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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
2/64

1 何か、ちょっと。


惑星エライユは緑豊かな実り大き水の惑星である。


ただ、場所が辺鄙な所にあって銀河の果ての果ての果て……に、位置するのだ。

生物住まう惑星ひしめく銀河の中心から三百光年はあまりに距離がありすぎて、訪れる者は殆どいない。


早い話、田舎である。


ねぇ最近急に寒くない?いきなり夏終わったよねお風呂の温度高くしてもいいかな新しい靴欲しい、などとメイドたちは好き勝手ぺちゃくちゃしゃべり散らしている。


「いい天気ね」


リリーはキッチンの窓から外を眺めて言った。









ここで働きたいんです、とエライユに来たばかりのリリーが言った時、八人のメイドたちは一瞬沈黙してから、働く……?と首を傾げ、仕事って、何するの?と誰かが言った。

リリーは気まずくなって、彼女達の足元あたりに目線を落とした。


メイドたちは頭に獣耳が生えていたり角が生えていたり、髪の色も肌の色も多種多様、皆異なった種族のようで、リリーの銀に近い薄い紫色の髪に紺の瞳という異質な──少なくとも故郷ティースでは異質だった様相も、髪色()()()()()()()、と軽く受け入れられてしまった。


故に受け入れられていると思い込んでしまい、仕事って何するのと困惑している彼女たちから『あなたにできる仕事なんて無くってよ』といった言い回しではないかと受け取って目を逸らす。


「えーっ?仕事?何だろうね?ヴィント様に聞いてみよ?」


あっという間に手を取られ……故郷では友達も居らず、両親以外とは手も繋いだ事がなかったリリーはどきりとする。


メイドの一人がリリーの横に歩き、


「前はね、花壇の水やりってお仕事があったの。でも間違って裏庭に川作っちゃって」


と語る。

……川を?間違って?


「それ以降お仕事ないのよ」


腕を引かれ、この国唯一の騎士・ヴィントの前に立たされる。

リリーは緊張して背筋を伸ばした。


「リリーがね、お仕事したいんだって!」


リリーがヴィントに関して知っている事といえば、20代前半の男性騎士で、真面目であまり笑わない、でも厳しい人ではない、という事だ。

仕事を?と聞き返すヴィントは真顔で読みづらい。


「……健やかに。怪我に気をつけて生きなさい」

「健やかに。怪我に気をつけて?」


思わずリリーは復唱する。


復唱したが、仕事内容はよく分からなかった。

だよねえ、それがいちばんとうきうきメイドたちにヴィントは提言する。


「君たちは、そこらで服を脱がない、歯磨きをする、抱きつかない、昼から酒を飲まない、服を脱がないも追加で」


……今服脱がないって二回言わなかった?


ベテランであろうメイドたちへの忠告に思わずメモを取ろうとしたリリーだったが内容が内容だったのでやめた。


健康に。怪我に気をつけて。


こうして惑星エライユでのメイド生活、二十四時間あるうちの十四時まではおよそ朝とするおおらかなこの国でののんびり生活は始まった。







窓からは白と青の斜めの縞々柄の雲がゆっくりと流れていった。

……昨日は黄色と桃色のふわふわ雲だったなぁ……


ぼんやりと窓ガラスが全て吹っ飛んだ窓からリリーは外を眺める。

美しい空だが……何か、ちょっと。

毎回喉元まで出かかるも、口にせず飲み込んでいる言葉がある。


何か、ちょっと。


「何度も何度も。生の魚は油に投げ込むなと言ってるだろう」

「違うもん!魚が勝手に爆発した」

「生じゃない!生きた魚だったよ」


ヘイ夕飯!と気前よくメイド達が投げ込んだのはびっちびっちと新鮮な巨大魚で、あっと声を上げる間も無く魚は弧を描き、高温で煮えたぎる油の鍋に突っ込んだ。

鍋とキッチンは轟音と水蒸気を上げながら爆発し、パニックを起こしたメイドの一人が水魔法を使ったのがとどめとなり窓ガラスも一枚残らず吹っ飛んだ。


おかげさまでリリーはエライユに来てから無詠唱魔法の腕前と瞬発力が爆上がりした。

何故かいつも命の危機に瀕している。

リリーを含めメイド達は防護魔法で無傷なものの、駆け込んできた騎士に説教を受ける羽目になった。


んもー!お説教ばっかり!と憤慨するメイド達と管理職の苦悩で血管の負担が心配される騎士の間にリリーは入ると、あのう、と控えめに進言した。


「ヴィント様。ひとつ提案があるのですが」

「……聞こう」

「まず何でも投げ込んではいけない、と教えてはどうでしょうか」

「…………」


ヴィントは片手で顔を覆ってため息混じりにそうだな、と言った。

諸所魔法で片付けながら、明日からは新しいキッチンだね!と嬉しそうに盛り上がるメイド達の脳内に反省が刻まれているかは定かではない。


「……というわけで時間の都合上完成したものがこちらとなりまーす」


メイドの一人が完成した料理を魔法で取り出したので、メイド達はわっと盛り上がった。

……最初からそれで良くない!?


三百光年という果てしなく遠い故郷からやってきたリリーにとって何かちょっとあれ、と思う部分が多かったが、自分の住んでいた惑星が普通とは限らない。

……もしかしたら、これが普通なのかもしれないし。


メイドとして働くようになってから何度も喉元まで出かかっている言葉をまたしても飲み込んだ。


……何か、ちょっと。変じゃない!?









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