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■15.激突!日韓海戦!?(中)

 釜山基地を出航した4隻の韓国海軍第7機戦師団水上艦艇は、即座に南西へ針路をとり、約29ノット(時速約53km)という最高速度で前進。

 そのまま彼女ら『世宗大王』、『忠武公李舜臣』、『大祚栄』、『王建』の4隻は、佐世保沖より最短距離で済州島沖・黄海を目指していた海上自衛隊第4護衛隊群の右舷方向から、急接近した。


挿絵(By みてみん)

護衛艦ちょうかい(※1)


 第4護衛隊群の中央を航行中であった護衛艦『ちょうかい』では、緊張が走った。


(いくら“釜山”がバカだったとしても、ワレに攻撃を仕掛けてくるとは思えないけど……)


 そう思っていた『ちょうかい』艦長の黒野くろのはな一等海佐は、考えを改めざるをえなかった。

 自衛隊機や在日米軍機とのデータリンクによると、韓国海軍水上艦艇の先頭艦は、対艦ミサイルを発射可能な間合いにまで入っている。

 また済州島上空には、4機の韓国海軍機が飛び回っており、こちらも攻撃機である可能性があった。

 この水上艦艇や海軍機に対しては、九州地方上空の早期警戒管制機や、第4護衛隊群を直接支援するE-2D早期警戒機がコンタクトを取ろうとしているが、彼らは応じないらしい。やる気なのだ。


(頭おかしいでしょ)


 彼女は舌打ちしかけて、やめた。


 陸海空自衛隊の仁川行きは“大統領”のプライドこそ傷つけるだろうが、朝鮮人民軍空海軍の攻撃を吸収する役割を果たすのだから、純軍事的にはプラス。

 加えて自衛隊は“ソウル”の承認を得て、人道的な邦人救出、また余裕があれば他国の避難民を救出する使命を負っている。

 もう国際社会からは呆れられているだろうが、これを攻撃すればさらなる国際的非難は免れない。


 それに第4護衛隊群や後に続く第2護衛隊には、在日米軍が支援に就いている。

 実際、いまこの瞬間も第4護衛隊群後方には、米海軍第7艦隊最新鋭艦『ラファエル・ペラルタ』が付いてきているし、上空にはF/A-18E/F戦闘攻撃機2機が、艦隊防空のために滞空していた。

 基本的に艦対艦ミサイルは、最後に自分自身で電波を出してその反射が大きい場所に突っ込んでいく誘導方式を採る。そのため、ミサイルが『ラファエル・ペラルタ』に向かう可能性は、皆無とは言い切れない。第4護衛隊群を撃つということは、イコール米海軍水上艦艇に向けた攻撃ととられてもおかしくないのだ。


(そんな回りくどい自殺、する?)


 と黒野艦長は考えていたが、韓国海軍第7機戦師団はどうやらするらしかった。


「わかってると思うけど、この距離で連中が面舵か取舵をとったらくるよ」


 すでに合戦準備は下している。

 CICに移った黒野艦長は、韓国側の艦隊運動を気にしていた。

 西側諸国の水上艦艇は、ミサイルランチャーを右舷・左舷に向けて搭載していることが多い。であるから発射前には、目標に向けて側面を向けるのが基本戦術となる。彼らが変針することがあれば、それが攻撃の予兆となる。

 ただし他のCICに詰める幹部らも、韓国海軍が撃ってくる可能性に関しては懐疑的であった。


 が、事態は急転直下、動き出した。


「済州島東方沖の韓国軍機から赤外線を捕捉。ミサイル発射炎のものとみられる」

「敵ミサイル16発――シースキミングに移行。SPY-1レーダーからは消失」


 韓国海軍艦艇ではなく、韓国海軍機が先に仕掛けてきた。


「敵ミサイル、E-2Dが捕捉中」


 よし、と黒野艦長は拳を握った。

 イージス艦に弱点があるとするならば、海面に浮かんでいることだ。

 敵ミサイルが超低空飛翔に移ると水平線に隠れてしまうため、レーダー波が届かない。次に自艦のSPY-1レーダーで捕捉出来るのは、水平線から再びミサイルが頭を出した瞬間だ。


挿絵(By みてみん)

E-2早期警戒機(※2)


 だがこの弱点は、高空から海面を見下ろせる早期警戒機E-2Dと、E-2Dが捉えた目標をデータリンクで共有し、これを攻撃可能とする共同交戦能力を有する『はぐろ』によって克服されている。

