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■45.一回裏の攻撃から、二回表中国側の攻撃へ。(後)

 中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部による威信を賭けた作戦は、まず中国人民解放軍ロケット軍第61基地(安徽省)第617ミサイル旅団による弾道弾攻撃から始まった。標的は九州地方の築城基地や、新田原基地といった自衛隊基地である。復旧工事が行われていることを前提とし、戦闘機部隊の行動を封じることが狙いだ。

 開戦から中国側の弾道・巡航ミサイル攻撃にやられっぱなしの第5航空団や第8航空団の面々は歯噛みして悔しがったが、陸海空自衛隊武力攻撃事態対処統合任務部隊(以下、JTF-防人)の幕僚らは、これが敵によるなにがしかの準備攻撃――予兆なのではないかとみた。沖縄県の空自基地ではなく、九州地方の空自基地を再度制圧したということは、この九州方面にて行動を起こすと考えるのが自然であろう。

 そこで空自側では、九州地方西部の空中哨戒中であった第305飛行隊のF-15J戦闘機4機や、滑走路復旧とともに上空へ退避させていたF-2A戦闘機に備えさせると同時に、那覇基地から後退してきている第9航空団のF-15Jを岐阜基地から緊急発進させた。岐阜基地から長崎市上空までは直線距離で約700kmあるため、即座の戦闘加入は難しい。が、備えておくに越したことはない。

 第9航空団のF-15Jが慌ただしく西進を開始すると同時に、九州地方西部で警戒に就いていたE-767早期警戒管制機が、東シナ海を渡ろうとする機影を捉えた。同時にその近傍から強力な妨害電波が発されており、どうやら電子戦機を帯同する有力な航空部隊であるらしいことはすぐに分かった。


 E-767早期警戒管制機の得た情報が海上自衛隊第4護衛隊群に通報されるとともに、『ちょうかい』艦長、黒野くろのはな一等海佐は「来るべきものが来たかな」と呟いた。もしも接近する編隊が中国人民解放軍の航空部隊であれば、そこから繰り出される空対艦ミサイルの質・量は、先日に干戈かんかを交えた韓国海軍のそれとは比較にならないと彼女は考えていた。


 それは第4護衛隊群を率いる源大吾海将補も同様である。

 第4護衛隊群はイージス・システムを備えるミサイル護衛艦『はぐろ』、『ちょうかい』を擁し、それに加えて近傍にはアメリカ海軍アーレイバーク級ミサイル駆逐艦『ラファエル・ペラルタ』と同級艦『ダニエル・イノウエ』が遊弋――間違いなく、この地球上において最も強力な防空網がここにある。それでも彼は最悪の事態、つまり第4護衛隊群の全滅さえも覚悟していた。


(YJ-12をかわせるか)


 彼の意識はそこに向いている。

 中国人民解放軍は超音速空対艦ミサイルYJ-12を2015年前後から配備してきた。このYJ-12は巡航速度マッハ2で目標へ迫り、さらに目標から30km手前の位置にまで達したところで(条件にもよるが)トップスピードのマッハ4にまで再加速し、水上艦艇の防空網を一気に突破する能力を有している。

 しかしながら第4護衛隊群側もまったくの無為無策というわけではない。

 常にE-2D早期警戒機を周辺空域の警戒にてており、現在も無事帰投した真津内三佐らF-35B戦闘機を空中哨戒に出している。これにより発射されたYJ-12の早期発見と、共同交戦能力を有する護衛艦『はぐろ』による長距離対空戦闘を可能としていた。

 それでも、不安であった。


 一方で「壮観だな」と心中で呟き、勝利を確信していたのは中国人民解放軍空軍第76航空連隊――KJ-2000早期警戒管制機のスタッフらであった。

 そう思うのも無理はない。

 いま海上にて彼らがコントロールする作戦機は、J-16やH-6Jから成る攻撃隊に、露払いのJ-20A戦闘機、護衛役のJ-10A軽戦闘機やJ-16D電子戦機を加えて約40機近くにもなる。さらに第二次攻撃隊も組織されている。逆にこれだけの戦力を揃えて、戦果が挙げられないなどという事態は許されなかった。


