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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
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19 次はぎゃふんと


願った通り抜け出せたものの、リリーは内心焦った。

懐中時計の話を持ち出し、自室に呼び出して少人数ずつ倒す予定だった。

自室には剣がある。

魔法が無くてもなんとかなる、と思っていたものの……監視役の男はあまりにも巨大だ。

長身のラーニッシュより縦も横も大きいのではと思うくらい巨漢だ。


……剣通らなくて折れちゃったらどうしよう

女性でも持ちやすいようにと今は亡き父がリリーの為に用意してくれた細身の剣では薄皮一枚切れるかどうか……

不安要素しかない。


「早く歩け!」

「あっ!」


男が後ろから鎖を引いた。リリーはちょっと!と抗議する。


「別にのんびり歩いていません!」


男は照れながら「ちょっとやってみたかったんだよな……」と鼻の下を擦りながらいいなこれ、と言った。


う、うわぁ……嫌すぎる。


絶対ぼこぼこにしてやる!決意を新たにリリーは足取りを早くして自室に向かった。

と、後ろでドサリと大きな音がしてリリーは振り返る。


「今度は何!?」


振り向くと巨漢の男は倒れて気絶していた。

気絶した男の足元に立っているのは──


「あ……ヴィント様……!」

「リリー!」

「もうダメかと……よかった……」


ヴィントはリリーに駆け寄ると首に触れる。


「これは……魔力封じ……オルフェか!」


オルフェ?主犯格の男の名前だろうか。


「みんな捕まっちゃって……」

「部下を向かわせたから大丈夫だ。一旦移動する」


ヴィントはリリーを引き寄せて転移した。


転移した先はヴィントの部屋だ。

一度入った時は爆睡してしまったし、二度目は魔法を封じられている。

失態ばかり目撃されていてリリーはしゅんとした。


「怪我はないか?」

「はい……それはもう……」


すこぶる元気で?いや、憤ってます、かな?とリリーは言い募る。


「助けに来るのが遅くなってすまない」


椅子に座るよう促され、


「……少し手荒だが」


首輪を外すからと髪がかからないよう指示される。


「大丈夫です!お任せコースで!」


……何だかよく分からない返事をした気がする。忘れて欲しい。


剣を抜いたヴィントが目を瞑って、とリリーの瞼を手で伏せさせ少し上を向かせる。

首輪に剣先が当たる感触がして、ガキンという金属音と僅かな衝撃の後首輪は崩れ去った。

先程とは違う、指先まで魔力が通るような感覚がしてリリーは手を握ったり開いたりする。


「大丈夫です、ありがとうございます……!」

「君はここに──」


残るよう指示する前にリリーは魔法で自分の剣を呼び出すと腰に装備している。


「次はぎゃふんと言わせてみせます」

「……いつも通り、前に出過ぎないように」


はい!とリリーは元気よく返事をしてヴィントの後に続いて部屋を出ようとした。が、立ち止まったヴィントの背中に突っ込んでしまう。


「ご、ごめんなさい……」


いや、すまない、と踵を返したヴィントは棚の引き出しを漁る。


「今はこれで」


取り出したキャンディーをリリーの口の中に入れた。

リリーは口を抑えて味を堪能する。


「頑張れそうです!」


拳を振り上げて揚々と言った。








「遅かったな。女と逃げちまったのかと思ったぜ」


再び謁見の間。

メイドたちを捕らえていた檻はすでに無くヴィントの部下たちに助け出されている。


「何しに来た」

「別にいいだろ。古巣に戻るくらい」


ヴィントの問いに答える男──オルフェは昔エライユにいたことがあるのだろうか?考えながらもリリーは周りを慎重に気を配る。

オルフェの仲間が少しでも動いたら威嚇攻撃をするつもりだ。

オルフェは続ける。


「なあ?少しからかっただけだろ?そう怒るなよ。俺たちはしばらくここにいるぜ」


からかうのが目的なだけで檻に入れられたり鎖で繋がれたりしてたまるものか。

リリーはむっとして唇を引き結ぶ。


「船に戻れ。お前たちをここに置く気はない」


ヴィントは言いながら剣を抜く。

リリーも少し下がって臨戦態勢に入った。

周りの男たちが武器を手に取るも


「やめとけよ。そいつは“雷神”の異名をもつ騎士サマだ」


骨は拾わねえぞ、とひらひらと手を振ってみせるオルフェ。

雷神?あいつが?騒めきながら周りの男たちは一、二歩下がる。


「ラーニッシュが戻る頃また来るぜ」


謁見の間から悠然とした足取りで出ていくオルフェに部下たちが慌てて着いて行った。



「行っちゃった……」


男たちの背中が見えなくなるとふう、とリリーは一息ついた。

リリー!とヴィントの部下たちの後ろで大人しくしていたメイドたちが駆け出してくる。

抱きつかれもみくちゃにされながらリリーは考える。

……あの人たち、本当に何をしに……?

剣を鞘に戻すヴィントも険しく思案顔だ。


「あの人たち、王様にここに住みたいって言いにきたのかな?」


えー!?住む人が増えるのは嬉しいね!などと盛り上がるメイドたちにリリーは脱力した。


「……あの人たちが怖くないの?」

「ぜーんぜん!」


ねー?と言い合うメイドたち。

ヴィントの部下たちが微妙にのけ反って引いている。

あっでも、と慌てて


「リリーが嫌いなら追い出しちゃお!」


リリーは首輪とか好きじゃないもんね!などと言っているが問題はそこではない気がする。


「雨、強くなってきたね……」


メイドたちから体を離したリリーは思案顔のヴィントの横顔を見つめながら呟いた。









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