 それに第4護衛隊群の前方には、『かが』所属のF-35B戦闘機2機が直接援護についていた。


 黒野艦長が見たとき、敵ミサイルと護衛艦『はぐろ』との距離は、だいたい90kmあるかないかくらいであったから、『はぐろ』には迎撃する時間的余裕があるようにみえた。

 故に彼女は『ちょうかい』が出る幕はないと思ったし、実際に迎撃目標が割り当てられることはなかった。


 結果から言えば、韓国海軍第6航空戦団・第61海上哨戒機戦隊のP-3CK対潜哨戒機4機が発射した16発の空対艦ミサイルは、ただの1発も護衛艦に届かなかった。

 16発中、2発が高度を落とした際に海面に激突して自爆。残る14発は、4発がF-35Bの発射したAIM-120Cに撃墜され、10発が『はぐろ』が装備するSM-6によって叩き落された。危なげはない。

 空対艦ミサイルを発射したP-3CKは脱兎のごとく逃げ出したが、即座に先出のF-35Bが背後からAIM-120Cを撃ちこんで仕留めることに成功した。


(練度が低い)


 黒野艦長は一連の経過をレーダーで眺めながらそう思った。

 第4護衛隊群では最悪、航空攻撃と水上艦艇からの攻撃が同時にくると考えられていた。

 ところが何のトラブルがあったかは知らないが、敵航空機が先走って攻撃を仕掛けてきた。他方、4隻の韓国艦艇の方はようやく変針――取舵をとったところである。

 ここからが『ちょうかい』の仕事であった。


「アルファ1から4よりSSM、20発発射された模様」

「敵ミサイル、シースキミングに移行――SPY-1レーダーから消失」


 P-3CK哨戒機の攻撃から数分後、韓国海軍第7機戦師団の水上艦艇は、右舷側の艦対艦ミサイルランチャーを第4護衛隊群に指向し終わるなり、海星ミサイルを斉射した。

 海星は上昇した後、『ちょうかい』ら護衛艦のレーダーを逃れるため、即座に海面直上にまで降下し、亜音速で第4護衛隊群へ向かう。


 ところが20発程度では、エアカバーを受けている第4護衛隊群の防空網を突破できるはずがなかった。

 戦闘空中哨戒中の米海軍第115戦闘攻撃飛行隊のF/A-18Eと、P-3CK哨戒機の攻撃後に『かが』から発艦したF-35Bによって瞬く間に8発が撃墜された上、残る12発も約30km前後の距離まで迫ったところで、『ちょうかい』と新鋭防空艦のあきづき型護衛艦『すずつき』の艦対空ミサイルによって撃墜されてしまった。

 韓国海軍第7機戦師団の4隻が保有する海星は、両舷合わせて40発。一瞬で半分が無為に消滅したことになる。


 続けて『世宗大王』を先頭とする単縦陣は、左舷側の艦対艦ミサイルランチャーを第4護衛隊群に向けるべく、旋回を開始した。


 しかし次の攻撃を許すほど、海上自衛隊も優しくはない。

 先程P-3CKを撃墜したあと手持ち無沙汰になっていたF-35B戦闘機2機と海星ミサイルを撃墜した2機が共同してAN/APG-81レーダーによる強力な電子攻撃を実施し、韓国海軍第7機戦師団のレーダーをノイズで埋め尽くした。


「電子攻撃(EA)ですッ! 電波発信源は特定しましたが……!」

「そこには“何もない”――! 畜生、F-35の電子攻撃か!」

「焦るな……! 敵艦隊の大まかな位置は掴めている」


『世宗大王』のCICは、冷静に攻撃態勢を整えることに集中した。

 P-3CKが撃墜される前に通報してくれた位置情報さえあれば、電子攻撃で目潰しをされようが関係ない。海星ミサイルに敵位置情報を打ち込んで、発射するだけだからだ。勿論、P-3CKが送ってくれた位置情報から護衛艦は動いているため、命中率は落ちるかもしれないが、海星には自らレーダー波を出して目標を捜索する機能がある。数発は相手に辿り着くだろう――と彼らは期待していた。


 実際には、終わりが迫っていた。

 妨害電波の海を、亜音速の実体弾が掻き分けていく。

『すずつき』・『ちょうかい』・『さざなみ』の3隻が発射した12発の艦対艦ミサイル――SSM-1Bだ。

 電子攻撃によって防空能力が減じられた『世宗大王』以下の水上艦艇は、ただでさえ小さく映る発射直後の艦対艦ミサイルを見落とした。

 勿論、すぐにSSM-1Bは韓国海軍艦艇のレーダーを避けるように超低空飛翔に移り、『世宗大王』ら韓国艦艇の艦尾側に回りこむような飛行経路をとり始めていた。発射直後に発見出来なかった以上、次に捕捉するチャンスは約30km前後の近距離ということになる。


(恨みはないけどね――)


 黒野艦長は第二撃の発射のため、『ちょうかい』に取舵をとらせていた。

 おそらく12発中、12発が命中することはないはず、と彼女は見当をつけている。


『世宗大王』のSPY-1レーダーは電波妨害を背景にしていても、SSM-1Bが水平線から顔を出した瞬間にこれを探知することだろう。

 それに『世宗大王』は、フランス製捜索追跡システム“ヴァンパイア”を備えている。これは敵ミサイルが放つ赤外線を捉えるセンサーで、電波妨害を受けていても約30km以内のミサイルを発見することが可能だ。

