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■39.与那国島、陥ちず――!?(前)

 与那国空港の滑走路南側に建っている旅客ターミナルビルが、突如として爆発した。

 純白の屋根をぶち破った弾頭は、チェックインカウンターの直上で炸裂し、その前面に広がるロビーを爆風で薙ぎ倒し、玄関のガラス窓をすべて吹き飛ばした。巻き上がった粉塵が、隣接する土産物コーナーを呑みこみ、陳列されたままの酒瓶の表面を汚した。

 続く2発目は土産物コーナーの向かい――滑走路に面するレストランを直撃した。

 茶色のニス仕上げのイスとテーブルは薙ぎ倒され、島内名所の写真を張りつけたガラス戸は粉々になり、土産物コーナーの壁に突き刺さる。外界からなだれこむ風に、千切れかけた写真がバタバタとはためいた。


「狙いは与那国空港かな?」


 与那国空港南方の森林公園。

 闇と木々と虫のこえの合間に、第22即応機動連隊・情報小隊員の白い眼が8つほど、浮かんでいる。

 顔面や首筋までドーランを塗りたくって森と同化した彼らは、旅客ターミナルビルから立ち上る煙を見つめていた。


「さっきの砲撃も216号のまわりだったからなあ」


 まとわりつく羽虫を追い払い、武者震いする。

 1時間前まで散発的に続いていた敵の艦砲射撃とおぼしき攻撃は、与那国空港南方を東西に伸びる県道216号の南側に集中していた。おそらくそこに連なる森林を吹き飛ばしておくことが敵の狙いだろう、と彼らは推理していた。


 しかし攻撃の効果はどうか、といえば微妙であった。

 砲撃は長時間続いたが、被害はほとんど出ていない。

 まず第22即応機動連隊は主力を与那国島南部、久部良くぶら岳から宇良部うらぶ岳にかけての丘陵・森林地帯に隠している。

 島内は狭い。与那国空港を守るにしても、与那国島南部からでも迫撃砲や各種ミサイルで反撃が可能だから、重装備に関しては敵に発見されやすい空港周辺に配する必要がないのである。

 情報小隊員らからすると「なんか見当はずれのところを攻撃しているなー」くらいの感覚だった。


 前述した丘陵地帯に潜む第22即応機動連隊の幕僚らは、また違ったことを考えている。


「陽動でしょうか」


 夜通し続いた砲撃は水上艦艇による艦砲射撃である可能性が高いが、現代の水上艦艇が備える速射砲による対地射撃の陸上防御陣地への効果は限定的だとされている。

 相手は故意に艦砲射撃を与那国空港周辺に実施し、こちらの注意を引きつけておいて、島の北西部等に広がる畑地に空挺強襲を仕掛けるつもりなのではないか、と彼らは疑っていた。

 艦砲射撃を利用した心理戦、陽動作戦は先の大戦でアメリカ軍が利用したである。


「いずれにしても制圧可能ですが……」


 一方、指揮所に詰めている火力支援中隊(重迫撃砲中隊)の幹部は、特に問題はないと考えていた。

 120mm迫撃砲なら島内全域が有効射程内である。

 普通科中隊の迫撃砲小隊が備える81mm迫撃砲でも、ほとんど困ることはないだろう。


「うん」


 それについては志生野しおの克己かつみ一等陸佐も同意見であった。

 むしろ彼が頭を悩ませ、そして驚いていたのは中国軍の精密な航空攻撃に対してである。

 与那国空港にしても滑走路はまったくの無傷であり、障害になりそうなターミナルビル等の建造物だけが狙撃されている。

 先の隠密上陸部隊を撃破した際も、島内を無人航空機で監視していたのか、10分後には迫撃砲小隊の陣地がミサイル攻撃を受けた。勿論、迫撃砲も小隊員らも移動を終えた後で無事だったが、最悪の場合は全滅もあり得ただろう。

