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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
15/64

10 明日もいい日になりますように


帰り道は中々に困難だ。

何しろ床が抜けて落ちてしまった為元来た道を辿るようには帰れない。


「……どうして帰り道ぱってしないんですか?転移で帰りましょうよ……」


一度でも行った事がある場所ならばどこにでも一瞬で移動できる転移魔法は移動の利点である。

不機嫌声でリリーが言うも、


「歩いて行って歩いて帰るのが冒険だろ。これだから素人は……」


フンと鼻を鳴らして独自の冒険論を並べるラーニッシュ。


「大手を振って出てきた手前帰りづらいんだろう」


ヴィントの指摘に違うわい!とラーニッシュは憤慨する。


「あぁ怖かったー!でも楽しかったですね!」


ぴょんぴょんしているトルカを見たリリーはこの子は大物だな……と思う。だからこそラーニッシュの部下なのかもしれないが。


「うーん、楽し……」


楽しかった、と言いかけて眉間の皺が深いヴィントがふるふる首を横に振るのが目に見えてリリーはピンときた。

これ楽しかったとか言ったら次も連れてかれるやつ……!


「た、楽しかったところもあったけど次があるならもっと安心安全を売りにした絶対安全な冒険がいいなあって!」


安全を絶対強調して言い直した。


「安全だと?冒険にそんなものはいらん。捨ててしまえ」

「次はない。あるとしても私は行かない」


言い切るラーニッシュに負けじとヴィントも言い切った。


「次はある!もう決まってる!次は温泉だ!!」


「お、温泉ー!?」


トルカとリリーの声が被る。

リリーは高鳴る胸を押さえながら言った。


「そ……それは負傷した騎士やらブショーやらが入るとたちまち傷が治り、女性は千年若返り、サルが浸かったりイヌネコタヌキが踊り出すっていう、あの……!?」

「……前から思ってたがお前ちょっと知識偏りすぎじゃないか?」


リリーははっとして全力できらきらしてしまった顔をむにゅむにゅする。


「そ、そ、そんなおだててもムダです」

「今のは別に褒めとらん」

「私とリリーは行かないぞ。精霊の祝福を神殿に授けてくる」


疑問顔のリリーにヴィントが続ける。


「精霊の祝福を受けたからな。神殿に行って祈るんだ。そうすると精霊がそこに定着して土地が豊かになる」


「祈る……ってこうですか?」


リリーは両手のひらを組んで見せる。


「形はどうあっても問題ないが……魔法を使う時と似てるな。精霊に意識を集中させる」

「お前のとこの故郷には祈る神はいなかったのか?」


先を歩くラーニッシュが振り返って聞いた。


「ええーと……いたみたいですけど……私には縁がなかったですね。星に祈ったりしてました」

「どんな事を祈るんですか?」


無邪気なトルカの質問に、毎日砂嵐の中見えもしない星に祈っていた事を思い出す。


お母さんの病気が治りますように。朝起きたら、街の人が石を投げてきたりしなくなりますように。殴るふりをして嘲笑ったりしませんように。突然大声で罵ったりしませんように。


リリーは深く目を瞑った。

過ぎ去った過去は胸を掴まれるような痛みがある。

それでも。


大丈夫、大丈夫よと毎晩語りかけながら頭を撫でてくれた母と、少しでも安全な惑星に移住できるようにと毎日調べる父。

優しさも一緒に思い出す。


夕日があたり一体を赤く染め上げる中リリーは目を開けて、三人を見て笑う。


「明日もいい日になりますように、って」











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