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78/81

■78.しばらくしたら前線がひりひりしてきたし、002型航空母艦『山東』が発艦のために南シナ海の同じ海域をぐるぐるしている。『山東』がJ-15艦上機をドバーッと出していたら、

 台湾本島攻防戦は、拡大を続ける。

 中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部は、第4世代ジェット戦闘機を掻き集めて台湾本島南端の航空優勢を得て、高雄市に隣接する屏東県南西部に中国人民解放軍空降兵第134旅団を空挺降下させ、さらに中国人民解放軍海軍陸戦隊・第4陸戦旅団を強襲上陸させた。さらに徴用した漁船に分乗した陸戦隊員たちが、屏東県南西部の漁港を奪取。

 台南市・高雄市の防衛に集中していた台湾側は、虚をかれるような形となった。


「目標は林邊大橋だ」


 上陸に成功した第4陸戦旅団は、周囲の橋梁の確保に動いた。

 台湾南部は河川や通行困難な湿地、湾が入り乱れているため、空降兵たちと連絡するためにも、橋梁や幹線道路の重要性が高い。時間との勝負とばかりに、05式水陸両用歩兵戦闘車を先頭に押し立てて前進する。

 ところがその彼らの前に、アメリカ陸軍第8騎兵連隊第2大隊“種牡馬スタリオン”が立ちはだかった。

 橋から数百メートルの三叉路に差しかかった先頭の05式水陸両用歩兵戦闘車が突如として火を噴き、火を噴きながら雑居ビルの一角に突っこんだ。三叉路に面する中学校からさらに曳光弾がはしる。

 校舎裏で待っていたM3A3騎兵戦闘車の、世界で一番熱いラブレター。25mm機関砲弾のてい射はあっという間に複数車を大破炎上させてしまった。


 その遥か頭上を舞うのは、沖縄県に駐留するアメリカ空軍第44戦闘飛行隊のF-15C。

 航空優勢というものは、恒常的なものではない。

 そしてF-15Cという巨大な鷲の翼のもとを、F-16Vがける。

 台湾本島東部、花蓮航空基地から出撃した中華民国空軍第5戦術混合連隊・第17戦闘機作戦隊の2機だ。その翼にげられているのは、数発のクラスター爆弾である。

 漁港を占領していた陸戦隊員たちにとっては、一瞬の出来事だっただろう。漁港が収まる500m四方の範囲に無数の対装甲子弾が降り注ぎ、漁船と埠頭を破壊した。

 戦線のあらゆる場所で、あらゆる種類の砲弾が中国人民解放軍将兵を殺傷し続ける。

 中国人民解放軍南部戦区海軍第17護衛支隊の056A型コルベット『広安』は、海軍陸戦隊の苦境を捨て置けず、海岸線に肉薄するインファイトに臨んだ。

 ステルス性を意識した76mm速射砲塔を旋回させ、味方の行く手を遮る市街地を目標に艦砲射撃を実施し、また強襲上陸地点に選ばれた海水浴場を近接防空用のHQ-10艦対空ミサイルで守ろうとする。


「数千万ドルの大物がきたぜ」


 その勇敢な『広安』に立ち向かったのは、より勇敢な生身の歩兵たちであった。堤防の裏から身を晒すなり、8キロ以上の弾頭を有する対戦車ミサイルが洋上の『広安』に指向される。

「発射――」後方爆風とともにミサイルが宙に放り出される。

 そして一閃。『広安』には30mm機関砲による防御の時間さえ与えられなかった。空中でロケットモーターを点火した弾体は、瞬く間に加速すると艦橋に突き刺さった。爆風と火焔と血肉が窓という窓から噴き出す。

 さらに1分の内に2発目、3発目が撃ち出され、『広安』艦内は阿鼻叫喚の地獄と化した。のたうち回る『広安』は76mm速射砲で、堤防や海岸に面する水処理施設を乱打したが、その頃にはすでに対戦車ミサイルを抱えた歩兵小隊は撤退している。


「現状はあまりよくないようですが――」


 南シナ海上の002型航空母艦『山東』では、空母機動部隊の司令官である余志豪海軍少将が戦況の報告を受けていた。

 ひっきりなしに届く支援要請に、『山東』の参謀たちは優先順位をつけてひとつひとつ処理している。そのためにも余志豪海軍少将は、『山東』に艦上戦闘機の発進を助けるために、海上を高速で航行するよう求めていた。

 ただし作戦空域から離れすぎてはならないため、自然と同じ海域を往復したり、ぐるぐる回っていたりするような格好になっている。しかしながら、052D型駆逐艦を帯同するなど、敵戦闘攻撃機による反撃に対する備えは万全である。

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