表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イチモツひとり旅

作者: きむら

むかしむかし

ある村で畑仕事をする男がいた。


ある日の夜。

男は尿意に目を覚ます。

しかし何やら股の間に

違和感があった。


不思議に思って

目をこすって見てみると

なんと自分のイチモツが

身体から離れていた。


離れたイチモツは

蛇のごとくぬらぬらと地を這い回る。


男は股の間をのぞくと

きれいさっぱり消えてなくなっていた。


イチモツは動けることを自覚したのか

身体をくねらせ、男の方を向いた。


「お初にお目にかかります。

 この度、貴方から離れる機会を頂きました。

 これも何か理由があるはず。

 その理由を探して参ります」


と、イチモツは身体をぶるぶる振るわせる。

人間の様に話しかけてきたことに

男は「これはまだ夢なのだ」と考えた。


「待て。仮にも俺のイチモツ。

 小便は如何に」


男の尿意は、依然として

残ったままだった。


「女を知らないと見えまする」


「……やかましい!」


男は怒りのあまり

イチモツを勢いよく蹴り飛ばした。


思いのほか当たり所が良かったのか

村の山向こうまで飛んで行った。


* * * * *


明け方。


イチモツは山の林の中で

意識を取り戻す。

身体を起こし、周りを見渡す。


じっくり見られなかった世の中を見て

あぁこんなに広かったのだと痛感した。



近くの川を見つけ

イチモツは身体を念入りに洗った。


その時、腹を空かせた野犬が通りかかる。


ぐるる、と唸りながらイチモツに迫る。

口からはよだれがだらだらと垂れている。

野犬の身体は骨がうっすら浮き上がっていた。


"グルルァァァ!"


野犬がイチモツ目掛けて飛びかかる。


「やや、世間とは厳しいものだ」


イチモツは間一髪で野犬の牙を避ける。

慌てて野山を跳び跳ね、逃げた。


* * * * *


あわや野犬に食われるその時。


その間にギラリと光る鉄の刃が現れる。


その持ち主は、出で立ちは侍のようで

端正な顔立ちの美青年のようだった。


侍が鉄の刃を振るう。

野犬の目の前に目も止まらぬ早さで迫る。


野犬は驚いて、尻尾を丸めて逃げていった。



「大丈夫か……。

 む? 人では、ない?」


侍は首をかしげ、じっくり目の前の

見知らぬ物を見つめる。


「はじめまして。

 私は名もなき男のイチモツ。

 この度、身体を離れまして事で

 こうして世を見ようと思い

 発ったのです」


「ち、ちん○んが喋っているー!?」


侍は驚き飛び上がる。じっくりと眺めて

あぁ確かにイチモツだ、と理解した。


「申し遅れた。私、いや拙者はつる

 拙者も同じく世を見るため、回っている。

 ……ところでその、こんな事言うのもなんだが

 拙者と共に行かぬか?」


「構いませぬが、何故?」


「……あまり見せたくないのだが」


そういって侍は、服の裾を広げる。

イチモツが見たのは、真新しいふんどしに

あるべきもののない事実であった。


* * * * *


「あの、失礼ですが、女の方、で?」


「……そうだ。私は侍のフリをしている」


侍である彼女は、裾を念入りに戻し

イチモツに向かって話始める。



彼女の家系は代々名のある武芸者であった。

しかし当代は彼女だけしか子を授かれず

家は潰れてしまった。

そのため男として、侍として性を隠しつつ

武をあげようとしていた。


「各地にいる地主の元へ門を叩いた。

 そこの用心棒たちは、申し訳ないが

 そんなに力のある者ではなかった。

 しかしそれを打ち負かしても

 事あるごとに女であるとバレてしまい

 おじゃんになるんだ……」


女はイチモツに話を聞いた後、こう話す。


「どうだろう。

 しばらく私のイチモツにならないか

 武者は男しかなれない。

 武器の扱いなら負けない。

 なら私にも君というイチモツを持てば

 一番の武者となりえると思うのだ」


イチモツは冴えない男より

優秀そうな女が男になるのに

一役買うなら、と承諾し

女の股にくっついた。


女は感触を確かめ

しっかりついていることを

確認する。


* * * * *


とある屋敷の門を叩いた。


そこは名のある地主の屋敷。

用心棒として雇われに来たのだ。


主人は一目見た女を鼻で笑うが

女の股にぶら下がるイチモツを確認すると

態度を改めた。



早速、屋敷の用心棒の一人が現れる。

不意打ちとばかりに用心棒はかかるも

見るも速く、女の圧勝。


「どうされた。これでは聞いて呆れる」


その後、事態を知った他の用心棒たちが

我先にと女に戦い挑むが、全て蹴散らす。


並いる用心棒を片付けた女だが

主人は怪しむ。


そこで主人は意地悪くこう問うた。


「腕は確かだ。だがどう見ても女。

 どうだ。ひとつ男か見極めよう。

 おぅい」


そう言って、主人の女房を差し向ける。


何されても動じないはずの女であったが

女房による股蹴りをなにも知らないため、

強烈なものを食らった。


すると股にぶら下がっていたはずの

イチモツがぐらりと股からこぼれ落ちた。


「むむむ。やはり物怪だ。

 危ういところだ。引っ捕らえよ!」


「またか!」


女はイチモツをもってその場から逃げた。


* * * * *


「ありがとう、なもなきイチモツ。

 ……私は、これで吹っ切れた」


「吹っ切れた?」


女は考えた。


見てくれだけでは何にもならない。

腕が確かなのは認められたので、別の所を

向かう、と。イチモツに礼をし旅をしなおした。


「そうですか。名残惜しいですが

 別れもまた縁。どうぞお気をつけて」



女は去った。そして誰もいないことを

確認するとイチモツはその場に突っ伏す。


イチモツは強烈な一撃に悶え苦しむも

イチモツとしてあるべき痛みを再確認し帰った。


「やはりイチモツはイチモツでしかない。

 帰ろう」


* * * * *


元の主の元へ戻ると朝になり

ちょうど主が起きてきた。


「ただいま戻りました」


「(まだ夢のようだ……)」


イチモツは主に、旅の様子を聞かせると

礼儀正しくお辞儀をして

主の元ある場所へと戻った。



主である男はあくびひとつし

外の木に小便をかけて、

何事なく、仕事へと出た。

ここまで読んでくださり

ありがとうございました。


他にも投稿させていただいてます。

よければそちらも読んでいただけると

嬉しく思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が意外と可愛いやつで面白かった。読んでる途中にクスッと笑える気持ちのいい話。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