リリーはシスカにも拳を見せてうん、と頷いた。

人工魔獣は体は大きいがそう身体能力は高くないらしく、登りかけたところを魔法で攻撃し続ければ問題ないはずだ。


「まずは体を拭いて。それからしっかり尋問頼みますね」


リリーに背中をぽんと叩かれてシスカは頭を掻いた。











降り立ったばかりのエライユはとても眩しくて、何度もまばたきをした。

見渡すばかりの緑の大地、あちこちに花は咲き乱れ空は淡く澄んでいる。

白亜の石造りの王城内は至る所から日差しが入り込み、光が反射して輝いていた。

回廊を歩くとどこからか入り込んだ花弁がふわふわと舞った。


「ここで働くにはふたつ条件がある」


そう王は言った。

リリーはこくこくと頷くとメイドたちがわあっと駆け出してきて飛び付かん勢いでリリーを取り囲んだ。





…ここでの暮らしが大切で、守りたくて必死なのだと言ったら皆笑うだろうか?






城壁を登りかける人工魔獣の足元を狙って何度も魔法をかけるリリーは、顔にかかる雨を袖で乱雑に拭いながら考えた。



「なんだあれ、でっかいな」


いつの間にか隣に並んでいた男にリリーは目が溢れるかと言うくらいまん丸にして驚いた。


「お、お、お、お…………」

「お客さんなんですか?ちょっと問題ある感じですねー」


さらに隣に並んだトルカが首を傾げて言った。


「おお王様!?お戻りで!?」


トルカも、と言うと妖精の少年はにこにこしてただいま戻りました!と元気よく返す。

仁王立ちでふんぞり返って腕を組んだ王──ラーニッシュはふふんと言う。


「分かってる、皆まで言うな。奴が城を襲っているのだな?」


いやそうだけどそうじゃないような!?


「英雄は遅れてやってくるのだ」


ラーニッシュが背負っていた大剣を構えると強い魔力の流れが起き、ぶわりと髪を巻き上げ地面の雨水も吹き飛ばす。


「いや〜間に合ってよかったです!王様、リリーちゃん達が精霊の祝福を受けたのが羨ましかったみたいでー」


と言うトルカ、強すぎる対流がリリーのマントやラーニッシュとトルカの外套をバタバタと揺らす。


「火の精霊の祝福を貰ってきた!一発目を特別に見せてやろう」


自慢げに言うラーニッシュの刀身が赤く輝いている。


「あ、あの、あの、その、わたくし恐れ多くも進言したいことがございまして」

「どりゃあああっ!」


リリーが言いかけるもラーニッシュは大剣を振り下ろし一刀両断した。

轟音の後城門の一部がガラガラと崩れ落ちる。


「む、外した」

「加減って言葉知らないの!?」


リリーが思わずラーニッシュの外套に掴みかかって言うとトルカが後ろでけらけら笑っている。


「王様、また城門壊しちゃったー!」



……また。

と言うことはしょっちゅう破壊しているのだろうか。

リリーはぶんぶんと首を横に振ると


「あの!ここはお任せしても良いでしょうか?」


と言った。

城内の皆やオルフェを追ったヴィントも気になる。


「良いぞ」

「……景観維持を心がけて?」

「けいかんいじ?」


……初めて聞く言葉みたいな顔をしないで欲しい。


「修復可能の範囲内でお願いしますという意味です」

「なんかお前ヴィントみたいだぞ」


リリーは手で顔を覆って上を向いた。

今度ヴィントに王を上手く吊るし上げられる秘訣を聞こう絶対とリリーは心に決めた。


「任せましたからね!」


そう言うとリリーは飛び上がって城壁を超え、城内に戻った。










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