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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
14/64

9 お宝大発見


ギャアギャアという獣の鳴き声でびくりと肩を震わせてリリーは目を覚ました。

……地面で寝るとだいぶ腰にくる。そのせいか春のメイドたちとの狂騒を夢に思い出したらしい。


「まだ夜……」


八人がぎゅうぎゅうに入ってきてもいいから、今はベッドに帰りたい。

リリーはのろのろと体を起こした。






「何ィ!?水の精霊?」


夜が明けると朝食を用意しつつ昨日の出来事を話す事にした。

メイドたちが厨房で作ってくれているらしいパンケーキを魔法で引き出していく。

ラーニッシュはよっぽどお腹が空いているのか飲むように食べながら何で起こさなかったんだと不満を述べた。


「それは……一瞬だったから……」


むくれるリリーの顔をラーニッシュはまじまじと見て


「何かすごい顔してるぞどうした」


うーっとリリーは両手で顔を覆う。


「だって!夜中にぎゃーって!」

「ぎゃーって何だ」


夜中にぎゃーという謎の鳥の鳴き声に驚いたリリーは目が覚めてしまい、それ以降眠れなくなってしまった。


朝は朝で、日が昇るか昇らないかという時間に起きろ飯だ早くしろ早くと喚くラーニッシュに無理やり叩き起こされる。も、当然メイドたちも早い時間は寝ているので食べ物は何もない。

仕方なく冷蔵室から燻製肉の塊を魔法で引き出すとラーニッシュは喜んで齧り付いていた。

何もなかったら雑草でも食べそう……とリリーはこっそり引いた。


それからしばらくして、ようやくの朝食である。

明るくなってから改めて周りをみると、どうやら石造りの庭が長年の雨で湖の中に水没しているようで、ところどころ支柱やアーチ状のものが湖から顔を覗かせている。


「いっぱい食べた……昼寝日和ですね……」


日差しを受けてごろんと床に転がるトルカの横にラーニッシュも寝転がる。


「食事休憩だ。お前らは周りを見てこい」


リリーは口に手を当てて囁き声でヴィントに相談した。


「どうしたら帰るって言ってくれますかね?」

「そこら辺の箱に石でも詰めて持たせるか……」

「目の前で画策すんな!」


リリーはヴィントと左右に別れて探索する事にした。


ぐっと翼を伸ばすと風が当たって気持ちいい。

飛んでも何の誹謗も中傷もないとなるとリリーは飛ぶ事が楽しくなってくる。


水面間際を飛ぶと波打った水が日差しを浴びてきらきらと美しい。水は澄んでいて水没している石造りの美しい庭がかなり底の方まで見えた。

ところどころパビリオンが水没せず残っていてひとつずつ中を確かめる。

中には何もなく、中央付近の一番大きなパビリオンにヴィントが佇んでいるのが見えた。


「何かありましたか?」


パビリオンの中には立派な装飾が施されたいかにもな宝箱。

リリーはヴィントと顔を見合わせた。


リリーが大声であのー、宝箱、とラーニッシュに声をかけると何!?と凄まじい瞬発力で湖から頭を出している石から石へと飛び移りながらパビリオンに飛び込んできた。

少し遅れてトルカもやってくる。


「こ……これは!ついに!やったぞ!」


ラーニッシュが宝箱に手をかけるとリリーとトルカは悲鳴を上げてパビリオンの限界まで下がった。


「中から吹き矢!」

「毒かも!」

「うじゃうじゃ虫!」

「爆発する!」


トルカとリリーは口々に言う。

遺跡の恐怖が刷り込まれている。

ヴィントはトルカとリリーの一歩前に立ってふたりをマントで隠した。


「何だお前ら!儂に開けろというのか!」

「お前以外誰が開けるんだそんなもの」


ヴィントに突っ込まれて憤慨するラーニッシュだったが好奇心に負けるのか蓋を開けようとする。ああああ!とリリーとトルカの悲鳴。

ちょっと怖かったので限界まで下がって腕を伸ばして開けようとする。ひいいい!とリリーとトルカの悲鳴。

万が一に備えてやっぱり足で開ける事にする。わあああ!とリリーとトルカの悲鳴。

早くしろ!とヴィントに促されてラーニッシュはつま先で

ガンと蹴り開けて猛ダッシュ、ヴィントに抱きついた。やめろ何をする嫌だ儂だって怖いと大柄2人がぐねぐねするので後ろのリリーとトルカはわー落ちる落ちると水際に落ちそうになって必死にヴィントに抱きついた。


「あれ?何もない……」


箱はしんと静まり返っている。

4人はそろそろと箱に近づいた。

中に一枚の紙が入っていた。


『ヤッホー!ボクだよ!箱の中身は頂いていくネ!ご足労さまラーニッシュ!』


独特の癖があるが不思議と読みやすい文字でそう手紙が書かれていた。

紙を持ったラーニッシュはふるふると震えている。


「クルカン…………貴様ァ!」


ばりいっと手紙を真っ二つに破り捨てる。


クルカン……魔王をピンクのゆめかわふわふわ雲に封印したり、虫嫌いすぎて遺跡の入り口を魔法で吹き飛ばしたり……


とても、かなり、癖が強い。リリーは言う。


「……故郷で、父が懐中時計を貰った人がクルカンって名乗ったんですけど、その人うちの前でお腹空いて行き倒れてて……助けたお礼に貰ったって聞きました」

「それはかなりの確率で同一人物だろうな」


腕を組んで言うヴィントの後ろでこんなもの!ふんっ!と宝箱に冒険の書を投げ入れるラーニッシュが見えた。

……見なかった事にした。










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