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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
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16 そろそろ辞世の句が必要かも


冬が近づくと朝晩は寒い。

ベッドの中に冷たい冷気を取り込まないように、掛け布団なら毛布が最適だ。

どこか動物を思い起こすような滑らかな触り心地の毛布は、柔らかなブランケットとは少し違った目の詰まった毛並みで外気を取り込まず暖かい。


どうしても肌あたりの良い夏のガーゼ地のタオルケットを手放せず、ブランケットを重ねて誤魔化してきたリリーは決めた、やっぱり毛布を使おうと心に決めて現実に引き戻される。


……私、ベッドに毛布なんか、


潜り込んで暖かさを堪能している場合じゃなかった。

慌てて起き上がり昨日の記憶を手繰り寄せる。


訓練所……食べ途中の夕飯…………

リリーは頭を抱えた。


「そろそろ辞世の句が必要かも……」


水飲み鳥のおもちゃのごとくぺこぺこと頭を下げて誠心誠意謝るリリーに、ヴィントは朝食を食べていくように勧めた。

どことなく顔色が悪いように見えたのは部屋の主を追い出してのうのうと朝まで寝入っていた奴のせいかもしれない。


「紅茶で大丈夫ですか?」


椅子に座ったリリーの元にポットを持ってやってきたのはヴィントの部下ブラウだ。

メイドたちからは栗毛の可愛い方がブラウで、緑髪の可愛い方がアレクだよ!と髪色しか参考にならない紹介をされている。リリーはありがとうございます、と紅茶を受け取った。


「あのー……ほかのメイドたち……出禁って聞いたんですけど……」


一体何が?と聞こうとしてサッと血の気が引いた。

ブラウも、朝食を持ってやってきたアレクも目を逸らして押し黙っている。

……かなり言いにくい事を聞いてしまったらしい。


「……ちょっと…………中々…………」


二人とも口元を押さえて言葉を濁した。


そういえば夏の日、暑くてなかなかプールから離れられず、ついにはプールのそばで一日を過ごす事になったメイドと王たちは当然のように酒を飲み始め、ついにメイドたちはあつい!と水着を脱ぎ始めてしまった事があった。

ぜったいに!ダメったらダメ!と慌ててメイドたちを魔法で各自室まで強制送還したのが懐かしい。


そのくらい良いじゃないかと言ってのける王に、酔ってる時は判断が鈍るからそんなときにそんな格好いけません!と大いに叱った。

それ以来タガが外れたように王には小言をよく言うようになってしまった。


……まさか、やっぱり、脱いでしまったのだろうか……


「ま、まあ、出禁というのは言葉の綾的なところもあって、その、彼女たちも大いに反省してますし、」


……大いに反省しなければならない程の何をやらかしたのだろうか……


「以降騒動は無いので……」


しんと三人とも黙り込んでしまい、あ、紅茶のおかわりどうぞ、いただきます、などとやりとりして場の空気を流そうとする。


「そ、そういえば奥の突き当たりの部屋には行かれましたか?」

「いいえ、入ってないです……」


不思議顔のリリーにアレクが答える。


「あの部屋は元々クルカン様の自室で、部屋に大量の本があるので……機会があったら見にきてください」

「本人が不在なのに、勝手に入っていいんですか……?」

「あの方は本当に持ち物が多くて……部屋が物で埋まると違う部屋を自室とするんです。元の部屋は入っていいと言われるので……」


北の塔や本館にもクルカン様の自室は沢山あります、と二人の説明にリリーは、は、はあ…と複雑な気持ちで返事を返す。


「……あの方は、今は留守にされていますが、どこに行ったとかそう言う事は誰も知らないんです。もしかしたら、ヴィント様や王はご存知なのかもしれませんが……」


少し困ったような顔で眉尻を下げる二人。


── 奴らの中に、クルカンの名前も出てる


神殿に向かう道すがらヴィントが言っていた事を思い出す。

こんなにも色濃く城中に痕跡を残したまま、大魔術師は一体何故……


リリーは勧められるまま朝食のパンに齧り付いた。

朝食に頂いたドライフルーツとクリームチーズ入りのパンはとても美味しかった。







「え〜すやすや寝てただけ?」

「えっちな話は?」

「……ないよ……」


広間の長椅子に座るリリーにひっついて話すアンとフラーは不満げだ。

いれてーとやってきた他のメイドたちも座って3人掛けの長椅子はすでにぎゅうぎゅうだし、あちこちでクッキー開けよー紅茶に何のジャム入れると美味しいんだっけ?と雑談が始まる。

とりあえず掃除という任務は全員忘れたようだ。


「リリーはヴィント様好きじゃないの?」


率直なメイドの質問にうーん、とリリーはするんと浅く長椅子に座り直し、背もたれに体を預ける。


「好きとか以前に……私ここ来たばっかりだし……みんなの事もっと知りたいし……私の事も知って欲しい……」


仲良くなりたいっていうか……気恥ずかしくなって小声でもごもご言う。

一瞬動きを止めてリリーを見たメイドたちがそれいいね、と湧き立つ。


ふわりと浮遊魔法でクッキーの乗った皿が飛んでくる。


「私リリーの好きなもの知ってるよー!チョコ入りクッキー!」

「紅茶にははちみつとー、」

「レモンでしょ!」


左右からアンとフラーが紅茶を用意してくれた。


「私たちみたいにじゃ脱ぎましょ、ってならないのも良いわねー」


焦らしプレイみたいで、と最後に何か余計な一言がついた。






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