笙太郎の悪霊退治
昔、富士山のふもとに太郎という山菜採りが住んでいました。
太郎は孤児で、村の雑用係として幼少から働いていました。
寺子屋には行かず、年寄り連中全員の孫として「年寄りの知恵」、
生活学、実学、生きていくために必要なこと、お金を稼ぐことを習得。
世の中には悪人がいて他人を苦しめようとすること。
悪事を楽しむ悪人とは、命懸けで戦って殺すしか対処法が無い事。
季節の山菜取り、薬草、加工の仕方、商売、農業、林業、漁業など
村の全員を師匠として学びました。
基本的には人に親切に接する、言うべきことは言い、怒るべき時には怒る、
でも基本的には親切に接する。コミュニケーション力、
交渉力、判断力、自頭を良くする、など。
特に交渉が得意で、喧嘩の仲裁をしていました。
たいていは相互不可侵条約、双方が相手を無視する、挑発しない、と約束させる、
あるいは気がすまないなら相撲や殴り合いをさせて、大怪我しない程度に勝ち負けを付けさせる。
ぼけた年寄りを安楽死させたり、どうしようもない悪人を毒矢で殺害する、などの汚れ仕事も。
2
正確な年齢は、太郎自身知らなかったのですが20歳ぐらいの時。
山の中で趣味で作った笙(小さい手持ちの琴のような楽器)を、かき鳴らして
ぼんやりしていると。
太郎の前に木の葉が集まり、人の形を取りました。
「私は山行者。幽霊の集合体。君の音楽でなかなか楽しく時を過ごせた。
お礼をしようと思う。何か欲しいものはあるか?」
太郎「・・・では。私は理由もなく殴られたり蹴られたり石をぶつけられたりして
苛められています。仕返ししたい。強力な武器をください」
山行者「ふむ、では「デウスの雷」をやろう。これを相手に向けて投げれば一瞬で殺せる」
山行者は太郎の左手に触れました。
左手の表面に雷のマークが付きました。
「右手でマークに触って「雷よ」と言って取り出せる。
相手を見てその方向に投げれば当たる」
3
翌日も笙を弾いてぼんやりしていると。
霧が凝って人の形になりました。
力士のような太った大男です。
「わしは山和尚じゃ。兄貴がおぬしに礼をしたようだから
わしも何かやろう。何が良いか?」
太郎「私は薬を売り歩いています。遠方に簡単に行く方法があれば、
嬉しいのですが」
山和尚「うむ、では風足の術を授けよう」
山和尚は手で、太郎の左足の甲に触りました。
うずまきのマークが付きました。
「右足でこのマークに触ってみよ」
すると風が起こり、太郎の体が空中に上がりました。
「自分の意思で速さ、高さ、をコントロールできる。練習してみよ」
10分ほどの練習で使いこなせました。
4
翌日。
やはり同じ場所で笙をうつらうつらしながら弾いていると。
太郎の前にいつのまにか狐が人間のように後足で立っていました。
「俺は、この辺りの妖怪のまとめをしている闇月という者だ。
行者と和尚が、おぬしにお礼をしたそうだから俺も何かやろう。何が良い?」
太郎
「私は村の雑用係をしているのですが、伝言やお届け物、誰がどこにいるかで探すのに
苦労することがあります。人物、品物の位置探知の方法があれば知りたいのですが」
闇月
「ほう。物や人の位置探知か。うーむ。他心通、いや、透視か、遠見の術・・・。
雲外鏡・・・いっそ霊魔鏡でも・・・どうせなら地球の霊波動探知システムでも構うまい」
闇月は浮かび上がり、太郎の前に来て、右手で太郎の額に触れました。
鏡をどこからか出して太郎に見せると。額に目をかたどった簡単なマークが付いています。
「これで誰かを念じてみよ」
「では**さん、どこにいますか?」
その人が野良仕事をしている場面が見える。
3次元イメージで縮小、拡大で位置が明確に。
「これは便利ですね。ありがとうございます。では物は」
