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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
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11 精霊の祝福


「それはそれはー。リリーも大変だったわねえー」


中庭に置いたローソファーに寝っ転がったメイドのアンは間延びした声で言った。


隣に寝そべるリリーは苦笑して言う。


「王様大丈夫だった?」


あれから帰るなりラーニッシュはしゅんとしてしまい何だか二回りくらい縮んだようにも見えた。

あらあらまあまあよしよしこっちこっちとメイドたちが誘導してすぐに自室にしまわれた。


「それは!もう!」


リリーの横に寝そべるメイドのフラーは力んで言う。


「上から下まで全力でお慰めしたからぁー」


上から下とはと考えたら負けだ。


「ぼくは、リリーちゃんとも仲良くなれて楽しかったです!」


フラーの隣に寝転がるトルカがそう言うとトルカはいい子ね〜とフラーが頭を撫でた。


「私も!」


笑顔でそう言うとリリーはブランケットを肩までかける。


もふもふローソファーにブランケット。

いつの間にか中庭は防寒対策で全面ガラスのテラスに作り替えられており、天井のガラスに落ちる落ち葉や、夜は月や星を見て楽しむのだそうだ。

雪が降り始めるまでの秋の楽しみだそうで、冬の中庭はどんな風に作り変えられるのかも楽しみだ。


「ヴィント様も元気出てきて、なんかいいよね」


フラーはふふっと笑う。


「……元気、なかったの?」


リリーの問いにアンが答える。


「クルカン様がいなくなっちゃって」


それからちょっと。と言う。

仲が良かったんだろうか。

遺跡での会話の中で何度か一緒に冒険してそうな感じではあった。

トルカも笑顔で言った。


「そうですよねー。昔はよく王様とクルカン様二人で王城の外に吊られてましたもんね」


……やっぱり吊るのか……


「どんどん、人が減っていってね。賑やかさが無くなっていくばかりだったの」


と、フラー。


「リリーが来てくれて嬉しい」


そうアンが言うと皆で笑い合った。


リリーは笑いながら思う。

減っていった人は、亡くなったのだろうか?それともエライユから出ていったのだろうか。


「これから神殿に行くの?」


うん、とリリーは言う。


「いいなあデート」

「おしゃれしていかないと」

「……そんなんじゃないよ。すぐ行ってすぐ帰るの」

「盛り上がって他にも寄っていいのにー」

「泊まりでもいいのにー」


もう……すぐそういう事言う、とリリーは体を起こし


「分かってる。アンとフラーは愛と恋が一番なんだもんね」


つんつんとふたりの頬をつついた。


「リリーは?」


ふたりの問いにリリーはにやっと笑って言った。


「安寧」


笑い声のあとリリーは中庭を後にした。




「……いつか……いつか本当の事を話しても……リリーは友達でいてくれるかな?」


フラーのつぶやきにリリーが抜けた間を埋めるようにアンがくっついた。

アンは返す言葉を逡巡する。


「大丈夫ですよおーリリーちゃん優しいです」


夢の中に入りそうな眠そうな声でトルカが言った。








朝晩はぐんと冷え込むが日中は上着が必要ないくらい暖かい。

神殿は王城から遠くない所にあるらしく、リリーとヴィントは並んで歩いた。


「……昔この惑星は四度滅んで、その度に作り替えられたらしい。作り上げた人間たちを大魔術師と言うのだと」


真実は分からないがクルカンは人間で、惑星が作り替えられる前から生きている不老長寿らしい。


「惑星って……どうやって作るんですか?」

「作れるとは思えないがな……ただ奴の魔法は特別だ。あの魔王を封じる雲もそうだがこの惑星も限られた者しか入れないようになっている」

「へ…………え!?」


思わず納得しかけるもそれはおかしい。だとしたらリリー自身はどうやって入ったというのだ。


「君が持っていたあの懐中時計は時渡りという。特別な結界を潜り抜ける為のものだ」


船も船主の老人も時計の仕掛けの一部で、役目を終えると消えてしまうのだとヴィントは言う。

そうだったんだ……リリーは呟いた。


「同じような仕掛けがついている船ならばこの惑星に出入りする事もできる」


と、ヴィント。

確かにヴィントも船に乗ってエライユを出入りしていた。

続けて言う。


「君が望めば元の惑星に帰ることもできるが……」

「元いた所はもういい!かな!って思います!」


思わず力説してしまう。

リリーは続けて言った。


「ここより良い所は無いかなって」

「あんな雲と……ああいう住民でもか?」


リリーはふふふと笑う。


「とっても良いですよ」

「そうか……」


足元の枯れ草が風を受けてさらさらと揺れる。

思案するヴィントはリリーの目線に気がついた。


「どうした?」

「あーええと…………ダメではないけど、出ていった方がいいみたいな感じの顔……なのかなって、思いまして」


的確な指摘にヴィントは一瞬押し黙る。


「……良く無い噂がある。人工的に魔獣を作って、魔王復活のために攻め入る画策をしている集団がいると」

「……たまにアンとフラーも、言いかけて言えなさそうな時があります。そのことでしょうか……」


「奴らの中に、クルカンの名前も出てる」


リリーは息を飲んだ。

体温を下げるような、ひどく冷えた言葉のようにも聞こえた。





以降どちらともなく無言となり神殿まで歩いた。


「綺麗な所ですね」


下草は綺麗に整えられ、花も植えられている。

全て白で揃えられた石造りの神殿は、遺跡の湖に沈む庭に良く似ていた。


「中へ」


神殿の中央には枯れた噴水があるだけで何もない。

天井は壁の代わりにレースのような形をあしらった金網でできていて、日差しが入り込んでいた。


ヴィントに促されリリーは膝立ちで手のひらを組んだ。


「……水の精霊にお願いする感じですかね?」


リリーの横で立ち膝で並ぶヴィントは


「何でもいい。君の望みでかまわない」


と言って目を瞑った。


リリーも倣って目を瞑る。


……何となく一緒に祈るのは気恥ずかしい。


リリーは、皆が幸せでありますように。エライユが平和でありますように、と祈った。



ひやりとした冷気を感じる。

霧のような雨が降ってきて体を湿らせる。

思わず天井に目を向けると雨ではなく光が差し込んでいた。


……眩しくて何も見えない。







「──……────………………」






「あ………歌が………」


あの時と同じ、古代語の歌詞。

ぼたぼたと時々霧雨に混じる大きな雨粒が前髪や肩を濡らす。


さらさらと音が聞こえて噴水が湧き上がった。


リリーはヴィントと顔を見合わせる。

噴水はあっという間に最下部の水受けを満たし、地面にも溢れ出た。



「わ、み、水……水が………」


慌てるリリーの両手をとってヴィントが向き合う形で立ち上がらせる。

礼を言うと続けてリリーは言った。


「私、皆が幸せになりますように、って…………なんだか…………叶いそう」


右手は繋いだまま、ヴィントの左手がリリーの前髪をかき分けて雨粒を払う。

そうか、と笑うヴィントを見つめて、この、胸が痛くなるような、泣きたくなるような気持ちは何だろうとリリーはぼんやり考えた。


勢いが緩やかになった水が足元を優しく流れていった。









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