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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
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18 大事故事故渋滞


王様を探してくるね、とほかのメイドたちと別れリリーは走り出した。

城内にはすでに居らず、メイドたちも「ちょうちょでも追いかけていっちゃったのかなあ?」などと呑気な事を言っていた。


「どこなの……」


中庭も見て回るが姿はない。

残るは北の塔……ピンクのゆめかわ周りが未捜索だ。

北の塔まで足を伸ばそうかと逡巡していると雨が降ってきた。


「雨……」


降り出してくればさすがにラーニッシュも戻ってくるだろう。

リリーは城内に戻る事にした。







「えっ?」


何やら騒がしく声を上げているメイドたちに気がついてリリーは王座のある謁見の間に足を踏み入れる。

すると状況が理解できずに間の抜けた声をあげてしまった。


「リリー!大変よ!」

「この人たち特殊性癖よ!」


やいのやいのと声をあげるメイドたちは何故か金属製の巨大な鳥かごのようなものに全員囚われている。

謁見の間には少々……だいぶガラの悪そうな見たことのない連中が集まっていて、王座に座るのもラーニッシュではない。


「と、特殊……え?」


ばちんと弾ける音がしてリリーは身を固くする。

──攻撃されてる!


「早いな……無詠唱魔法か」


魔法の発生源は王座の男で、無詠唱で魔法を飛ばされているのが分かる。

二十代前半だろうか、えらく不健康そうな白い肌、銀の髪に赤銅色の鋭い瞳。

お世辞にも人の良さそうなタイプには到底見えない。


「な、な、何するんですか!?」


語気を強めて抗議する間もばちん、ばちん、と男の攻撃がリリーの魔法に弾かれて飛び散る音がする。

王座の男はリリーの目の前までやってくるとまじまじと見つめる。 


「……反撃のタイミングも的確、威力も俺以上とはな……お前本当にメイドか?」


男以外の仲間たちからも目線を投げかけられてリリーは怯んだ。


「だが経験は足りないみたいだな」


男はいきなりリリーの首を掴んだ。

てっきり魔法でくるかと思ったリリーは判断が遅れ背筋にぞわりと悪寒が走る。


「──ッ!?あ、あれ!?」


きゃああとメイドたちから悲鳴が上がる。

リリーも顔を青くした。

感じたことの無い不快感。

体内にある魔法の源、魔素が首元に収束する感覚と……


「羽付き?」

「マジか。有翼種だろ?初めて見た」


男が首から手を離すと首に金属製の首輪が巻き付いていた。だが問題はそこではなく、首輪が巻き付いてから一切の魔法が使えなくなっている。

おまけに自身にかけていた翼を収納する魔法が強制的に解かれていた。


「魔力封じの土魔法を受けるのは初めてか?」


首輪に繋がれた鎖からじゃらりと音が鳴る。

な、なんでこんな、とリリーは言いかけてきゃぁあー!とメイドたちから黄色い声が上がった。


「性癖の大事故!」

「大事故事故渋滞!」

「性癖が渋滞してる!是非おもてなしさせて!!」


……性癖が大……なんて?


ここからだーしーて!と興奮して檻をがっしゃんがっしゃんさせるメイドたちにうるせーぞ!と男の仲間たちから怒号が上がった。


「ラーニッシュはどこだ?」

「……部下と会議中です」


部下。適当に答えたが王の行方は誰も知らないようだ。


「お前らときたらあいつは虫追いかけてっただの部下と山登りだの適当言いやがって」


仕事の出来ない愚図どもが、と吐き捨てるように言う男を見てリリーはあぶら汗をかく。


囚われたメイドたち、魔法の使えないリリー、行方が分からないラーニッシュとトルカ。外出しているヴィントたち。

あまりに悪手すぎる。


そうだな……と男は言う。


「俺はあいつに用がある。奴が戻って来るまでお前がもてなせ」


じゃら、と首輪についた鎖を引く男とにやついている仲間たちに怯えを悟られないよう、リリーは腹にぐっと力を入れて睨みつけた。






食堂に案内します、と渋々男たちを連れ出したリリーの頭の中は疑問でいっぱいだ。

ラーニッシュの客?客なら客で何故メイドたちを捕らえたのか。

特に危害を加える訳でもなく、客と呼ぶには横暴すぎる。


幸い食事の準備は事前に終わっており、魔法を使わなくても問題ない。……不届き者に出す為の料理ではない所が非常に悔しい。


「……辛いものでも盛ってやろうかしら……」

「おい、変なモノ入れるんじゃねえぞ」


ぎゃっ、とリリーは飛び上がった。


「い、入れませんよ!」


厨房まで見張り役がひとりついてきていた。

首輪に繋がれた鎖は魔法でできているのかどこまでも伸びる。

動くのに問題はないが、屈辱な事この上ない。

男たちの人数は六人。

……こうなったら各個撃破か。

覚悟を決めるしかない。

リリーはワゴンに前菜の皿を乗せながら考えた。


皿をテーブルに乗せながらリリーはリーダー格の男に向かって話しかけた。


「……私、この春からここで働き始めたんです」


あ?と不躾な目線を向ける男にリリーはにっこり笑って続ける。


「ここ、結界があって自由に出入りできないじゃないですか?だから魔術師様から貰った時渡りの懐中時計でここに来たんです」


嘘ではない。これで食いつくか。


「……魔術師?」

「はい。クルカン様って言うんですけど……」


男は少し考えて言う。


「何だあいつの子飼いか。ロマネストから来たのか」


──ロマネスト……!

飛び出した単語に驚きを見せぬよう何ともない風を装う。リリーは質問には答えず、笑顔でお酒もいかがですか?と勧めた。

ボトルを開けてシャンパンを注ぐリリーに男は話しかける。


「お前、時計か何かで時渡りしたって言ったな。それここまで持ってこい」


リリーはぴたりと手を止める。


「今ですか?」

「早くしろ」


男はおい、と一人監視役を呼びつけるとリリーを食堂から出した。







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