同様に使えました。
5
そうして数ヵ月後。太郎の雑用力はとんでもなくUPしていて。
村に役人が来て立札を立てて行きました。
村長「都の偉い方の姫様2人、姉妹が誘拐されたそうな。
取り返したり、居所を知らせた者には望みの褒美をくれると」
一人になってから。額に指で触れて念じる。
「誘拐されたという姉姫様の居所はどこか?」
場所は、北の氷の山、大雪山の山頂にある氷魔王の宮殿。
周囲を白い狼の群れが飛んで警戒しているのが見える。
冬衣装を着る。
左足の甲を右足で触って「飛べ!」空に舞い上がる。
富士山を下に見て北へ。山脈を越え、海を越えて蝦夷地へ。
大雪山の頂上へ向かう。
「怪しい奴め!」雪狼(妖怪)の群れが飛んでくる。
敵とわかっているので雷を投げる。
光の速さでぶつかって雪狼たちを消し去っていく。
「オオオ!」山全体が光る。光に当たると太郎は氷の固まりに変わる。
意識を失って落下、雪の中に落ちる。
6
「気が付きましたか?」
温泉の中。
周囲に10体ほどの妖怪。
雪女、猩々、河童、天狗、かわうそ小僧、ろくろ首、ひょうすべ、狐狸など。
雪女
「あなたが氷魔王に凍らされたのでここへ
運んでお湯に漬けたのです」
太郎
「なぜ私を助けてくれたんですか?あなたたちは妖怪なのに」
雪女
「氷魔王は妖怪ではありません。人間の悪人の霊が、何万人も集まって
氷の剣に取り付いて生まれた強力な悪霊です」
太郎「氷の剣?」
雪女
「近づくには「火の剣」が必要です。南西の火山の中にあります」
「さっそく行ってみます。ありがとうございました」
7
九州の阿蘇山へ。噴火状態。
「「火の剣」の居場所は・・・妹姫が捕まっている火の魔王の宮殿、阿蘇火山の中か」
近づくと火山が爆発、火蜥蜴の群れが攻撃。雷で倒すが。火山が爆発。熱線が乱れ飛ぶ。
今度は予期していたので避ける。
距離を取る。
「これは困った。火の剣を得るのは氷の剣が必要。その逆も」
笙を弾く。火山が静まる。飛んで火山の中の宮殿へ。
火蜥蜴、おぼろ火、火炎入道、火吹き婆、輪入道など火に関わる妖怪たちが大勢眠っている。
宮殿の中を進むと。眠っている妹姫を見つける。
奥の大広間に火の剣があり、身長5メートルほどの真っ黒い巨人が横になって眠っていた。
剣の横に立つ。柄の部分をつかむ。
エネルギーの塊の剣は太郎の体に吸収されて姿を消す。
「雷よ!」笙が止まったので起きた黒巨人を撃つ。
数万の悪人の魂が焼かれて崩れ、地面の下、地獄へ落ちていく。
火の剣とのつながりは切れている。
8
妹姫を連れて大雪山のふもとへ。姫を残して氷魔王の宮殿へ。
笙を奏でながら近づく。
宮殿では氷に関する妖怪たちが倒れて眠っている。
奥で氷魔王と氷の剣。
剣を吸収、つながりを絶ってから雷で氷魔王を破壊、
現世に留まれなくなった悪人の魂の群れが地獄に落ちていった。
姉姫も救出、二人を都に連れて行った。
9
都で歓待されたが。
「どうも価値観というか、あなた方とは感覚が違う。
私はここでは暮らせない。おさらば」
太郎は元の村へ。
やはり雑用係を続けた。
ただし時間があるときは、悪人を雷で殺して害虫駆除した。
やがて年を取って関節痛、腰痛、物忘れも出てきた。
太郎は、まったく飲めない酒を買って富士山の頂上へ歩いて登った。
「精霊たちよ。アイテムを返そう」
氷の剣、火の剣を出すと風に乗って運ばれていった。
酒を飲んで酩酊して雪の上に倒れた。
気が付くと。
霊体で存在していた。
行者、和尚、狐が立っていた。
「おぬしは、その身の霊力で、我らと同じような存在に成った」
太郎は雷の神として、笙をかき鳴らしながら現在も世界を回っている。
今日も悪人を見つけると。
ゴロゴロゴロッ! ビシャーン!
手本は芥川龍之介「犬と笛」