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血の機構  作者: みーむあーる
Prologue Number.33
3/6

Ep.2.心

グロ注意です。これ以上書くとグロさがやばくなると思ったので今回短め










それは金星、上空27キロメートル『AREA:109』の中央に聳え立つ荘厳な教会で、熱心なカトリックが建てたものに違いはなかったが上空に広がる星々と少々の灯りを持った宇宙は電子パネルだった。


「あのね、あのね。さいご、お母さんとっても幸せそうな顔してたの!」司祭はまたも慈悲と寵愛の眼差しを少女に向けた。「可哀想そうにっ…」彼は言った。「あなたはあの機械に洗脳されているのか…」


 少女はその男の顔に浮かぶ悲しみに気付いた。「どうしたの?」


 彼は続ける。「もう大丈夫だ、もう大丈夫です、辛い思いなどしなくていい、神はお救いなされる」対する少女は戸惑いを隠せていなかった。


 それから幾ばくかの時間少女を泣きながら司祭が抱きしめていたのは事実で、少なくとも彼女は安らぎを感じ取っていた、しかし事態は唐突だった。


 教会の要らぬ厳重さを持った扉が開き、銃が放たれる。司教の脳に十口径の穴が開き、鮮血がステンドグラスに付着する。AREAで銃を打つなど御法度もいい所だったが彼女にはそれ以上の混乱が訪れる。なぜ倒れているのか、死んでいることを本能的に僅かながら理解しながらも、死んでいる事を分かっていない素振りを脳が起こしていた。


 疑問は口から溢れ出ていたが、奇しくもそれを肯定したのは殺人鬼であるフードを被った男だった。


「来い、……チッ、かったるい」


 電子光、音を立てて迸ったそれは彼女の首へ、そして教会で誰かの意識が落ちた。




*





「ぅ……ん?」



 目が覚めると、教会は消えており、純白の部屋が広がっていた。牢屋のように鉄格子で出入り口は塞がれており、出ることは物理的に不可能。かと言ってインターネットデバイスに自身の意識を入れてみることなど、論外だった。



「おじさんは!?」意識が跳ね上がる、上下左右前後並びに全方位を見渡してもおじさんはおらず、代わりにいたのは少女だった。首元にNumber.33と焼印がされ、髪の毛は白、服も白く幻想的な感じがした。


 帰ってきた返事は無表情かつ冷淡な「おじさんはいない」その表情に少なからずの落胆が含まれていたのは事実だった。


「私はNumber.33、あなたはNumber.107。モルモット」


「なんばー?」聞いた事のない言葉に聞き返す少女に、33は肯定し、ベッドを立って水の入ったペットボトルを投げつけた。「飲みなさい」


「私、カエウテ!あなたは?」


「ない、私はNumber.33」


 ただペットボトルを抱き抱えて、33を凝視する107だったが33がベットに腰をかけた瞬間に「嘘つき」と頬を膨らませて呟いた。


 溜息は静かな部屋に必然的に響きわたる、33は絶望したかのような顔で「明日、耐えればどうにだってなる、明日耐えればあなたの代わりに私が受ける」と言った。


 107は不思議そうな顔で、ペットボトルの蓋を開けて水を飲んだ。教会の人はもう大丈夫だからと、いつも衝動的に殴ってくる親から引き離してくれた。もう痛い思いをしなくていいよと笑いながら抱きしめてくれた。きっとここの人も優しんだろう。ああ、幸せになれそうだと考えていた。


 つい、十時間前までは。



 絶叫。


 絶叫。


 絶叫。


 絶叫。


 永遠と続く苦痛、もがき苦しもうとする動作すら禁止された閉鎖的空間内において、頭を這いずりまるかのような何かが確かに存在し、何かを注入される。点滴のパックが入れ替えられ脳裏には恨めしい男の姿が蘇る。深の淵から悪魔が降臨するかの如き映像をVRで流されながらさっきの男が恐怖をエネルギーに変換などとほざいていたのを今更ながら思い出す。


 端的に言えば地獄だった、もうどれくらい経過したのかすらわからず、あとどれほどの時間で終わるのか分からない苦痛。注射が下手なのではない注射された何かが痛いのだ。頭が痛いのではない、頭痛がするのではない。何かがいるのだ。


 これ程の絶叫を前にして、笑い声が聞こえてくる。悪魔め、悪魔め、悪魔め、暴言と、口汚い罵倒が列挙をするが目の前の男はそれを楽しんでいるように感じた。


 

 もう、痛い思いをしないのではなかったのか、もう、救われるのではなかったのか、どうして、どうして、どうしてなのか。疑問は永遠に尽きず、口からは罵倒が尽きない。


 七時間弱に及ぶ時間の末、カエウテは開放された。フラフラの足取りで、牢屋に戻り、そのまま眠りにつく。


 その日は当然の如く悪夢をみた、血まみれの、夢だった。助けて欲しかった。



「ほらぁ、ナンバーいちまるなな!実験だよぉー!」



「ひぃ!」反射的な言葉だった。嫌だもう嫌だ、二度と受けたくない。ベッドの奥へと逃げていく自分に、男はしょんぼりした様子で「どうして」と呟いた。どうしてもこうしてもなかった。もう、嫌だ。ただそれだけのことがどうして分からないのか。



「私が、受けます」震えて、自信も何も無い声だった。ただ覚悟と勇気だけで喋っている様な声だった。手を挙げて男を凝視する。「私の方がそこの女よりもドクターの期待に答えられるはずです」引きつった笑みを浮かべて、震えた腕とシーツを握る33の腕。救われた。良かったこの人が受けるなら。



「いいだろう!なんと、今まで僕の実験に進んで参加してくれる人なんていただろうか?いいや、いない!いなかった!ありがとう!君の誠意を無下にするわけに行かない!さぁ、33!実験の開始だぁ、ついてきたまえ!」



 たった一日で他人などどうでも良くなり始めていた。


 絶叫が時々聞こえた。それからも33は実験進んで参加し、私を助けていた。だから実験が終わったあと言うのだ、全く心のこもっていない「ありがとう」を。



*



 




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