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■43.オペレーション“超音速ピンポンダッシュ”!

「“中国本土”にアメリカ軍が手出しをするようなことがあれば、我々はアメリカ本土に反撃を加える」という中国共産党首脳陣の声明は、一応の牽制になっている。

 在日米軍司令官とアメリカ空軍第5空軍司令官を兼任するオリヴァー・マルティス空軍中将は、平時こそは穏やかな男だが、今回ばかりは「くそったれ」とつぶやいた。本国政府は第10山岳師団・第82空挺師団・第101空挺師団の台湾方面への派遣準備を終えながら、この段階に至って「台湾方面の作戦に関しては協議の必要がある。在日米軍は引き続き与那国島以東の作戦を継続すること」と報せてきたのであった。

「この程度のこと、政治家連中は事前に考えてなかったのか?」と、第5空軍司令部のスタッフは不満しきりだ。

 作戦参謀を務めているジャスパー空軍大佐に至っては、


「それじゃあ中国共産党コミーが“沖縄本島とその周辺島嶼は歴史的に中国領土である”と言い出したら、我々は沖縄から出ていくのか?」


 とまで放言したが、本国政府の意思は愚痴を言っても覆せるものではない。

 オリヴァー空軍中将ら空軍関係者からすれば、中国沿岸部の航空基地・海軍基地を打撃することは、必要不可欠の軍事行動だ。航空優勢の獲得は空中戦の勝利にのみ得られるにあらず。むしろ地上の敵航空基地を破壊し、敵の航空作戦に制限をかけることこそ重要である。中国人民解放軍空軍基地の“聖域化”を認めれば――この戦争には勝てない。


 その一方、和泉三郎太首相を最高指揮官とする自衛隊には、その制約はなかった。

 敵基地攻撃については数年前から度々話題にのぼっていたこともあり、陸海空自衛隊ではひそかに敵基地攻撃の研究が行われていた。あとは和泉内閣の決意次第であったが、首相経験者でもある赤河外相をはじめとした閣僚や、党重鎮らは「やれるならやってくれ」と敵基地攻撃に賛同していた。

 そして和泉首相はひとしきり野球の話をした上で「守ってばかりでは勝てません。攻める勇気も大事。いろいろ言われるでしょうが、責任は監督である私にあります」と防衛省関係者に許可を出した。ちなみに和泉首相は神奈川県横浜市の関東学舎大学付属浜浦高校で、甲子園を目指していた元球児である――。


 陸海空自衛隊邦人輸送統合任務部隊あらため、陸海空自衛隊武力攻撃事態対処統合任務部隊――JTF-防人は敵基地攻撃作戦となる作戦オペレーション・超音速ピンポンダッシュの実行を決定した。作戦名についてだが、作戦幕僚のなんとなくつけていた仮称が上層部へ伝わっていったものである。アメリカ軍の“トモダチ作戦”の命名と同様で、緊急事態にはこうしたことが起こりうる。

 超音速ピンポンダッシュ作戦の主力を担うのは、仁川港からの邦人輸送護衛任務を完遂した後、日中開戦前に補給を終えていた海上自衛隊第4護衛隊群である。


「連闘で言いたいこともあるだろうが、中国軍を挫くためには中国沿岸部にある航空基地への攻撃が不可欠だ。在日米軍が政治的制約から攻勢に出られない以上、我々自衛隊がやるしかない。そして陸上基地の多くが攻撃を受けたいま、それが出来るのは、海上に浮かぶ『かが』か『いずも』しかない。『いずも』は現在、南西諸島方面で他の作戦にあたっている。よって反撃の最先鋒を担うのは、この『かが』だ。どうか作戦成功のために奮励努力ふんれいどりょくしてほしい」


 第4護衛隊群司令部のみなもと大吾だいご海将補は、艦内放送にてそう語った。

 彼らの現在地は対馬海峡周辺だ。中国沿岸部まで直線距離で約700kmから800kmの位置に展開している。名は体を表すとはいうが、超音速ピンポンダッシュは『かが』艦上機のF-35Bに有効射程200kmを超えるJSM(統合打撃ミサイル)を装備させ、中国沿岸部の航空基地を攻撃しようという作戦だ。戦闘行動半径約900kmのF-35Bなら、対馬海峡周辺からでも十分実施可能である。

 最初の目標とされたのは、江蘇省・連雲港白塔空港だ。この空港は2021年12月まで官民共用空港だったが、同年12月2日に民間空港機能は移転し、以降は中国人民解放軍空軍基地となっているので攻撃に遠慮は不要である。この航空基地は、平時は戦闘機部隊を配備。東シナ海一円をカバーし、同時に戦闘攻撃機を進出させれば、九州島西岸を攻撃出来る位置にある。


「何も基地上空まで接近して爆弾を落とせといっているわけじゃない。そこそこ近づいてJSMを発射すればいいだけの話だ。気楽にいこう」


 編隊長を務める真津内まづうち三等空佐は、明るく振る舞った。味方の陣容は護衛役のF-35Bが2機、攻撃役としてJSMを装備したF-35Bが4機。仮にこれを6機のF-2A戦闘機と誘導爆弾でやれ、と言われれば全滅必至だが、F-35Bなら目標達成は可能だろうと彼は思っていた。懸念する点があるとすれば、F-35Bは機内にJSMを装備することが出来ないことだった。そうなるとJSMは翼下に装備せざるをえず、ステルス性能が僅かに損なわれる。


「大きな戦果が挙げられなくても大丈夫です。とにかくJSMが1発でも連中の頭上に届けば……それだけで奴らの面子は丸つぶれ。プレッシャーを与えられるというわけです」と、出撃直前、真津内三佐らは源海将補から直々に激励された。源海将補が敬語なのは、やはり海自・空自の垣根を意識してのことだろうか。

 対するライトニングファイターたちは源海将補と握手し、二言三言だけ言葉を交わした。最後に編隊で最も若い中関なかぜき二等空尉が「結果を出します」と言葉を残し、彼らは海上の人から空中の人となった。


 結論から言えば、超音速ピンポンダッシュ作戦の第一撃は成功した。

 中国人民解放軍東部戦区からすれば、青天の霹靂へきれきであった。

 彼らとて油断していたわけではない。確かに戦闘機部隊の多くは台湾方面の攻勢作戦に従事させていたが、沿岸部の航空基地には地対空ミサイル陣地を構築済みであった。

 ここでは江蘇省・連雲港白塔空港の例を挙げるが、まず敷地内には地対空ミサイルシステムであるHQ-22が展開していた。このHQ-22は射程約100kmの中国製中距離ミサイルで、2016年の国際航空宇宙博覧会で初公開された比較的新しいミサイルシステムである。さらにHQ-22の迎撃が間に合わなかった場合に備え、滑走路や駐機場等には改良型HQ-7近距離地対空ミサイルや90式35mm連装機関砲など、いささか旧式ではあるが多層的な防空網を設けていた。

 そして彼ら空軍防空部隊もベストを尽くした。超低空から急接近する未登録航空機を察知するや否や、躊躇うことなく即座に迎撃を決心。すでに彼我の距離は指呼しこにまで迫っていたが諦めることなくHQ-22を発射し、改良型HQ-7近距離地対空ミサイルを連射した。

 結果、彼らは過半数の弾頭を無力化することに成功――が、3発のJSMは連雲港市東海県の村々、その上空をけ抜けて連雲港白塔空港・約2500メートルの滑走路を直撃した。




◇◆◇




次回更新は1週間以内を予定しております。

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