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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
不穏な来訪者
18/64

12 カーテンの洗濯


……何だか少し変だ。


自室の鏡の前で髪の毛を梳りながらリリーは思った。

精霊から祝福を授かったからだろうか?

そのあたりからいつもと何かが違う。


「うーーん」


鏡の前で回ったりするも、よく分からない。

何だろうなぁ?と首を傾げながら自室を後にした。





「よし!やる!!!」


わー!とメイドたちから歓声が上がった。

水の精霊の祝福を受けてから、扱える水量が増えたので手始めにカーテンを洗濯してみることにする。


広間の一番大きくてドレープも多いカーテンにしてみた。

リリーはカーテンレールから下ろされたカーテンを水の膜で包み込む。

膜が溶けて床が濡れないよう意識しながら、水の膜の中に洗剤を投下して泡立たせた。


その調子!とメイドたちから声援が上がる。

最後に膜の水を下水まで転移させ、また新しい水の膜で何度かカーテンを洗った。


「こんなもんかな!」


やったあ、と言うメイドたち、でもー、とフラーが言った。


「これどうやって乾かすの?」


あー……と魔法で宙に浮いたまま行き場を無くす水を吸ったカーテンを見つめるリリー。


「…….テラスの屋根の上に転移させて乾かそっか?」


アンの提案にうん、とリリーは頷いた。


「……やらかした……ごめんね……」


ひと仕事終えて休憩中、中庭に置かれたローソファーの上でリリーは顔を覆って呟いた。


「ええ〜大丈夫だよ!天気いいもんすぐ乾くよ!」


とフラー。


「洗うの見てて楽しかったわ」


アンも気遣う。


「……挽回したい……」

「アップルパイを食べて、休憩してから頑張るとかどう?」


トレーに乗せたアップルパイを見せてアンとフラーはにこにこする。


「それは……賛成」


ありがたくいただくことにした。



たっぷり休憩してから乾いたカーテンをレールにつけることにする。

王城の二階ほどの高さのある窓だが、このくらいなら飛んでいけそうだ。

リリーは背中から翼を出した。


「相変わらず綺麗な翼ねー!」

「飛べるの羨ましいー」


アンとフラーは口々にリリーを褒めた。


「……や、やっぱこっち」


リリーは赤面して高さのある梯子を魔法で取り出す。


「えー飛んでるとこみたいー」

「だって……注目されると恥ずかしくて…….」


うまく飛べなくなっちゃうよ、とリリーは梯子に手をかけた。


「じゃあそのうち外で飛んでみてー隠れて見るから!」

「事前告知されたら余計恥ずかしいよ……」


微妙に高さが足りないので梯子の上に立ってレールにカーテンをとりつけていく。

気をつけてね、と声をかけるアンとフラーにうん、と下は見ずにリリーは答える。


その時きゃー!と悲鳴が上がった。

反対側の二階の欄干にいるメイドたちだ。指を刺して叫ぶ。


「リリー!カーテンのレール留めが抜けちゃう!」


え、と声を上げると同時にネジが抜けたのかレール留めがぱちんと弾けて落ちた。

抑えを無くしたランナーがカーテンと一緒に滑り落ちるのはあっという間だった。

もちろんカーテンと一緒にリリーと梯子も巻き込む。

がしゃんという凄まじい音で倒れた。


「うう……翼があるのに落ちた……」


もう今日は失敗続きで寝込みたい。


カーテンがクッション代わりになり大した怪我はない。

リリーは差し出された手に礼を言って掴まって立ち上がった。


「怪我はないか?」

「ヴィント様!」


てっきりアンかフラーだと思って捕まった手は全然違う。


「リリー……ヴィント様も二階にいたの。すぐ気がついて飛んできてくれたんだよ」


涙目でアンとぎゅっと抱き合っているフラーが言う。

よく見るといつも魔法で収納しているはずのヴィントの翼が出ている。

恥ずかしさと申し訳なさが頂点に達したリリーは


「は、はらをきってお詫び申し上げます……」


と言った。

切らないで!?なんで切るの!?アンとフラーが混乱する中リリーは本気で消えたいと思った。








ちょっとちょっと、とアンとフラーは歩いていたヴィントの部下であるシスカを呼び止めた。


「何だ?お前ら。いいか、何と言おうとヴィント様の所は出禁だからな」


んもー!ちがぁう、とフラーは憤慨するとちょっとこっちよ、ナイショの話!と壁に向いてしゃがみ込む。

何だよ……としゃがみ込むシスカに続いてアンも隣にしゃがみ込む。


「あのねぇ、リリーの……様子がちょっと変なのよ」


と、アン。


「それがヴィント様とふたりで出掛けてから変なの。何があったか知らない?」

「何がって……ふたりで神殿に行ってきたんだろ。精霊を呼ぶとか何とかで……」


アンとフラーは同時に片手で口元を隠した。

……何だそれは


フラーは言う。


「秘密にしてね。リリーったら帰ってくるなり、何か凄かった、って言うのよ」

「あとちょっと濡れちゃったって」


「待て待て待て待て何の話だ何の」


慌てふためくシスカにアンとフラーはますます密着する。

壁に向いてしゃがんでいる為何か怪しい雰囲気である。


「これは……もう……濡れ場よ……」

「めくるめく……官能の世界よ………」

「……まああの辺り他に人なんて来ないしな……立地的には最適……って何言わせんだ」

「だって!リリーったら変なのよ!隙あれば鏡ばっかり見てるし!」

「窓とかで身繕いチェックするし!やる気があると思えば変な失敗するし!いつもと違う!」


口々に捲し立てるアンとフラーの話にむ……と考えこんでシスカは自身の髭を撫でた。


確かに最近自分の主もおかしい。

元々あれやこれや喋るタイプではないが、更に口数が減り窓の外を見て考えこんでいる事が増えた。

もしや?いやしかし。


「万が一あれやこれがあったとしてだな、」


ぼかしすぎて何だかおかしくなってきてるがシスカは続ける。


「追求してお前らはどうするつもりなんだ」

「私たちも同じコースでお願いしますってヴィント様に言うの」


がくっとシスカは頭を下げた。


「お前ら……そう言う事は俺に言え俺に」


いやぁーんと嬌声を上げるとふたりはシスカに抱きついた。


「暑い夜にしてくれる?」

「忘れられない夜にしてくれる?」

「そりゃもうどエロいやつだ!」


やったあ!楽しみにしてるねー!とふたりは去っていった。

シスカはがしがしと頭を掻いて言った。


「……女にはかなわなねぇなあ……」


そしてリリーを思い出した。

魚釣りに輝かす顔、堀の水に驚く顔、時渡り……

主の隣に立つ時は、どんな顔をしていただろうか?












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