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■42.天丼論法!?

「艦体破壊音――!」


 籏野艦長以下、『じんりゅう』発令所は沈黙の凱歌を揚げた。

 しかし喜びを分かち合ったのは、ほんの数秒。18式魚雷の有線誘導ワイヤーをカットした直後より『じんりゅう』は敵の反撃から逃れるべく、水深500メートル前後を目指していた。水上艦艇を狙える深度でぼやぼやしていると、すぐに対潜哨戒機や後続の敵艦艇にやられる。

 ところが意外にも055型駆逐艦『南昌』、052D型駆逐艦『淮南』・『開封』は『じんりゅう』の捜索・追撃に積極的ではなかった。

 まず彼女らは『遼寧』撃沈の現場から離れるように急旋回し、曳航式ソナーを展開しつつ北北東方面に針路をとった。まるで敵前逃亡のような恰好であって、『南昌』の戦闘指揮所でも議論が生じたが、『南昌』政治委員である王飛は「このまま直進しては対潜戦闘や救助活動の前に食われる可能性が高いと思いますが」と血気にはやる周囲を説得した。日本側の潜水艦が、刺し違える覚悟で待ち構えている可能性を考えたのである。


「海上自衛隊は通常動力潜水艦しか保有していません。最大速度は約20ノット――それも10分程度が限界でしょう。15ノット(時速約28km)前後が現実的な数字ですから、こちらの速力にはついてこられません。まず振り切りましょう。そこから仕切り直しです」


 駆逐支隊の幹部らは彼の主張に合理性を認め、復讐戦は応援の対潜哨戒機に任せることにした。中国人民解放軍海軍は近年、Y-8輸送機に手を加えた対潜哨戒機GX-6(高新6号/空潜200)を50機以上配備している。性能としてはアメリカ製対潜哨戒機P-3に近い。巡航速度は時速600km程度であるが、潜水艦を追い回すには十分だ。

 しかしながら水上艦艇の撤退により、与那国島の攻略は頓挫することとなった。


 そのほぼ同時間帯――。

 北東に約2000kmの地では、“宣戦布告”が行われようとしていた。


「ただいまより和泉三郎太内閣総理大臣による記者会見を行います。はじめに和泉総理からご発言が、えー、ございます。その後、皆様から質問をいただきます。それでは総理、お願いいたします……」

「はい。和泉三郎太です。えー、まず、中国人民解放軍の武力行使により、生命を落とされた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。日本国と周辺国において、多くの人々が戦禍に巻き込まれていることについて、中国共産党に対し、甚だ遺憾いかんの意を表するものであります。また国民の生命を守るため、尽力されている自衛隊、警察、消防、地方公共団体、企業、そして協力してくださっている国民の皆様には、感謝申し上げます」


 いつもの鮮やかなネイビーブルーではなく、ダークスーツで姿を現した和泉三郎太は開口一番、全責任は中国共産党と中国人民解放軍にあるという旨をはっきり主張した。これは至極当然のことなのだが、内省的なマスメディアと、極東事情に明るくない海外メディアを意識しての発言である。続けて和泉三郎太は南西諸島を中心として、航空戦が断続的に発生している旨、そして与那国島にて地上戦が生起していることに触れた後、


「日本政府は勿論、戦争を望みません。ですがいま、中国人民解放軍の武力攻撃によって多くの人々が戦禍に巻き込まれている以上、政府は日本国民の生命と財産を守るため、自衛権の下で自衛隊に武力の行使を命じる等、必要な措置をとるほかありません」


 と結んだ。

 続いて詰めかけた記者との質疑応答である。多くの記者が真っ先に挙手をする。


旭日きょくじつ新聞の丹波たんばです」


 旭日新聞の政治記者、丹波たんばは何の感情も込めずに、準備された質問を読み上げる。質疑内容を要約すると「戦争勃発の責は、尖閣諸島を巡って日中間の対立を煽ってきた日本政府にもあるのではないか」というものだった。

 これに対して和泉首相は小首をかしげると、「ないですね」と即答した。


「日本国民や周辺国の人々に対して、中国人民解放軍がミサイルを撃ちこむことで戦争は始まったんですよ。つまりどういうことかといえば、日本国民や周辺国の人々に対して、中国人民解放軍がミサイルを撃ちこんだということなんですね。ミサイルを人に撃てば、人は死にます。つまり中国政府は人殺しを始めた人殺しで、日本国民は被害を受けている被害者なんです。われわれに責任はいっさいありません」


 続く他社の新聞記者も日本政府の対応に問題がある旨を問いただそうとしたが、やはり和泉首相は同様の回答をした。

 和泉首相は、本来ならば善悪では図りきれない高度な国家間の問題を、単なる道義上の問題に落としこんでいた。戦争は人殺しであり、始めた側である中国が絶対的に悪い。なので被害者側である日本は人殺しの中国に対して“道徳的優位”にあり、いかなる責任もない、というわけだ。「中国=加害者=悪」という図式を“和泉構文”で繰り返す首相に対して、記者たちは表情を硬直させた。これではどこを切り取っても「中国=加害者=悪」というコメントにしかならないではないか――。

 なぜか一部の新聞記者は、日本側にも責任や落ち度がある旨を和泉首相に認めさせようと必死になったが、和泉首相は何の臆面もなく「加害者は中国政府なので、中国政府は加害者なんですね」と繰り返した。一部のマスコミはこれを「天丼論法」と評したが――中国人民解放軍の脅威に晒されている当事者こくみんからすれば、そんなことはどうでもよかった。


 一方の中国共産党首脳部は、自身らの武力攻撃の正当化に腐心ふしんしている。

 彼らは「台湾は中国領土の不可分の一部であり、台湾に関する諸問題は、我々の内政的問題である」と強調し、中国人民解放軍による南西諸島と在日米軍基地・自衛隊基地への攻撃は、アメリカ軍による“侵略”を粉砕するための正当な武力行使であると主張。仮にアメリカ軍が大陸沿岸部の空軍・海軍基地や、台湾本島に“駐屯”している地上部隊に対して攻撃を実施した場合、中国人民解放軍は即座にアメリカ本土へ反撃を行うと声明を出し、アメリカ政府を牽制した。

 前後して、駐日大使館を務めたこともある中国外交部関係者の張森は「これは中国の自衛戦争であり、日中間軍事衝突の責任はアメリカ軍の駐屯を容認してきた日本側にある」とSNSに日本語で投稿しており、これがまさしく中国共産党側の言い分であった。




◇◆◇




次回更新は1週間以内を予定しております。

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