 だが2、3発でも通れば、それで第7機戦師団の戦闘力は大きく漸減されるだろう。


 黒野艦長の予想通り、SSM-1Bの弾体は25km前後のところで『世宗大王』に捕捉された。


「艦尾方向、敵ミサイル近づく」

「敵ミサイル8発――いや、12発」

「電子攻撃(EA)はじめ!」

「SM-2、攻撃はじめ!」


 亜音速で迫るSSM-1Bはレーダーを起動し、一方の『世宗大王』もSSM-1Bから身を守るべく電子妨害装置を起動させた。これは妨害電波を発すると同時に、SSM-1Bのレーダーに対して距離・角度の誤情報を送りつけ、混乱させることを狙ったものである。

 しかしながらSSM-1Bからすれば、『世宗大王』以下の水上艦艇のシルエットは電子攻撃の中でもかなり大きくみえる。

 6発のSSM-1Bが『世宗大王』の発射したSM-2に撃墜される――その爆炎の合間を縫って、残る半数が第7機戦師団の戦陣に到達した。


 次の瞬間、衝撃波が扇状に広がって海面を押しのけたかと思うと、火炎が噴き上がった。


 まず『大祚栄』と『王建』の艦尾にSSM-1Bが直撃し、両艦は航行能力を喪失した。

 続いて『忠武公李舜臣』であるが、やはり後方からの急接近してきた2発の弾頭に対して、有効な艦対空装備を指向することが出来なかった(艦体後部には30mmガトリング砲1基しかない)。

 1発の弾頭はこの30mmガトリング砲で撃墜したものの、亜音速で飛翔してきた弾頭は数百メートルの位置で破壊されてもなお運動エネルギーを残したまま、破片となってヘリパッドに突き刺さった。

 そして残る1発は、ヘリ格納庫の外壁をぶち破って内部で炸裂――大火災を引き起こすに至った。


『世宗大王』も2発の直撃を受け、戦闘力を減じることとなった。

 1発は艦体後部に命中し、艦尾切断の憂き目に遭い、もう1発は『世宗大王』自身が放つ妨害電波と欺瞞電波によって迷走し、『世宗大王』を飛び越したところで炸裂――衝撃波と破片が幾つかのセンサー類に損傷を与えた。


「E-2Dより通報。敵艦に1発ずつ命中した模様」

「SSM-1B、撃ち方待て」


 黒野艦長が操る『ちょうかい』は、すでに左舷側のミサイルランチャーを『世宗大王』らに向け終えている。


「艦長、沈めませんか?」


 筋骨隆々の砲雷長が傍らで耳打ちしたが、黒野艦長はかぶりを振った。

 実は黒野艦長は事前に第4護衛隊群司令らと打ち合わせをしていた。相手に有効なダメージが入ったことを確認したら、早期警戒管制機等が韓国海軍第7機戦師団に対して、降伏勧告をすることになっている。


 客観的にみれば、勝負はもう決した。

 司令からの命令があれば、すぐに第二撃を食らわせることが可能だ。どの程度の被害を相手に与えたかは分からないが、現代艦艇に装甲はない。無傷はありえない。次も6発か、それ以上の対艦ミサイルが到達するであろう。

 またあと数分で空対艦ミサイルを装備して、築城基地から出撃したF-2Aも到着する。

 が、こちらとしては、出来れば降伏してもらった方が得だった。


「降伏勧告、ですか。ミサイルを節約するためですね」


 砲雷長はすぐに納得した。

 護衛艦1隻に搭載されている艦対艦ミサイル8発、すでに4発使った。

 艦対空ミサイルはワン・バイ・ワン迎撃――敵ミサイル1発につき1発消費しているので、『はぐろ』は10発、『ちょうかい』は8発使っている。

 ミサイルの洋上補給は困難であるから、『ちょうかい』の場合だと艦対艦ミサイル残り4発、艦対空ミサイル約70発で黄海に突っ込まなければならない。

 不足するということはないだろうが、朝鮮人民軍空軍・海軍が万が一、大規模攻撃を試みてくればどうなるかわかったものではない。これ以上こんなところで弾薬を使いたくはないというのが本音であった。


 数分後、『ちょうかい』のCICに朗報がもたらされた。

『世宗大王』以下、4隻の水上艦艇は降伏を決定。

 特に『忠武公李舜臣』の損傷が激しく、すぐに九州沖にて待機中であった護衛艦『もがみ』や、九州沖にて待機中であった海上保安庁ふそう型巡視船『やしま』等が、救援に向かうことになった。


 他方、第4護衛隊群はそのまま、黄海への道を急いだ。




◇◆◇





(※1)出典:海上自衛隊ホームページ

(※2)出典:航空自衛隊ホームページ


次回更新は8月24日(火)を予定しております。

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