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■81.敗戦へ。(後)

 中国人民解放軍北部戦区海軍・青島総合保障基地が空爆を受けている頃、約2000km離れた中国人民解放軍南部戦区海軍・三亜総合保障基地(海南省三亜市)に対しても、米英による攻撃が始まっていた。


「おいしいところをとっていくブリカス――と日本人は言いますかね」

「そう言われないように徹底的にやる」


 隻眼の将、ヘンリー・ボールドウィン英海軍大将はF-35Bの操縦士たちを前にして、「皆殺しにしろ」と訓示するのを忘れなかった。

 中国人民解放軍南部戦区海軍・三亜総合保障基地に対する攻撃作戦の主力を担ったのはクイーン・エリザベス級航空母艦『クイーン・エリザベス』を中核とする空母打撃群であった。45型駆逐艦を帯同したこの艦隊は、中国人民解放軍による妨害をまったく受けずに攻撃発起点にまで進出すると、F-35Bを以て三亜総合保障基地を先制攻撃。まず防空網を破壊した。


 作戦機が払底している中国側は、配備されていた地対空ミサイルシステムが破壊されてしまうと、もう手も足も出ない。

 空対地ミサイル・空対空ミサイルを混載していたF-35Bが対空装備を使用しないまま後退するとともに、英空母打撃群近傍の海が割れる――白波の合間から空中に姿を現したのは、潜水艦発射型トマホーク巡航ミサイル。

 アスチュート級原子力潜水艦『アガメムノン』による対地攻撃。38発の巡航ミサイルは、逃げも隠れもできない三亜総合保障基地の係留施設や航空施設、兵舎に向かい、基地機能を瞬く間に寸断してしまった。


「Misfortunes seldom come singly(災厄は1度ではすまない)ということを教育してやろう――第二次攻撃隊を出せ」


 ヘンリー・ボールドウィン英海軍大将は攻撃の手を緩めるつもりはなかった。爆装した第二次攻撃隊は、無防備を晒す三亜総合保障基地を鳥葬する。電光石火の一撃離脱ではなく、死肉を食らう禿鷹がごとき執拗な攻撃。

 基地施設だけではない。先述した青島総合保障基地と同様に、三亜総合保障基地の停泊中の数隻の艦艇が炎上。また003型航空母艦が係留可能である神島の埠頭にも数発の誘導弾が命中し、橙のクレーンが圧し折れ、埠頭自体も損傷してしまった。

 この三亜総合保障基地に向けて航行していた003型航空母艦から発艦した2機のJ-35が駆けつけたときには、すでにヘンリー・ボールドウィン英海軍大将ら空母打撃群は作戦海域から離れていた。

 残ったのは灰燼に帰した三亜総合保障基地である。


 これで宙に浮く形になったのは003型航空母艦だ。その巨体のため係留と満足な補給が可能な海軍基地は数えるほどしかない――故に安全なはずの三亜総合保障基地に向かっていたのだが、いまや中国沿岸に安全地帯など存在しなかった。


 大陸沿岸部でさえこの有様。台湾本島の中国人民解放軍上陸部隊の死傷者数は増大の一途を辿っている。その一方、米華連合作戦司令部は次々と予備戦力を南西部に築かれた中国人民解放軍の橋頭堡へ差し向けていた。

 それでも決死の覚悟を固めて台湾の地を踏んだ前線将兵の士気はなおも高い。

 しかしながら戦況を把握する中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部の参謀、そして戦争全体を俯瞰することができる中国共産党中央軍事委員会参謀部の気力の方が先に潰えた。目の前の敵と自身の食に意識を向ければいい前線将兵とは異なり、なまじ全戦線から上がってくる正確な数字に触れてしまうだけに、“現実”を直視せざるをえない。

 台湾海峡の航空優勢・海上優勢は、失われた。

 失われただけならばいい――今後、航空優勢・海上優勢を回復する見込みがなかった。日本国内の航空基地が回復し、アメリカ軍が戦闘加入する連合軍の空海兵力は今後も増大するだろう。時間が経つほど自軍側は不利となり、一方的に殴られ続けるだけになる。


 秘密裏に中国共産党中央軍事委員会参謀部や、中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部の一部幹部は孫徳荘国防部部長と会合した。前述したとおり、孫徳荘は中国人民解放軍・旧南京軍区司令官から中央軍事委員会参謀部を経て、国防部部長となった人間である。現実をようやく認識した政治委員・高級幹部たちが頼りにできるのは彼しかない。


 とはいえ孫徳荘国防部部長も困惑した。


(ダメだ、華鉄一を説得できる自信がない)


 停戦・講和の提案ができるならば、琉球弧の切断に失敗した時点でしている。


 が、彼は切り替えが早かった。


(ならば力づくで彼を引きずり下ろすしかあるまい)


 中国人民解放軍は中国共産党に忠誠を誓う政治委員を要職に置いているため、軍事クーデターを起こすことは不可能である。

 が、それは繁栄と平和を享受できる平時の話だ。敗色濃厚の戦時では人脈コネがモノをいう。平時ならば怪しいととられる動きも、Need to Knowの原則を盾に押し切る。根回しは最小限に留め、速やかに華鉄一国家主席を排除し、すでに政治の第一線を退いた長老を引っ張り出す――これしかない。


 ところが、孫徳荘国防部部長は一手遅かった。


 彼が行動を起こすよりも早く、一般の中国公民にひた隠しにしてきた航空母艦『遼寧』・『山東』被撃沈の事実、死傷者数、戦死者リストを何者かがWeb上に暴露したのである。

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