 後に五島列島沖航空戦と称されることになるこの戦闘は、中国人民解放軍空軍第9航空旅団所属J-20Aステルス戦闘機2機の突撃から始まった。射程距離200kmを超えるPL-15長距離空対空ミサイルを備えたこの鈍色にびいろの機体に与えられている任務は、そのステルス性能を活かして対馬海峡周辺空域へ忍び寄り、艦隊防空に就いている敵早期警戒機を撃墜することであった。


(連中は間違いなくE-2D早期警戒機を飛ばしているはず)


 南西諸島方面の作戦から引き抜かれたJ-20Aの操縦士、衡靖巧大尉は今回も緊張こそしていたが、恐怖は感じていなかった。彼はすっかりJ-20Aのステルス性能を信頼しきっていた。J-20Aを操っている限り、自分は常に狩猟者の側に立っていられる――そう思いこんでいた。

 慢心していた、といっていいだろう。


 であるからJ-20Aが搭載するレーダー警報装置が警告音を発したことで初めて、彼は自身が遥か上空、真津内三等空佐が駆るF-35Bに狙われていることに気づいた。

 何かを言い残すいとまもない。さか落としの一撃。AIM-120Cは衡靖巧大尉が操る機体の尾翼とエンジンノズルを吹き飛ばし、瞬く間に同機を亜音速の火達磨ひだるまに変える。そして数秒後、衡靖巧大尉の生命を空中に霧散させた。同時に彼の僚機も左主翼をぎとられ、姿勢を崩したまま海面に叩きつけられている。

「2機撃墜」と報告しながら、真津内三佐は次なる中国軍機を捜索し始めた。F-35戦闘機はセンサーの塊だ。索敵はAN/APG-81レーダーだけではなく、レーザーや赤外線を利用した捜索能力を有している。レーダー波の反射を欺瞞するJ-20A相手でも、その接近を察知することは不可能ではない。


 他方、KJ-2000の管制チームは2機のJ-20Aを襲った惨劇に気づくのが遅れた。

 実戦に臨むJ-20Aは自機の存在を示すため、レーダー波を故意に反射するレーダーリフレクターなど、当然ながら装着していない。そのため最初からKJ-2000のレーダー画面に映っておらず、助けを求める時間さえ与えられなかった2機が撃墜されたなど思いもよらなかったのである。


 だからこそ作戦は、計画通りに進行した。

 航空ユニットの行動は極めて速い。KJ-2000の面々がJ-20Aの戦果を確認できずに困惑しているうちに、護衛役のJ-10A軽戦闘機と空対艦ミサイル4発を装備したJ-16戦闘攻撃機――さらにYJ-12空対艦ミサイル4発を引っ提げたH-6J爆撃機が、敵艦隊から約200km離れた攻撃ポイントに就こうとしていた。中国人民解放軍東部戦区共同作戦司令部は、いわゆるイージス艦が備える艦対空ミサイルの最大射程を約200kmと考えており、故にこれは攻撃隊の損害を最小限に抑えるための発射位置である。

 難しいのは発射のタイミングだった。

 J-16戦闘攻撃機が各機4発備えるYJ-83空対艦ミサイルは、航空自衛隊のASM-2と同様、マッハ0.9前後で飛翔する亜音速ミサイルであり、一方でH-6J爆撃機が翼下に装備する4発のYJ-12空対艦ミサイルは、前述のとおりマッハ2で目標へ向かう超音速ミサイルである。このように両者の間で速度が異なるため、96発の空対艦ミサイルを敵艦隊へ同時に到着させるには、J-16とH-6J側で発射タイミングを精密に合わせる必要がある。

 が、その問題点を彼らはこの数年間の猛訓練で克服していた。

 どこまでも理想的なタイミングで放たれた96発の亜音速・超音速の弾頭――。


 その結果はKJ-2000の面々と、第4護衛隊群司令の源大吾海将補、双方の予想を裏切る形となった。


 ただの1発でさえも、第4護衛隊群の水上艦艇に届くことはなかったのである。




◇◆◇




次回更新は1月12日(水)を予定しております。

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