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■80.敗戦へ。(前)

 中国共産党中央軍事委員会の関係者はもはや自軍の勝利を信じられなくなっていた。中国人民解放軍東部戦区・南部戦区の諸隊はよく敢闘しており、損害を出しながらも橋頭堡を確保しつつある。が、台湾本島のあらゆる場所から長距離砲が橋頭堡を打撃し、補給のために繰り出した水上艦艇はミサイル攻撃の標的となっている。

 そして002型航空母艦の被撃沈。すでに『遼寧』も海面上にない――この状況に中国共産党中央軍事委員会関係者や中国人民解放軍海軍の将官らは恐怖した。もしも003型航空母艦が撃沈されたのちに敗戦、となれば、戦後に1隻の航空母艦も残らない。ただでさえ台湾本島を巡る戦争で大損害を被ったというのに、1隻の空母もなくなれば――周辺海域における中国共産党の軍事プレゼンスは極端に低下する。

 加えて彼らはこちらの反対にもかかわらず、対北朝鮮戦線を拡大させた華鉄一国家主席の指導力さえも疑い始めていた。


「――転進?」


 高度なセンサーによって全軍の“眼”となり、隠密性を活かして内陸部への航空攻撃や非ステルス機の援護と活躍していたJ-35の母艦、003型航空母艦は、002型航空母艦沈没の6時間後、三亜総合保障基地(海南省三亜市)へ帰投するように命令を受けた。呉栄輝海軍大佐は命令通りに003型航空母艦を操るのみだが、肩透かしを食らったような気がした。

 この艦を温存しても、この一戦に勝てなければ何の意味もなくなるのでは、というのが彼の偽らざる心情だったが、命令に従わないわけにはいかない。


 003型航空母艦の後退は、即座に“中立国”の無人航空機や哨戒機から米華連合作戦司令部に伝えられた。彼らにはその理由まではわからない。が、これが敵揚陸部隊を撃滅する好機であるとみた。


 他方、台湾本島から北東に数百km離れた海域でも、反撃が始まっていた。


「やっぱり半年前までは戦争のイメージがなかったですよね。でもこう、中国と戦争をしていてね。ミサイルが飛んできたと聞いたとき、はっとしたんですよ。ああ、戦争をしているんだなって。やっぱりミサイルが飛んでくると戦争をしていると実感するんですね。なので今度は私たちが中国の方に戦争を実感してもらい、戦争の悲惨さ――これを伝えていきたい」

「?」


 という和泉三郎太首相のコメントの後、護衛艦『かが』を中心とする海上自衛隊第4護衛隊群が再び大陸沿岸部を荒らし回り始めたのである。

 これは以前の超音速ピンポンダッシュ作戦の焼き増しに近いが、現在は状況がかなり違っている。

 自衛隊は海上自衛隊第4護衛隊群のみならず、地上滑走路の復旧完了に伴い、F-35Aから成る第3航空団やF-2Aを擁する第8航空団が攻撃作戦に参加できるようになっていた。

 一方、防戦側となる中国人民解放軍といえば、有力な戦闘機部隊を台湾海峡に投入せざるをえず、山東省から江蘇省に至る一帯の防空に使える戦闘機部隊はJ-8から成る第78航空旅団しかなかった。


「あのふざけた若僧の鼻っ柱を折れ!」


 和泉三郎太首相の安い挑発に――安いからこそ憤慨した華鉄一国家主席は、第4護衛隊群の撃破を強く命じた。

 そのため台湾方面の航空攻撃作戦に向けて準備を整えていた第85航空旅団のSu-30MKK戦闘攻撃機をはじめとする戦闘機・攻撃機隊が急遽、九州沖へ攻撃に向かうこととなり、中には空中給油を受けての殴りこみとなる戦闘機部隊まで現れたほどであった。

 そのほとんどが、攻撃地点まで進出できずに撃破された。


(くそ、台湾から九州へのフライトかよ――)


 深く、広い蒼穹の空。

 Su-30MKKから成る攻撃隊は、東シナ海上にて援護の戦闘機隊と合流し、海上自衛隊の護衛艦を叩く手筈になっていた。が、予定時刻になってもなかなか戦闘機隊は姿を現さず、ただでさえ苛立つ操縦士たちをさらに苛立たせた。しかも作戦説明が徹底されておらず、どれくらいの規模の戦爆連合で敵艦隊に挑むのかもよくわかっていなかった。

 だからもしも接近する影を視認できたとしても、抵抗はできなかったかもしれない。


「まずいッ、レーダー照射!」

「散開しろ!」

「FOX1」


 背後に忍び寄ったF-35A戦闘機2機がAIM-120Cを発射する間際に、彼らは異変に気づいたが、あまりにも遅すぎた。チャフとフレアをばら撒いて回避機動に移ったが、瞬く間に3機が火達磨になり、残る1機も背後に迫るミサイルを振り切るため、大陸沿岸部へ退かざるをえなかった。


 自衛隊機の攻撃目標は、中国人民解放軍北部戦区海軍・青島総合保障基地であった。この基地は、いまは亡き航空母艦『遼寧』といった巨大な水上艦艇に補給が実施可能で、また複数の埠頭を擁しており、平時から10隻以上の水上艦艇が係留されている軍事施設である。

 東シナ海へ突きつけた刃、というよりも、渤海・黄海を睨むという趣のある海軍基地であるため、日中戦線においては前線にはあたらない――故に中国側は、自衛隊の攻撃は江蘇省・上海市・浙江省の航空基地に指向されると考えていた節がある。

 故に、日本側の攻撃はちょっとした奇襲となった。


 JSM(統合打撃ミサイル)が地上施設に直撃するまで、青島総合保障基地では警報のひとつも鳴らなかった。

 不用意に警報を鳴らし、それが誤報だった場合、将兵に無用の動揺を与えるというのがその理由だが、その代償は守るべき将兵の生命で贖われる。

 F-35Aが放ったJSMにより地上施設と地対空ミサイルが配置されていると思しき陣地が打撃された後、低空飛行で攻撃地点まで進出してきたF-2Aの攻撃隊が舞い上がり、200km先に係留されている水上艦艇を狙い撃つ。

 まず最も東方に位置する埠頭に係留されていた903型総合補給艦『太湖』が、空対艦誘導弾の直撃を受けて炎上。続けてその黒煙の合間から現れた空対艦誘導弾が052型駆逐艦『青島』に命中し、艦体中央で炸裂した。それを皮切りに青島総合保障基地まで辿り着いた数発の空対艦誘導弾が、潜水艦支援艦や埠頭に衝突――ものの10分で青島総合保障基地の基地機能は失われてしまった。

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