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■51.白日はいまだ天にあり。(前)

 さて。

 この極東大戦における日本国自衛隊と中国人民解放軍が抱えている問題には、実は共通点があった。

 それは何かといえば、長大なる戦線だ。

 日本側は一見するとこれに当てはまらないように思えるが、半島有事に伴う邦人輸送は現在も継続中であり、日本海・朝鮮半島・九州島・南西諸島という一筆書き約2000kmの戦線を自衛隊はまず抱えている。

 さらに中国人民解放軍海軍潜水艦部隊が太平洋上に進出し、海上交通破壊に打って出る可能性が高い以上、神奈川県横須賀市から約1200km離れた南硫黄島や、沖縄県那覇市から約400km、鹿児島県鹿屋市から約700km離れた沖大東島といった太平洋の離島周辺海域まで警戒しなければならない。

 つまり先の戦線に加えて、太平洋西部全域に自衛隊は部隊展開することを強いられていた。南方のシーレーン防衛も考えれば、その行動範囲は未曾有のものとなろう。


 他方、中国人民解放軍だ。

 彼らも想像こそしていただろうが、中国人民解放軍はインド洋から南シナ海・東南アジア・台湾本島・琉球弧にわたって、いくつかの敵と対峙し、そして無数の仮想敵と睨み合っている。

 東シナ海一円は言うに及ばず――南アジアや東南アジア諸国の動向と、所謂チョークポイントの海上交通を確保するために進出しつつある各国軍が、彼らの頭を悩ませていた。


 現時点でこの極東大戦に参戦している国家は、日本国・大韓民国・中華民国・アメリカ合衆国を除くと、オーストラリア・イギリス・フランスの3か国のみだ。


 オーストラリア軍はANZUS(オーストラリア・ニュージーランド・アメリカ合衆国間安全保障条約)に基づいて朝鮮人民軍が米軍を攻撃した時点で参戦している。

 英仏については朝鮮人民軍南侵開始と同時に、朝鮮国連軍後方司令部へ顧問団を送り、また避難民の輸送とその護衛のために航空機部隊と水上艦隊を派遣していたが、中国共産党首脳陣の通商破壊宣言に対して米国政府に協調――つまり対中参戦するという姿勢をとった。

 国連軍後方司令部に駐在武官を常駐させている国家は、他にカナダやイタリア、トルコなど数か国があるが、現時点では駐在武官の数を増やし、朝鮮半島・台湾本島からの自国民避難のための情報収集を実施するに留まっている。


 現在のところ旗色を明らかにして軍事行動に踏み切った国家は、以上のように決して多いとはいえない。

 しかしながら今後はどうなるかはまったくわからなかった。


 対中参戦が確実視されている国家としては、まずフィリピン共和国が挙げられる。

 南沙諸島を巡って中国と対立してきたフィリピン政府は近年こそ中国共産党に譲歩するような姿勢をみせる一方、着実に軍事力の強化にあたってきた。

 そしてアメリカ・フィリピン間では米比相互防衛条約が締結されており、フィリピン政府が国内の基地をアメリカ軍に開放し、自身も一気に中国が実効支配する島嶼を“奪還”する可能性は十分に考えられる。

 実際、フィリピン軍は「朝鮮半島からの自国民避難を支援するため」という口実で動員や部隊移動を進めていた。


 火事場泥棒に出るのではないかという点で、中国共産党首脳陣はベトナム社会主義共和国も怪しんでいた。

 1979年の中越戦争や80年代の国境紛争は有名だが、それ以外にも南ベトナム軍は1974年の西沙海戦に敗北して西沙諸島を中国人民解放軍に奪われ、1988年には南沙海戦に同じく敗北している。これらの出来事は30年以上前の出来事ではあるが、反中感情を有する者は少なくない。

 中国人民解放軍の軍事行動開始の前後から、ベトナム人民軍は活発に動き出している。

 カムラン海軍基地からは3隻のキロ級潜水艦が姿を消し、元韓国海軍所属の中古である浦項級フリゲートやロシア製11661型フリゲートといった水上艦艇も洋上に出ていた。


 インド共和国に対する警戒も必要であった。

 日米豪印戦略対話クアッドは軍事同盟ではないが、日本国とインドの間では海上輸送の安全のために協力する、という内容を盛り込んだ日印安全保障宣言と、武器弾薬や医薬品、輸送手段などを相互に提供し合うという協定が結ばれている。

 現在のところインド軍に目立った動きはない。インド政府は先に触れた日米豪印戦略対話に参加する一方で、中国主導の上海協力機構にも加盟しており、2018年には合同軍事演習も実施――中国側にも配慮する姿勢をとっている。

 が、国境紛争やインド洋における利害衝突を鑑みれば、これを機会にインド政府がなにがしかの決断を下す可能性もあった。


「四方八方、敵だらけだな」と開戦前、華鉄一国家主席は語っていた。

 が、このときはさして深刻には感じていなかったらしい。琉球弧など鎧袖一触に風穴を空け、台湾武力併合への道筋が容易につくと考えており、第三国は中華人民共和国の経済力・軍事力を前に逡巡するに留まると思っていたからだ。

 ところが現実はシビアで、国際社会は台湾や日本に対して同情的であった。イギリス連邦であるものの、親中的立場をとるシンガポールやマレーシアでさえ、今回の中華人民共和国の武力行使に対して遺憾の意を表している。

 この状況を打開する手立てはひとつだけだ。

 要は台湾をさっさと陥とし、アメリカ軍に痛撃を与えて、周辺国に諦めさせてしまうことである。


 しかし、その台湾が問題であった。

 中華民国国軍が一挙、反撃作戦を決行したのである。




◇◆◇




次回更新は2月7日(月)18時を予定しております。

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