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血の機構  作者: みーむあーる
Prologue Number.33
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TALE.0.Prologue.Number33

 彼は完璧な英語で『STOP!』叫ぶと、魔法で火を出して、その縦穴目掛けて爆竹を放り投げた。暫くの時間をおいて耳を劈く、不愉快な音が聞こえた。100人いたら全員が聴くのは二度とごめんだと答えるだろう音が連続して鳴り続ける。耳栓を今頃渡す彼には、少々の嫌味を言ってやりたくなったが彼はもう耳栓をはめていた。

 彼は腰にかけた長剣をゆったりと抜くと、それは淡く光を出し始めた。


 上段から彼はその剣を振り下ろすと、下を確認する事なく飛び降りた。勇敢と言うべきなのだろうが、今の私にあるのは生き残りたいという強い意志と一瞬でも脚を止めたら死ぬのではないかという恐怖だった。故に、私の心は入隊初期の頃の傲慢さと推敲な志など微塵もなかった。腰についたお飾りな折れた剣が壁に当たり音を出す。その音にびくついた自分にそろそろ嫌気が差し始めていた。

 穴は30フィートはあった、少々足が痛むがその程度なら気にすることは無い。だが背後から聞こえる騒音はまるで、上の階で誰かが重たいものを落としたかのような音だ、同時に絶対に無視してはならぬものでもある。それがどの程度の大きさかは少しもしないでわかった。大きめの亀裂から空が見えた。もちろんここはガランドヴィリアだ。その空が魔法、又は似て非なる奇術のようなもので構成されたものだとゆうことは知っている。重要なのはそこでは無い、視界の端に脚が見えた。約…300フィートはあるだろうか。いくら彼が魔法省直轄の精鋭だったとしてもあれを倒すとまではいかなくともこの迷宮を脱出できるビジョンが思い浮かばなかった。


「ふざけてる」彼の第一声は久し振りの呆れた笑いだった。


 あと少しだ、そう体を鼓舞する。肺が限界なのでは無い、筋肉が、魔力が、精神が限界なのだ。走っている時は大概どうでもよい事を思い浮かべるものだが…人生では初めてだった。何かを考える事を放棄している、暇じゃないからだろう。息が切れてきた、頭が浮かぶような思考を放棄して立ち止まりたい。

 加速する視界の中、右へ曲がるとようやく草臥れた扉が見えた。突撃するかの如く、私達はドアを開けて転がり込んだ。勢いよく開いたドアをリシャが閉めたあと、成果を聞いてくる。少しは待ってほしかったが、隣で荒い息を出す彼は無理矢理口をこじ開けて答えた。


「無理だった」


 現場に暗い雰囲気が立ち込めた。当初、2000人が入れた臨時的なキャンプはもう50人ほどしかいない、理由は分かりきっている。全員死んだのだ。視界の奥には、折れた、又は錆びた剣が放り投げられいた。機構支給の剣はどれも丈夫だ。しかしあれに対しては意味を持たない。


 機構直轄の機動部隊『アルカナム』はここを楽園だと称したそうだが、気が狂っているとしか考えられなかった。確かに鳥は空を駆けて草が生い茂っている、人もいた。報告書にも書いてあった。知人がいたと、だから不気味さを感じたが。ここは楽園だ、そうだろう。楽園だ、あの時目の前にいたのは死んだ家族であり、そして私だった。目の前にいる私はそこで、洗濯物を干し終わり、空を見ながら優雅に食事をしていた。


 信じられない光景だった。不気味、その言葉で片付けた機動部隊はそのような事態に慣れ過ぎており、感覚が狂っているのではないかと、いや狂っているだろう、そう考える。



「外との回線は切断された」



 私の意識は一気に現実へと引き戻された。わかっていた事実を今一度言われ、そうだ、そうだったと現実を再確認したが、それは絶望を加速させるだけだった。

 ガランドヴィリアの電波妨害が突然作動し始めたのはどのくらい前だろうか、少なくとも半月以上は前だろう、そして二か月間の何処かだ。誰が最初に気づいたのかはわからない。だが、異変が始まったのはそこからだったと思う。幸い、ミヒアウラ区域Class2管理官であるリシャ・アルンが持っていた強力な通信機器で断片的に情報を送ることができた。

 その際に降ったのは帰還命令だった。当然だろう、不測の事態が起きたのだ、一般研究員、並びに少しの護衛。何らかの厄災が起きた場合の対応は不可能だ。そう、不可能だ。



「どうして、回収できなかったの」



「馬鹿でかい……」一呼吸をして、唾を飲んでからカートが言う。「蜘蛛だ……あいつは、あいつは怪物達の戦いを仲裁していた」



「仲裁?」



「ああ、中には、歯向かった奴もいたが……一撃で木っ端微塵だ」



「……門までは、30キロはある。でも、機構本部もその事態には気付いてる筈だけど、二か月経っても援助がない、だから────」



「外にも怪物がいる。直轄の機動部隊、駆動部隊、討伐部隊でも無理な程のがいる」



 リシャはカートを数秒見つめた後にドアから離れ、部屋の壁にかかった地図を指差した。

 


「殺すしかない。私とガートンが落とした通話機器を回収するとして、繋がらなかったら?通信妨害がダメだったら?報告書はまとめた。あれら厄災に関する最大限の情報は書き留めた。全員が脳の記憶にこびりついている」



 ガランドヴィリアの門、西門と東門。私達が入ってきたのは西門だが、彼女が指さしたのが東門だった。確かにあそこには鳥がいなかったが、だからと言って全滅を免れて、一人でも脱出できる見込みはない。



