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■37.雷の劔、出づる!(後)

 “暗雲”と遭遇した最初の中国軍機は、中国人民解放軍空軍第31航空旅団のJH-7Aであった。

 JH-7Aは高翼配置の主翼を有する攻撃機であり、中国人民解放軍空軍・海軍には00年代以降、250機以上が配備されている。

 中国人民解放軍空軍・海軍においては、廉価機ローにあたる機種だ。

 原型機となるJH-7は70・80年代に開発が開始され、90年代に生産が始まった機体であり、分類するならば第3世代機に近い。その改良型であるJH-7Aは、第4世代機であるJ-16やSu-30MKK/MK2戦闘攻撃機に当然劣る。


 それでもJH-7Aは緒戦から活躍を期待され、最前線へ送り出されていた。

 前述のとおり高性能とは言い難いが、対レーダーミサイル等を装備した状態で南西諸島を攻撃可能な戦闘行動半径を有しており、国内開発であるからこそアビオニクス類等のアップデートも順調にいっている。

 沖縄本島の航空基地復旧作業を妨害したり、移動式対空レーダーを牽制したりするのには十分な能力を持っているからこその登用であった。


 明け方も近づきつつある東の空へ飛び立ったJH-7A攻撃機は4機であった。

 垂直尾翼に紅星をあしらった彼らはKD-88空対地ミサイルにより、在日米軍の通信施設や弾薬庫、燃料庫といった兵站を攻撃する任務を帯びている。


(大丈夫だ、敵の反撃はない――)


 攻撃隊の面々は心中でそう唱えながら、この夜空にいる。

 油断からくる思考ではなく、恐怖や緊張を紛らわすためのまじないのようなものだった。

 これは2回目のフライトであり、最初のフライトは特に抵抗も受けることなく、目標から200km北西の洋上でKD-88を発射して帰投するだけで終わった。

 自分の目で戦果を確認することもない、あまりにも呆気ない終わり方。

 正直に言えば拍子抜けしたが、今回の航空攻撃もそうなるだろう――そうなってもらいたいと操縦士らのほとんどは思っていた。


「日美防空網はこちらの先制攻撃でズタズタに引き裂かれただろうし、生残した対空ミサイルシステムも、対レーダーミサイルを恐れて沈黙している。もしも彼らがレーダーを起動すれば、即座に待機するSu-30MKKが攻撃を実施するから安心するように」


 と、ブリーフィングでもそう聞かされていた。

 対レーダーミサイルを装備したSu-30MKKが待機しているだけでなく、KJ-500早期警戒機や電子戦機、制空戦闘機の援護も受けられる。


 反撃を浴びる可能性は、ほぼ皆無のはずであった。


(楽勝、楽勝――)


 そのまじないは、一瞬で怨嗟えんさに変わった。

 早期警戒機が警告を発することもなく消滅。

 続いて編隊最左翼のJH-7Aが爆散した。


「は?」


 左エンジンを完全に破壊され、左水平尾翼と垂直尾翼が吹き飛ばされた状態で、火を噴きながら高度を落としていく最左翼機――それを目撃した編隊長は、レーダー警報装置が鳴り始める中、「緊急回避」と怒鳴った。

 が、残る3機は効果的な回避コースに乗る前に、それぞれの未来位置へミサイルが割りこんできた。


「敵はどこにいるッ――!?」


 4機の攻撃隊から若干離れ、高空に控えていたJ-11B戦闘機の操縦士らは恐慌する本能を押さえつけながら、まず自機に搭載されている1474型レーダーが空対空モードになっていることを確認した。

 だがそこには、友軍機を示すアイコンしかない。

 まだ沖縄本島までは300km近く離れている。地対空ミサイルによる攻撃はありえない。F-35による襲撃か、あるいはイージス艦等の敵水上艦艇を見落としており、艦対空ミサイルによる攻撃を受けたか。

 護衛機の操縦士らは即座に役割分担するとそのまま対空警戒にあたる機と、1474型レーダーを空対地モードに切り替えて海上を捜索する機に分かれた。

 が、彼らは何の手がかりも得られなかった。


 すでに襲撃者たちは東方――奄美群島の徳之島周辺空域にまで脱していた。


(攻撃成功!)


 月下に鈍色にびいろの翼を輝かせて飛び去るのは、2機のF-35B戦闘機であった。

 中国側のJ-20Aと同様に、日本側もまたF-35を積極的に投入することに決めていた。

 F-35はレーダー波を発射し、距離にして約180km以内の敵機を捜索可能なAN/APG-81を有しているが、敵がレーダー警報装置を有していた場合はこちらの存在を報せる形になってしまう。

 であるからこの2機のF-35BはAN/APG-81ではなく、赤外線センサーと電子光学装置を統合化した目標指示システムと、赤外線を捕捉するAN/AAQ-37・EODASを使用――これにより自身の位置を暴露することなく、一方的に早期警戒機や攻撃機を捕捉、攻撃した。


(F-35ならやれる!)


 F-35Bを駆る内藤二尉は、無言の快哉を叫んだ。


 彼らの母艦、護衛艦『いずも』は防空能力に秀でた『こんごう』や『あきづき』とともに、沖縄本島東方沖に控えている。

 中国人民解放軍空軍・海軍は『いずも』の存在に気づいたとしても、なかなか手出し出来ないだろう。

 それは沖縄本島や奄美群島を跨がなければならないからだ。

 両島嶼を制圧しながら空対艦攻撃を実施するリスクは高い。


 夜陰、海上に浮かぶ『いずも』は内藤ら2機を合わせて、全12機のF-35Bを擁している。

 対潜ヘリも搭載するため、格納庫に収められるのは6機前後が限界だが、格納出来ない分は露天係止するなど工夫をしていた。

 F-35に期待される役割は攻撃だけではなく、哨戒もそうだ。

 早期警戒機が敵の長距離空対空ミサイルで撃墜されてしまう戦場でも、F-35なら高い生残性を活かし、前線の監視が可能なはずである。

 敵水上艦艇が沖縄本島や石垣島、宮古島に接近してくればこれを察知し、地対艦ミサイルによる攻撃に必要な敵位置情報の通報も出来るかもしれなかった。


 在日米軍も同様にF-35Bを主軸とした反撃を計画している。

 F-35Bは他の固定翼機に比較すると航続距離が短いという弱点があるものの、短い滑走路で離着陸が行えるため、ダメージを受けた空軍基地でも運用が可能であり、南西諸島での戦いに適しているといえる。

 そのため半島方面に投入されていた米海兵隊第121海兵戦闘攻撃飛行隊をはじめとするF-35Bの飛行隊は、南西諸島方面の戦線に振り替えられることになっていた。

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