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血の機構  作者: みーむあーる
Prologue Number.33
5/6

Ep.4.ランネノイド

 レールガンのクールタイムは約三秒、世界大戦前の支給品である旧型のそれはマードックという眼前のモンスターに対して有効打になっていないことは確実だった。


 そもそも初心者にとって扱いやすいように設計された低反動の銃だ、絶対的な差がある、確かに男は天才だ、一世紀の時代を築き実際にその全てを活用した神の領域へと足を踏み入れている。


 だが、彼は戦闘というものを視野に入れたことがない、過去の支給品が現時点で一番火力を持つ武器だ。大戦後の、超大国の技術を集結させたそのアーマーは一般的な武器など通用しない。


 例にしよう、100M走のアスリートが一般人よりも早いのは日を見るより明らかだ、そこに一般人がドーピングしてもその絶対的な差は埋まらない、世の理として事実としてそれはここにある。


 だからこそ、と言うべきだ。


 一射目から連続して二射、三射と撃ってもマードックは死なない、余裕すらある。



「ッ!?」



「吐け、リシャ・ハリソンはどこにいる」マードックは胸ぐらを掴み、拳銃を三間に当てて叫んだ。



「馬鹿かっ、言うはずがない」



 腐った心に頑固たる信念がある程厄介だ、しかし気絶させて記憶をデータ化させれば何ら問題もない、後は本国に帰還するだけである。



「なんだ、私の脳をデータ化でもしようと目論んでいるのかッ!?飛んだ馬鹿だな」



「なら、吐かせるまでだ」マードックの手が変形しナイフを形取る、ここは金星、誰かが助けに来ることなどない。



「はははっ、私の勝ちだ。ざまがないなぁ……マードック」



 よく振った炭酸を開けたような音が背後から聞こえる、連続する金属音と多重ロック式のシェルターが徐々に開いていく気味の悪いほど規則的な音、白い煙が少し漏れているシェルターから出てきたのは、人だった。



「リ、シャ」



「よくやったナンバー33!こいつを殺────」限りなき長い一秒間。宙を舞う博士の頭が眼に映る、この顔は博士だ、そうだ、そうなのだ。ならばなんだと頭に問いかける、今私が持っている博士の身体は死体だとでも言うのか。


 振りかえれどあるのは鮮血であり、それは噴水の如き勢いを持った赤い液体だ、綺麗に首と胴体が泣き別れている。そしてその奥に少女がいた、15歳程の、しかし彼女は殺すことに一瞬の躊躇いもなく、そして博士の頭を捉えるまで彼女が後ろにいると知覚出来なかった。



「なんだ、お前は」後退りをしながら、銃を構える。



「リシャ……ランネノイド」



「あの機械の型の名前など名乗って……何が言いたい」



「扱いが難しい」



「そうか」マードックは喉元を掻っ切った。確かな手応え、それをえつつも後ろを振り返った。



「…………扱いが難しい」



 彼女は変わらずそこにたっていた。



 続けざまにピストルを連射する、痛快なヘッドショットと突き刺さるような心臓への発砲、慎重にされど迅速に計7発の弾丸が彼女の体を貫いた、が。



「扱いが難しい」



 声は背後から、腰を最速でひねり寸分違わぬ場所へ標準を合わせ、引き金を引く前に────彼女は彼女自身の頭に銃を突きつけて、引き金を引いた。



「なっ」突発的な理解不能な行動に、ただ驚きを隠せない。



「扱いが、難しい」



 シェルター前のよく磨かれた堅い床の上に彼はリビングでくつろぐラグドールのように倒れ、片腕からの異常な感覚に彼は体を転がし、息を飲みながら、床に片手を付き、自分のその手に何が起こったかを認識した。


「何てことだ」彼はそう言って、何を理解するでもなく、妙な感覚を持つ左手を見た。妙な、抽象的な理由により、手首の欠如は何も感情を呼び起こさない。今、ここにある時点で既に事実を受け入れていたかのようだ。「一体何が起きた」


 彼は左手を右手と見比べた。幸運にも、後者は元あったままだ。彼は腕を折り曲げ、可能な限り両手で同じ動きをしてみた。右手の神経にいくらかの損傷があるかもしれない。専門医に相談する必要があるだろう。しかしそれも目の前の化け物が倒れたらの話だ。


「右手で?」と彼は独り言のように吐き捨てた。大変なことだ。同水準の技術を取り戻すのに、一体どれだけ掛かるだろうか。生半可な時間ではあるまい。


 しかも今は限りなく生命の灯火が小さくなるような危機的状況だ、あの小娘を逃がした事が因果関係的繋がっているとも思えないがあの選択は誤ちだと考えるべきだ。


 使い物にならない左手のパワードスーツ側からレーザーを放つが効いている様子はなく、それどころか、徐々に知性を、筋肉の動かし方を理解し始めているように見える、あの蒼き双眼には何が見えているのか当事者は何を考えているのかそもそも思考回路は機能しているのか、それすら分からない。



「………、ッマードック、そう、なるほど」明確に喋った。



たった一文なのに、たった一文だというのに、それは明らかに恐怖の対象だった。意味のわからない超常の攻撃に不死の肉体、仮に私がスーパーヒーローだとしても彼女を倒すことなどできないだろうし、探偵バリの名推理でその秘密を暴くにはあまりにも時間が少なすぎた。


よって、私は生命の灯火を消されることしか選択肢にないのだ。



彼女が次に口を開くとわかるほどの静寂。


一体何を、言うのかそれを思考するほど余裕はなかった。



「消えなさい」




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