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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
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  13.5 雨の日


執務室に立ち入ったメイドたちはあれやこれやと騒ぎ立て収集がつかない。

いつものことながら話が飛びまくり何が言いたいのやら、とりあえず落ち着くのを待とうとしてヴィントは気がついた。


一人足りない。


「リリーはどうした?」

「だから、リリーがいなくなっちゃったの!」


ね、雨が降ってきたのに帰ってこないから、川に流されちゃったかも、崖から落ちたのかな捨てられた子猫を連れて帰ろうか悩んでるのかもと言い募るメイドたち。

……誰が捨てるんだ子猫。


昼過ぎ、タルトが食べたいなどと言い出したメイドたちの言葉を本気にして果物を取りにリリーはひとりで出て行ってしまった。

いざとなれば転移で帰ってこれるだろうが、帰ってこないという事は何かあったのかもしれない。


「探してくるから中で待っていなさい」


ヴィントは翼を広げると窓から出て行ってしまった。


「ヴィント様、リリーの事は自分で探しに行くのよ」


一連の流れを見守っていたヴィントの部下にメイドたちは話しかける。


「最近よく飛ぶようになって行動範囲が広がったからだろ」


そう答えるヴィントの部下・シスカに、


「やっぱりしっとりしちゃう仲だからかしら」


とメイドたち。


「しっとり、なぁ…………」


生真面目で比較的大人しい九人目のメイドは艶っぽさとは無縁なのだ。

……堀に落ちたイタチ科の生き物を助けようとしてずぶ濡れになって戻ってきた事はあるが。

泳げる哺乳類だと知らなかったらしい。

その時もヴィントがリリーを拾い上げていた。


シスカはすぐ戻ってくるだろうから心配すんな、とメイドたちを執務室から追い出した。







水の精霊の祝福を受けてから、リリーの魔力が追いやすくなった。

距離があっても微細な魔力で辿ることができる。

飛ぶことが多くなり行動力が上がったリリーを追うにはもってこいだ。

リリーは意外と普通に木の下で雨宿りをしていた。

……口をぽかんと開けて何か呆けてはいたが。


「──えっ!?皆が私の心配?」


悪いことしちゃったな、とリリーは続けて言う。


「あの、木の下って本当に雨宿りできるんだな、って。意外と雨が吹き込まないなって思ってびゃっ!?」


ぼたっと落ちてきた雨粒が頭頂に当たってリリーは悲鳴を上げた。

ヴィントは苦笑して、多少だろう、とマントでリリーの頭上を庇った。


「通り雨だからすぐに止むだろう」


もう少しここにいるか?とヴィントの問いかけにリリーは頷く。

すぐに止みそうな気配の弱い雨をしばらく見つめた。


「お父さんが亡くなった時、」


ぼんやりと雨を見つめていたリリーは話し始め、でもすぐに、あ、と話を切り替える。


「……すみません、不適切でした……あんまり楽しい話じゃなかったです」


そう言うとまた押し黙った。


「……ドラグーンという私の種族は、」


リリーに替わりヴィントが語る。


「とても好戦的で、それもあって皆魔王との大戦で死んでしまった。今はもう私しか残っていない。機能的絶滅と言って……もう種は途絶えることが決まっている」


降り注ぐ雨を見つめたまま語るヴィントをリリーは見上げた。


「……適切でなくとも誰かに語りたい、という時もあるだろう」


そう言うとヴィントはリリーを見た。


「…………お父さんが亡くなった時、私はひとりで見送りました。全てが砂の惑星なので、人が亡くなると小さな小舟に棺を乗せて、砂の海に流すんです。棺は海の終着点で朽ちて、砂に還るんだそうです」


お父さん、ちゃんと砂に還れたかな。

リリーは最後に小さな声でそう呟いた。


ふたり黙ったまま雨を見つめる。

ヴィントはリリーをそっと翼で覆うように囲った。

それは否定でも肯定でもなく。


時折落ちる雨粒から守った。












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