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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

AI(アイ)の魔女~二次創作が好きだった普通の同人女が「AI狩りの魔女」になるまで~

作者: 金鹿 トメ

この物語はフィクションです。

実際の個人。団体とは関係ありません。

AIイラストも二次創作もやっている作者としては、現実にならないことを切に願います。


****


私はただ。

物語を愛していただけだったのに


****


少女はほの暗い喜びを抱えて手元の端末を操作する。


真っ黒な丸いアイコンにXの文字が浮かぶアプリをタッチする。

議論好きでよく炎上することで有名だが、プロアマ問わず有名な絵師が使うことでも有名なアプリ。

ちょっとぐらいお灸を据えてやるだけのつもりだった。

出来心だった。


だけど目に飛び込んできたのは、大火事だった。

リナリナ先生という有名な絵師が、降ってわいたAI使用疑惑に慌てふためいて

投稿している。


きっかけは捨て垢での投稿

「リナリナ先生の絵って綺麗だけどなんかAIっぽいよね~」


そこから使った使ってないでファンの争いが始まり。

外野も加わって先生のアカウントは炎上状態になったのだ。


「なんで」


「どうして」


「私何もわるいことしてない」


「どうしよう」


「どうしたらいいんだろう……」


同人関係で仲良くしてくれた神絵師。

彼女がアプリ上で疑惑を必死に釈明する姿を見て私は笑う。


「ばーか。人の気持ち考えないからこうなるんだよ。反省しろ」


AIイラストなんてやべー代物を擁護するからこうなるんだ。

私はすっとした気分を抱えて気持ちよくベッドに寝ころんだ。



****


同人を始めたきっかけは些細なことだった。

特別なことじゃない。友人に誘われたからだった。


「同人? なんか難しそう」


「そんなことないって、やってみようよ。楽しいよ」


「うーん。私絵描けないからパスかなぁ」


誘ってくれた友人はとても絵が上手かった。

プロになったらと冗談で言うと、あくまで好きでやってるだけだから。

とはにかみながら答えるのが定番だった彼女。


進学先が別になってから疎遠になったけど、彼女の言葉だけは今も心の中にある。


「好きっていう気持ちを形にするだけだから、同人小説だっていいんだよ」


「それならできるかも。本もラノベもよく読むし」


彼女の言葉に従って、書いてみた小説。


面倒だから紙で頒布したりはしなかったし、当然売れたりはしなかったんだけど。

それでも読んだ人から結構肯定的な感想を貰えたのは覚えてる。


「めっちゃ萌えました」


「これ初めてなの? じゃあ次はもっと良くなるね」


「攻めの葛藤がよく書かれてると思う。とりあえず抱け。話はそれからだ(誉め言葉)」


……一部変な人も居たけど。おおむね高評価だったのは確かだ。

そこから私は暇さえあれば二次小説を仕上げ、投稿していった。


元々使っていたサイトが二次創作を禁止したから、絵描き用のサイトに引っ越ししたりもしたけど。

そんなのは笑って許せる昔話だ。


アイツらがしたことに比べたら些細なことでしかない。

そう、すべてはあいつらが悪いんだ。


****


同人作家としてなら結構な古株と言える年月。字を書き続け投稿した。

相変わらず出版社からのスカウトは無かったけど。

それでいい。むしろ趣味で続けられなくなるのは困る。

私は楽しみたいだけで、人生をかけたいわけじゃない。


なぜそんな私を運命の女神は選んだのか。

Fate。宿命。悪運。

その日。私の運命がやってきた。


「アイさんって同人やってるって本当?」


ギャルとパソコンオタクの中間というか、パンクなのか男ウケ狙ってるのかよくわからない服装の女が話しかけてくる。


「馬鹿にしてんなら答えないけど」


「違うって。ごめん。……実は私もやってみたくてさ」


仲間内からギークというあだ名で呼ばれている買い専女。

服装は攻撃的なのに性格は丸いというよくわからない天然女。

パンクファッションなのに気弱に見える女がおずおずと切り出した。


「絵を投稿してみたいんだけど」


「……失礼かもだけど。アンタ絵は描けないって前に言ってなかったっけ?」


「えっと。私は描けないんだけどパソコンに描かせるっていうか」


「パソコンが絵を描く~?」


この時の私の言葉は一生の不覚だったと今の私なら分かる。


「なにそれ面白そう!!!!」


SFの世界みたいじゃん。

とも言ったっけ。


時間を戻せるなら言ってやりたい。

悪魔の取引になんて乗るんじゃないと。

けど私は乗ってしまった。