「無理だ、蜘蛛は2000フィートはあるし、あの鳥のレーザーは………俺たちの魔法耐性をも突き破ってくる」



リシャが顔を顰めた、カートが地面を睨み、私は荒れた息を取り戻さんと上を見た。私は過去、と言っても二か月ほど前だが、直近の記憶、いや人生であそこまでの驚きは今後一切ないだろうと断言する記憶が蘇る。渇いた喉を振り絞り、言葉を発する。ー



「………だが、管理官には効かないんじゃないのか」



 カートが目を見開きながらもまだ地面を見ていた。ざわめきが生まれる、あの光線は本当にえげつないの一言に尽きる、目を閉じれば鮮明に思い出せる。地面を焼かず、空と、生命を焼く。蜘蛛には一切効いていなかったが、何故リシャ管理官にも効かないのか。蝋燭の光が視界の片隅で消えて、煙を出す。だが誰もそれに気づかない、気付いたとしても見ないだろう。全員がリシャ管理官の次の言葉に期待をしていた。デコイにできる。数秒間でそう考えた職員も少なくない筈だ。



「光線……?それは…何?」



 圧倒的な、何とも言えない混乱と恐怖が再度、私を襲った。



 ガランドヴィリアに入る為の門は横20フィート、縦100フィート程の巨大さであり、白く光っていた。記憶はあやふやだが入る時はもう少し光が抑え目だった気がする。信じられない、馬鹿けている程に大きな鳥が門前に鎮座していた、門の2倍はあった。遠目からでもわかった、何かがある。いや、何かがいるとわかった、スコープを覗くと毛繕いする羽を持った何かがいた。鳥ではない、だが鳥と表現するしかない。そして一瞬目があったかと思うと後列にいた職員が光線のようなもので成す術もなく死んだ。混沌、これ以上にピッタリな二文字はない、断言できた。そして何よりあれには音がなかった、又撃たれて死ぬかもしれない恐怖が肉体を呪縛し、動けない。



『何が起きたの』



 隣にいたリシャがつぶやき、後ろを見て前をみて、上を見た。人生最高にピンチだ、しかし私の心は想像以上に落ち着いていた。もし私がその状況下に置かれた時の想像をした事は何回かあったがここまで落ち着いているとは自分の事なのに意外だった。



『前だ、前に進んであの洞窟に逃げ込め!』



 全職員が五秒もかからない内に全速力で駆け出した。いや、たった一人、動かずに門をぼーっと見ているここら一帯の管理官、リシャ・アルンがいた。わざわざ助ける程にお人好しではない私は管理官を見捨てた。自分の影が目の前に現れた、閃光、地面を焼かずに通った空間の全てを焼いていたあの光線が放たれたのが分かった。

 死んだか、死んだのか管理官は。

 走りながら一瞬だけ、後ろを見た。加速する視界かつ全速力で走っていた事もあり、そこに誰かが立っているように感じたが、幻覚だ、絶対に。スライディングをしながら、洞窟に逃げ込んだ、息を切らした私だったが、あの幻覚が幻覚でなかったかもしれないと思い振り返る。想像とは裏腹に、もう数フィートの距離まで管理官は近くに来ていた事を憶えている。



「私は、光線を喰らって生きていたという事?……あなたが叫んだ時に光線は放たれたの?」



「見えていないのか?悪い冗談か何かか?だったらやめてくれ」カートが言った。



「……まさか、あなた達が時折言っていた怪物がその光線を放ったの?」



 衝撃的な言葉だった、疲弊した精神、身体、それらを含めた全てを飛び上がらせるに相応しい言葉であり、現段階で希望の光と言えるものであったが同時に得体の知れない恐怖を感じたのは事実だった。管理官は一瞬空中を見つめると、ため息をついて立ち上がった。



「これは…何色に見えるの?」



「………一体なんだ」



「白?黒?茶色?それとも…黄色とか」



「赤だ」



 管理官はつぶやいた、それは見るからに独り言だったし何の言語か判らなかった。足を何処かへと進めていく管理官、顔を上げながら目だけで見ていた、全員が道を開ける。人それぞれ、恐怖の大きさに大小はあれど怖がっている事に変わりはなかった。暫くして足を止めた。埃の被った鼠色のマントをずり下ろして出てきたのは機械だった、私の身長を軽く超える、およそ2倍はあるだろう機械だ。既視感がある、何処かでそう何処かで、答えはわかっているのに言葉は出ない、思考のレールをはみ出して永遠に何かがループしていた。



「Rvdieか」



「ガランドヴィリアのリクト値量はおかしい、リクト値が変動しているかも」



「だから幻覚が俺たちには見えると?…聞いたよ、あんたリクト値が1を下回ってるらしいじゃないか………あんたが…管理官が低すぎるんじゃないのか?」カートだけがここで言葉を話せる唯一の人間だった。魔法省勤務で、リシャと同じ位にいる。リシャが悪魔か何かだった場合、彼は唯一対抗できる人間だった。



「これはRvdieじゃないわ、リクト値を………下げる機械」



 カートは眼を見開く。そして私の欠落したレールは開通した、機構に入った時、一回だけ入った事がある。それは軽く5倍の高さを超えていた代物だった。



「私のリクト値が低くて効かない可能性に賭けるしかない、最も下がって最高400後半……」



「強行突破でもする気か」



「先ず私がいく、光線が効かない私が行くべき」実に単純な思考だ、しかしその単純ながら最強の力はまさに決定打となりうる。あからさまに疑っている顔をしているカートだが、今ばかりはそれを信じるしかない。



「じゃぁ、先ず一人目は…」




お読みいただきありがとうございます!

これから執筆頑張ります


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