 もしも中国側が島内全域を監視出来ているのならば、舗装路や開けた場所に出た途端に攻撃を受けるという可能性があった。


 与那国島を巡る本格的な戦いは、夜明けとともに始まった。

 東の空が白み始める――と同時に北の水平線上から漆黒の影が出現した。


 昆虫然とした面構え。

 複座式の操縦席を有する細長い機体。機首には回転式のセンサー類と、23mm機関砲。胴体側面から伸びる補助翼には、純白のAKD-10空対地ミサイルが吊り下げられている。

 Z-10攻撃ヘリは爆音を轟かせながら、威圧的に与那国空港直上にまで達すると、センサーを起動して対地走査を実施した。


「敵の反撃はない――」


 Z-10攻撃ヘリの任務は与那国空港一帯の制圧だ。

 その上空には対レーダーミサイルやレーザー誘導爆弾を備えたJ-16戦闘攻撃機が控えている――自衛隊側の地対空ミサイルを封じるためだ。


 そこへ“本命”が来た。

 完全武装の海軍陸戦隊を運ぶ水色の輸送ヘリ4機と、1機あたり100名の空降兵を乗せているY-9輸送機である。

 このY-9は四発のターボプロップエンジンを備える戦術輸送機であり、機体規模としてはC-130輸送機に近い機体だ。巡航速度は時速500kmから600kmとされている。

 そのY-9が時速200km前後にまで減速しながら、与那国島へ接近してきた。当然、空挺強襲のためである。巡航速度の500kmは機体から外へ飛び出す空降兵らが耐えられる速度ではないのだ。


 箱型の輸送ヘリ4機はZ-10攻撃ヘリの援護の下、与那国空港駐機場や駐機場に近い滑走路に着陸すると、胴体側面のドアから青い迷彩服を纏った海軍陸戦隊隊員を吐き出した。

 それに僅かに遅れて1機目のY-9輸送機、その機体後部から次々と空降兵らが飛び出していく。

 彼らの着地先は与那国空港旅客ターミナルビルから東方に3km離れた畑地一帯だ。

 僅かに遅れて進入してきたのはターボファンエンジン4基を有する大型輸送機Y-20だ。この新鋭機は4つの落下傘を有する巨大なパレットを与那国空港の滑走路へ次々と投下し、即座に北西の空へ離脱していった。空中に浮かぶ3つのパレットの内、ふたつは03式空挺歩兵戦闘車を載せたもので、残る1つは軍需物資である。

 そして2機目、3機目のY-9輸送機が与那国島上空に姿を現した。


(大丈夫だ、敵は対地ミサイルと艦砲射撃でこっぴどくやられている。周囲はZ-10攻撃ヘリが睨みをきかせている)


 Y-9の機長は自機を大減速させながら、そう願っていた。


 いま地対空ミサイルを発射されれば、どうあがいてもかわせないと彼は思っていたし――事実、そうなった。


 宇良部うらぶ岳周辺から発射された91式携帯地対空誘導弾は、記憶した敵の機影目掛けて空へ翔け上がった。

 超音速に達する弾体、方や標的は高度数百メートルを時速200kmまで減速させた輸送機。

 あっ、と地上の誰かが叫んだ1秒後。弾頭は2機目のY-9輸送機の最左端エンジンに急接近し、炸裂した。

 鋼鉄が鋼鉄を噛み砕く、嫌な音が響き渡る。

 無数の破片を巻き込んだエンジンは煙と炎を吐き始め、エンジン付近の主翼部分には十数の風穴が空き――僅か数秒で粉々に砕けて断裂してしまった。

 機長に姿勢を立て直す時間など与えられなかった。

 攻撃を受けたY-9は左側へ大きく傾き、数百メートル下に待つ畑地へ無残に叩きつけられた。


 すでに与那国島東部への空挺降下を始めようとしていた3機目のY-9は、慌ててチャフとフレアを発射しながら上昇を開始したが、安全な高空まで逃げる前に同じく91式携帯地対空誘導弾の餌食となった。


 かくして火蓋は切られた。


挿絵(By みてみん)

91式携帯地対空誘導弾(※1)




◇◆◇




(※1)出典:陸上自衛隊公式flicker


次回更新は12月19日(日)18:00を予定しております。

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