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7 男装でサボる私

 検証の結果、丸一日の女装は無理だと分かった。主に爪先だが(マダムは足の形まで考慮して選んでくれてはいた)、あとは、脚がスースーするのと、座るのが下手すぎた。


 別に今までも脚を開いて座っていたわけではないのだが、爪先が外を向いてしまう。母上の指導のもと、椅子の脚に軽く引っ掛けるようにして足の甲を重ねると綺麗に見える、と言われたのだが、普段使わない筋肉を使う事を強いられている。


 本番のウェディングドレスは裾が長いものだろうし、そこまで徹底的に急ごしらえする必要もないだろう、と思って、私はお昼までの間を女装と化粧をして過ごし、昼食の後は化粧を落として男装に戻って過ごした。


 先払いで借金の返済と結納金が支払われ、我が家の食卓は少々グレードアップし、執事と侍女、料理人と、数人の使用人を雇った。借金の返済がなければ、うちにもこの位の余裕はあるのだ。


 そして、する事が減ってしまった。私はこの機会にダンスでも習ったらどうかと言われたが、女装での立居振る舞いですらへとへとに疲れる私に無理を言わないで欲しい。


 それに……結婚したら、私は公爵夫人だ。それも、『完璧な貴族』コンラッド・アダム宰相閣下の。


 もう男装ではいられなくなるのだと思うと、ウェディングドレスの由来を思い出す。


「これまでの私を捨て、真っ白な私で貴方に嫁ぎます、か……」


 息抜きに男装で公園に出てきた。今は誰も気にする人はいないし、私は脚を組んでベンチの一つに腰掛けている。


 手紙は、書いたら次の日には返事が来るので、毎晩その返事を認めて朝に伝令に持たせている。忙しいコンラッド様のどこにそんな時間がと思うのだが、こちらは暇をしているのだし、約束もしたし……そして意外と、文を交わすのは楽しかった。


 いつも話の主導権はあちらにあるが、手紙だと私も主導権を握れる。とはいえ、相変わらず謎な人だ。


 私の何がよかったのか、と、面と向かって聞けなくなってしまった。あの日、あの様に熱烈に抱きしめられては……、無理がある。


 手紙で尋ねる勇気が出ない。面と向かって尋ねる勇気も……もう無い。


 男装しているのがよかったとか、男らしい立ち居振る舞いがとか言われた日には、私は再度愛の無い政略結婚であり、素敵な男性をコンラッド様に見つけて差し上げなければと思う。


 そう思うと、なぜか、胸が軋む。手で胸元を押さえて俯いていると、キャロル! と、コンラッド様の声が聞こえた。


「え……?」


「大丈夫か?! 苦しいのか? 医者に診せた方が……」


「え、いえ、大丈夫です。貴方の、ことを……考えていたら……」


 目の前には立場も弁えずに息急き切って走ってきただろうコンラッド様がいて、頭が混乱した。


 まさか、会えると思っていなくて。


「貴方が、私の……見た目や振る舞いに惹かれたのなら、貴方には本当に愛すべき……男性が必要で、私は愛の無い政略結婚だと、割り切らねばならないと……」


 考えていて、とは言えなかった。


 私は言いながら泣いてしまっていて、コンラッド様は怒った様な顔で地面に膝を突き私の顔を両手で包んだからだ。


 涙を親指で拭われる。


「君は……私がどれだけ君に恋焦がれているか、まだ分からない様だね」


 その声は、底冷えがするほど冷たく、体の芯が燃える様に熱いという、ゾッとするような声だった。

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