8 コンラッド様の本気
公園の外に待たせていた公用の馬車にどうやって乗せられたのか覚えていない。たぶん、また抱き上げられたのだと思う。
でなければ、赤い天鵞絨張りの座席の上に座っているはずだ。
私が座っているのはコンラッド様の膝の上。彼はまた、男装した私をひとりの女性として扱ったようだ。……変な醜聞がたったら、と思ったが、そっちの趣味なら問題は無いだろうし、コンラッド様なら醜聞にもなるまい。絵になる気がする。
しかし、私を離さないぞ、とばかりに抱きかかえた彼は、どこに向かっているのだろう。
尋ねたくて顔を上げても、険しい顔で前を向くコンラッド様には何の声もかけられない。
(怒らせてしまった……秘密の趣味を、妻になるからと言って口出しされるのも嫌だったろうし……そもそもコンラッド様なら向こうから男も寄ってくるだろう)
馬車はなかなか停まらない。窓も木蓋が閉められて外の様子が窺えない。
私はただ、困ったことに、頼り甲斐がある腕の中でおとなしくしているしかなく、それがまた、心地よくて……、停まらなくてもいいなと思ってしまっていた。
が、そう思うと馬車は停まるもので、私はまたコンラッド様に抱き上げられて外に出た。なぜこの人は私を抱き上げるのかわからない。歩けるのに。
「ここは……」
「君の公共事業で整えられた河川敷だ。無職の者に予算を振って、河川敷を整える草案を出したろう? 実現した」
まさか、と思った。父上と兄上の仕事の一環で、国の年間予算が余った年があった。
街道整備や治水などに回すには少なく、かといって余らせてしまうと翌年度の予算が減る。本来使い切る所だが、整備予定だった橋が長雨のせいで溢れていて建造できなかった。
珍しく持ち帰ってきていた仕事で、私は市井の人が暑い時期に涼めるよう、河川敷の一部を公園として整備するのはどうかと提案してみた。
夏は、貴族は避暑に行くこともできるが、日々を生まれた場所で暮らして人生を終えて行く多くの民にとっては厳しい季節だ。
熱中症で亡くなる者もいる。正しい治療法や休養の方法が知られていないせいだ。
だから、涼める場所を街のそばに作るのはどうかと思っての事だった。
河川敷が崩れない様太い木を植樹して根を張らせ、ひんやりとした石畳を所々に敷き、寝そべる事ができる木陰のベンチを作り、川の浅瀬に降りるための階段を作る。
これを、監督する業者と、実作業は仕事にあぶれた平民に任せて、安く仕上げた。そのまま庭師や土木業の職人に弟子入りする者がいて、雇用も生まれた。
だが、その結果を見に来るのは初めてだ。綺麗な場所で、市井の子供たちが親と一緒に遊んでいる。
水遊びにはまだ早い季節だが、石畳のない場所には花が植えられて、綺麗な公園のようだった。
「こんなに細やかな仕事を思いつく男は中々いない。君は外見を気にしているが、内面はこんなにも女性らしい。私は、君の外見……格好は男装でも女装でもいい。結婚式のウェディングドレスは見たいけれど、嫌なら今からでも二人で式典服を着よう。……キャロル、君の事となると私は抑えが効かない。本当に、君が好きでたまらないんだ」
コンラッド様の言葉に、私はただ彼の首に腕を回して頭を胸元に埋め、ごめんなさい、と泣いた。
彼は、そっちの趣味だ、と思われたから怒ったんじゃない。最初から、私を好き、と言っていたのに私が変に考えるから怒ったんだ。
でも、だから、コンラッド様。おねがいです、理由を教えてください。