「あ、じゃあパソコン今度持ってくるから、それとも家来る? それかカフェで女子会とかどう?」


「どれも迷うな~けど予定は最優先で空けるから! いつでも呼んで」


****


「……こんなことって。ないよ。ひどすぎる」


お呼ばれした彼女の家から。お気に入りのカフェの飲み物とお菓子を持ち込んでの女子会から自宅に帰ってきた私は、吐き気を感じてトイレに籠った。

お気に入りのお菓子と飲み物が下水に流れていく様を見送っても。私はしばらくの間、呆然としていた。


女子会という言葉通り、噂を聞きつけた何人かがやって来てワイワイやっていたのだが。

その中で一人。

私だけが一人。

仲間外れだった。


「機械が描くって言ってたのはホントだったし、嘘はついてないけど。まさか。まさか」


よく考えたらそうなのだ。

機械というのは人間の行動を真似して作られているのだから。

ほんの少しだけ想像が及ぶなら分かったはずなのだ。


「あの手本にしてるイラストって、有名なリナリナ先生のやつじゃん。全部無許可で放り込んで描かせるなんて、それを同人紙にして頒布って酷いって……」


そう。彼女に伝えた。

心を尽くして伝えたつもりだった。

分かってもらえると思った。


だが彼女らはこう言っただけだった。


「?? けどアイっちの書いてる同人小説も同じじゃないの? 許可取ったん?」


言い返すべきだったんだろうけど、

何か言わなきゃと思ったけれど。

それきり私の口は閉ざされてしまった。


ようやく心が現実の自宅に帰ってきた私は、トイレから出てきて言った。


「何とかしなきゃ」


そして私は俗にXと呼ばれているアプリを開いた。

知らない人とメッセージをやり取りするアプリ。

神絵師の絵に素敵ですと言えて、時々返信が返ってくるアプリ。

DM一覧からある人物を探し出す。


そこにあった宛先の名前は以下のものだった

「リナリナさん@フェスに向けて低浮上中」


相互だし、前にやり取りしたから見ては貰える。

先生から言われたって伝えればいい。

それならなんとかなるはずだ。


****


そこからは文章を何度も推敲し、結果をシュミレートしてから送った。


「先生。フェスで忙しい中失礼します。

 言っても仕方ない事ですし、心配をおかけするのもどうかと思ったのですが。

 何も知らないでいるよりはと思い、勇気をもってDMしました」


「先生はAIイラストというものを知っていますか?

 最近友人がそれを使っており、パソコンでイラストを作ることを言い訳にして

 先生の絵を無断使用していたので注意させて頂きました」


「手で描いていない人間がボタン一つで先生の絵を真似できる現状がとても辛いです。

 なので一言ぐらい文句言っても許されると思います」



そこから数日間。

返信は無かった。


見てくれたどうかも分からない。

もしかしたら面倒だってミュートされちゃったのかもしれない。


それでもいい。

そう思っていたところで返信が来た。


「リナリナです。心配してくれてありがとう。

 本当はSNSはスタッフに任せてるんだけど、今回は特別に本人が返信します。

 だから返事遅れちゃったんだけど、許してね」


「AIイラストを見てつらいって気持ちはよくわかるし、実は私もそうでした。

 けど最近は心配ないんじゃないかなって思うようになりました」


「だってこんな風に気にかけてくれる人がいる。

 そのAI絵が私の絵にそっくりで、質の違いも無かったんでしょう?

 それでも私の絵が良いって言ってくれる人がいる。だから頑張ろうかなって思います」


そっくりだなんて言ってない。

いや確かにそっくりだったけど、けど先生が描く絵には及びもつかない粗悪品だ。

あれを認めるわけにはいかない。

だって、それを認めちゃったら

認めたら私が……


「先生は、先生はAIが嫌いじゃないのですか? ズルしてるのに。なんで……」


その言葉にはすぐ返信が来た。


「学びの語源は真似るです。模倣を嫌ったら学びはありません。

 そしてAIイラストが心の底から嫌いな人は二次創作も嫌いなはずです。

 私は、私の子供たちを好きって言ってくれる人のことが好きです」


AIイラストと二次創作は同じ。

最も言われたくない言葉を。

最も認めたくない言葉を。


尊敬する人間から言われた私の気持ち。

きっとわかってもらえると思う。


だから私は悪くない。

悪くないんだ。


皆もそうだよね。

同じだよね。


私の好きを否定する奴なんか。

魔女になってでもとっちめてやらなきゃ。


だから

私は

悪いことなんか全然してない。


大好きなものを守りたい。

それだけだから。


~終~

この物語が続かないことを祈って。

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