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7月29日

私には、娘ぴーちゃんと彼女より三つ下の息子がっちゃんがいる。ぴーちゃんが夏休みに入って一週間ほどがたった。今日は朝から暑くて暑くて、子どもじゃなくても水にずっと入っていたいと思うくらいだ。あまりの暑さに小学三年生のぴーちゃんも、

「ママ、プール行きたーーい。」と、朝から学校のプールに行きたがっている。しかしながら、午前とは思えないあまりの日差しの強さに、野外にある学校のプールにいくことには賛成したくない私は、彼女の透けるような真っ白な皮膚も心配で、こう言った。


「今日は暑すぎるから、隣町の屋根のあるプールに行こう。車で送っていくから。」


午前中は私の仕事が入っているので、プールは午後から行くことにして、彼女にに自分の部屋の片づけをするように伝え、私は仕事に入った。 数時間後、仕事を終え、プールに行く準備をしていた午後二時少し前頃、私は車にエンジンをかけ、玄関で出かける準備をしていた。そこにぴーちゃんの叫ぶ声が聞こえてきた。

「ママ!なんか、手と足、しびれるんだけど!」


「え?しびれる?」

気のせいじゃないかと、私は、ぴーちゃんの話を受け流した。


「ママ!やっぱりなんか変‼」


玄関にいた私のもとに駆け寄るなり、指にはめていた数日前にお祭りで買った指輪を床に投げつけ、ぴーちゃんは崩れた。


「ママ、足に力が入らない。立てない。。。」


この瞬間、ただ事ではない気がした私は、直感でぴーちゃんの細くて白い腕をさすりながら聞いていた。「これ、わかる?」



「わかんない…。なにこれ、夢見てるみたいになってきた。」


そう話すぴーちゃんを見て、

『麻痺してる…しかも意識が朦朧…熱中症か?』

異常に暑い日だったこともあり、思い当たる一番身近な病気の可能性を疑い、私はぴーちゃんを玄関から抱き上げ、麦茶を飲ませてみる。しかし、むせてしまい、呑み込めない。『嚥下できない…。やばいな…』

そう思った瞬間、私はいつもあまり水分摂取をしないぴーちゃんをせめてしまっていた。


「なんでもっと水分取らなかったの!」


「ごめんなさい。」


いつもは生意気に自分の意見をしっかりはっきり口に出す反抗的なぴーちゃんが、私の目の前で弱く、弱くなっていくのが信じられない自分と、これから自分が何をすべきかを考えている自分がいた。ぴーちゃんとのやり取りで左手足がしびれてから5分ほど経っっただろうか、私は一刻を争う緊急性を感じ無意識に叫んでいた。

「救急車‼救急車呼んで‼」





私の指示で119番してくれた家族が、救急隊と電話越しに話をしている。

「嫌だ!救急車乗らない‼」

ぴーちゃんは意識朦朧の中で今まで感じたことのない恐怖におびえ、訳もわからず救急車を拒んだ。でも、直感でこれはかなりヤバい状況で一刻を争うかもかもしれない。そう感じていた私の口からは勝手に言葉が出てくる。

「命に関わるかもしれないんだよ!お願いだから乗って!」

私は精一杯、そして超絶真剣に、ぴーちゃんに伝えた。私も必死だ。

すると、彼女はあきらめたのか、一瞬正気になったのか

「わかった。乗る。…救急車、こわい?こわい?ママ、祈ってよ!ママ!私が助かるように祈ってよ‼祈ってよ‼」


とおびえ、すがるように叫ぶ。

叫んだらもっと悪化するかもしれない。

私もまたそんな恐怖を感じていた。



「わかった。わかったから。助かるから。助かるから、もう叫ばないで。」


私は、横たわるぴーちゃんに上から覆いかぶさるように抱きしめながらなだめた。どんどんどんどん、意識がなくなっていくぴーちゃん。

彼女はただぐっすりと寝ているようにすら見える。私はそんなぴーちゃんの横で、なす術もなく、ただ救急車が来るのを待つしかなかった。その私を冷静に見ているもう一人の自分が私を冷静にしてくれていた。

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