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ラニアケアの彼方から  作者: はなみ 茉莉
精霊の祝福
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8 水の精霊


思いがけず早いうちに地面に到着したリリーはぜえはあと荒い息をしてトルカを降ろした。

……腕抜けるかと思った……ちゃっかり自分の腕に回復魔法をかけるのも忘れない。


「この下……はさすがにないですよね?」


やるか?と剣を構えたラーニッシュにいやいやとトルカとリリーは首を横に振った。

ねめつけるヴィントの目線がとても冷たい。


「一本道か……進むしかないな」


ヴィントが向けた目線の先からはわずかに風を感じた。


「わーーーーーお?」


間の抜けた感嘆の声をトルカが上げる。

何度か階段を上り、行き止まりまで進むと外に繋がっていた。

あたりはすっかり暗くなっていてもう夜だ。

今夜は曇っていて月明かりも星明かりも心許ない。

よく目を凝らすと近くまで水が波うってるのが見えた。


「湖……でしょうか?暗くて分かりづらいですね」

「ここはどこなんだ?お前上からちょっと見て来い」


そう言われたリリーは再度翼を広げ飛ぼうとする。


「待て、降りなさい」


飛べる魔物もいるから夜は迂闊に飛ばない方が良い、と腕を引かれる。


「うう……怖いのでやめます……」

「こう暗いとお手上げだな。よし今日はここで野宿」


と言うとラーニッシュはその場でばたんと横になった。


「地面ですけど!?」


すぐにぐおおという寝息が聞こえる。


何という野生………


「ぼくも眠くなったから寝ます…………」


トルカはごしごしと目を擦るとラーニッシュのコートに潜り込んだ。すぐにすやすやと寝息が聞こえる。


「うそぉ……」

「そういう奴だ。諦めなさい」


……寝るの!?ここで!?


「少しあたりを見て回ってくる。ここにいなさい」


一緒に行きます!と口から出かかったものの足手まといは明らかなのでぐっと堪える。

とんでもない顔をしていたのだろう、


「……すぐに戻る。何かあったら踏めば起きる」


顎でラーニッシュを示される。


「踏みます」


決意を固くしてしゃっきり座った。




ヴィントが離れてすぐ、何か白いものがふわりと湖を横切った気がする。


……もしかしておば………………いやそんなはずない。そんなはずはない。


リリーは自分の右足を注視する。

……座ったまま踏んだら力が入らなくて起きないかも。

立つか……念の為もう一度確認しようと湖をそーっと見る。

ひらっとさっきよりはっきり白いものが見える。

ひゅっと息を吸い込んだリリーは身を固くする。


立って踏む、立って踏む、ぜったい踏む……!


すっと後ろから手が伸びてリリーの口を塞いだ。

びょんと確実に浮き上がったと思う。そのくらいびっくりして体が跳ねた。


「静かに」


ヴィントの囁き声が耳元で響く。

色々と心臓に悪い……!


「水の精霊だ……人に友好的なら害はないが…………敵対的なら……ふたりを起こしても厳しい」


ヴィントがリリーから手を離して剣に手をかける。

水系統なら……雷魔法は苦手とするはずだ。

リリーは声を落としてヴィントに囁いた。


「雷魔法は1番得意です……」

「頼もしいな」


息を殺して精霊を見守っているとふわり、ふわりとまるで布が風に舞うように近づいてくる。

剣を抜いたタイミングで雷魔法をかければいい。

1番得意なのは本当で、雷魔法なら無詠唱で最大限まで飛ばせる。


リリーは目を精霊に、耳を研ぎ澄ましてヴィントが剣を抜くタイミングを計らう。

精霊が近づくにつれ囁くような声が聞こえる。





「──……────………………」



「これは…………」


歌?


ヴィントが剣を置く音が聞こえてリリーはヴィントの顔を見た。

ヴィントは顔を横に振り、


「詠唱じゃない……古代語だ」


リリーははっとして聞き耳をたてる。

この歌の歌詞は昔本で読んだ事がある……


「確か……四季の訪れを喜ぶ……歌だったと思います」

「知ってるのか?」

「古代語の本でこれと同じ歌詞を読んだ事あります…こんな……こんな、歌だったんだ…………」


透き通る声、喜びを告げる歌。


ぼーっと見つめていると精霊はすぐ近くまでやってきた。

よく見ると女性のようにも見えるし、白い布のようにも見えるし実体のない精霊とはそういうものかもしれない。


すっと差し出された腕。何かくれると言っているような気がして手を差し出すとぽとりと水の塊をくれた。

実体のない水のようで冷たさを感じてからすぐに消えた。

同じようにヴィントにも与えると精霊はふわっと煙のように消えてしまった。


「これは……精霊の祝福だな。受け取ると属性魔法が使えるようになる」

「え!本当ですか?」


何だか貴重な物をもらってしまったらしい。

他人が攻撃できる程の強い威力のある魔法を属性魔法といい、家事などで使えるレベルの弱い魔力で使える生活魔法と違い使える属性は産まれた時から増える事は生涯ない。

精霊はそれを授ける事ができるのだろう。

リリーは手のひらを握ったり開いたりして授かった感覚を思い出していた。

確かに水魔法の感覚を感じる。


「これは……ついに洗濯でお水が大量に……」


リリーが喜んでいるとヴィントがふっと笑った。


「君にとってはそうだろうな」




教えるのは得意だが使うのは苦手だというヴィントに習って魔法陣を床に描く。

ふっと炎が燃えるような音を立てて炎のような青い光が広がった。


「わ!青い火!」

「燃えてはいないから触れられる」

「おおー」


触るとひんやりとした水の質感。


「燃やしたくない時や暑い場所はこの魔法を使う事が多いな」

「暑い時!確かに便利そう……」


他にどんな事に使えるだろうか……考えているとまぶたが重く感じる。

起きているのも限界なのかもしれない。


「少し休んだ方がいい」


促されてリリーは体を横にする。

眠りに落ちる前にいろんな事が頭をよぎる。


遺跡。友人からのカード。魔物。精霊。

ラーニッシュ、トルカ、そして……


「あ、」


眠る前に急に思い出し、リリーは頭を上げる。


「前に、あの、懐中時計…………」


あぁ、とヴィントが言う。


「君の父親の形見と聞いたが……返した方が良かったか?」

「いいえ、あの、あれ……確か父が人からもらった物なんですけど……」


こてっと頭がまた下がる。


「くれた人……クルカンって名前だった気がします」


言い切るとふっと瞼が完全に落ちてリリーは眠りについた。


「そうか……お前が……………リリー、君はやはり」


呟きは誰にも拾われる事はなく夜の闇に消えた。











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