■49.「ちうごくの無限セんスん艦作戦は流石に卑怯すぎるだろ。流石きたないちうごく汚い(日本語)」(前)
(釣果はゼロか――)
海上自衛隊第1護衛隊群司令の東雲司は内心落胆した。が、同時に損害がゼロだったことにも安堵した。艦上機と操縦士が無事なら、また攻撃を実施するチャンスもあるだろうというのが、彼の思いだ。
小林三等空佐らの航空偵察によると、敵揚陸艦を含む水上艦隊は1隻も欠けることなく健在とのことであった。海上自衛隊第4護衛隊群が96発の空対艦ミサイルを防ぎ切ったように、敵駆逐艦部隊もまたこちらのミサイル攻撃を凌ぎ切ったというわけだ。
一方で第1護衛隊群司令部首席幕僚の来島良亮一等海佐は、「作戦は成功ですね」と開口一番に言った。
日米歩調合わせてのF-35B戦闘機集中投入により、水物の航空優勢は(一時的にだが)日米側のものとなり、この機を逃さずに武器弾薬を満載した陸自のV-22オスプレイが沖縄本島を発していた。
従来の大型輸送ヘリCH-47の巡航速度は時速250km程度だが、V-22オスプレイの巡航速度は時速約550kmと遥かに高速であり、沖縄本島から与那国島まで1時間程度しかかからない。
「どうやらここはガダルカナルにはならなさそうだな」と第22即応機動連隊・本部管理中隊の面々は安堵した。
弾薬の消費が激しく、少しでも補給を求めているのは第22即応機動連隊も中国側と同様だ。彼らは敵の先制攻撃で壊滅した与那国駐屯地の代わりに、島の南西部にある牧場でV-22オスプレイを迎え、迫撃砲弾や91式携帯地対空誘導弾を受け取った。また復路に就くV-22オスプレイには、空路に堪えられるであろう重傷者を仮包帯所から出して乗せている。
さて、一方の055型駆逐艦『南昌』率いる駆逐支隊と揚陸艦はZ-8C輸送ヘリを収容し、与那国島への補給を中止していた。
「こちら『開封』。負傷者9名。航行可能なるも広範に亘る被害を受く。30mmCIWSが全損、多目的レーダー1基が損傷、左舷に破孔多数――」
実のところ護衛役の駆逐支隊は、まったくの無傷で済んだわけではなかった。
自衛隊が放った空対艦ミサイルのほとんどを、強力な防空艦である055型駆逐艦・052D型駆逐艦2隻はHQ-9B艦対空ミサイルで次々と撃墜してみせた。
が、それでも撃ち漏らしは出るものだ。
2発の対艦ミサイルが052D型駆逐艦『開封』の至近距離にまで迫り、『開封』は有効射程3kmの30mm機関砲を使うまでに至った。
濃密な弾幕により敵弾頭が砕ける――見張りの水兵らが安堵する間もなく、爆散した破片と火焔の塊が『開封』へ押し寄せた。30mm機関砲弾のストッピングパワーを以てしても、亜音速で突っこんでくる対艦ミサイルの運動エネルギーを殺し切るのは難しく、これによって『開封』の艦上構造物は多少の被害を受ける形となった。
さて、最前線となる台湾本島・与那国島から遥か後方でも、大きな動きが生じていた。
まず特筆すべきは、アメリカ合衆国政府によるオペレーション・センユウの発動である。
これは端的にいえば、アメリカから日本国への武器供与・武器輸送作戦だ。
「われわれは再び自由主義の兵器廠となる」
「かつて連合国軍を苦しめた日本軍を、巨大な兵站が支援する。アメリカ製の刀槍と鎧を纏った侍を、野盗風情が屈服させられると思ったら大間違いだ」
とは、アメリカ大統領のコメントである。
自衛隊は緒戦の先制攻撃によって多数の装備品を失っており、またこの極東戦争は長期化が予想されている。そのためアメリカ合衆国政府は日本国への武器弾薬等の供与や、中華民国国軍支援の布石として、追加の軍需物資集積に踏み切ったのであった。
すでに初日の時点で対艦ミサイルのハープーンや、F-35戦闘機用のAIM-120Cといったミサイルの輸送が始まっており、また自衛隊の作戦機用・部品取り用として、アメリカ国内に退役後も保管されているP-3C対潜哨戒機やF-15C戦闘機の活性化がスタート。さらにアメリカ合衆国政府では軍需品の戦時増産への着手が真剣に検討されている。
他方、中国共産党首脳陣は台湾本島から日本列島に至るまでの空域を飛行禁止区域、周辺海域を完全排除水域に指定し、これを守らないものは台湾分離勢力に加担するものであるから、無通告で排除するとした。
無論これは中国共産党が一方的に主張したものに過ぎないが、日本政府や周辺国が無視出来るものではない。
特に後者、完全排除水域の設定は、中国人民解放軍海軍の無制限潜水艦作戦――徹底的な通商破壊を目論んだものであった。
「遼寧の仇だ」
と、中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部の海軍参謀らは息巻いた。
「先の大戦同様に、海上封鎖で枯死していけ――!」
中華人民共和国国家主席の華鉄一が潜水艦による報復を指示したこととは関係なく、最初から彼らは海上交通を破壊するつもりであった。そのため、中国人民解放軍東部戦区・北部戦区海軍は開戦直前、数多くの通常動力潜水艦や攻撃型原子力潜水艦を太平洋側へ進出させていた。そして海軍関係者は誰もがこれによって海洋国の日本を屈服させることが出来る、と信じて疑わなかった。
……実際には中国側の潜水艦のほとんどは、アメリカ軍の偵察衛星と日本列島近海に敷設された日米の固定型聴音装置によって捕捉されているとも知らずに。
はっきりいってこの中国共産党首脳陣による通商破壊宣言は、悪手であった。
結果的にこれが自国民の台湾・韓国・日本からの避難を支援していた各国政府を激怒させ、日本近海に展開する諸外国海軍が、旗色を鮮明にするきっかけとなってしまったからである。
「お前らチャイナは歴史の浅い一般海軍。その一般海軍がナメた態度で海の交通ルール破壊をしたことでフうソスの怒りが有頂天に達した。この怒りはしばらくおさまることを知らない(日本語)」
その筆頭は、ラファール艦上戦闘機約20機と十数機の各種ヘリ、早期警戒機等を擁する巨艦――。
「シャるるドんゴうルが強いのは当然に決まっている。ウランの鉄の塊で出来ているシャるるドんゴうルが重油装備の汚いちうごく空母に負けるわけがない(日本語)」
――航空母艦『シャルル・ド・ゴール』と日本語学習が趣味のフランス海軍少将、モーリス・ブーロントスであった。
◇◆◇
次回更新は1月30日(日)18:00、あるいは1月31日(月)6:00を予定しております。




