5 はじめての採寸
まさか、人生で初めて着るドレスが、自分のためだけに用意されるウェディングドレスだなどと誰が思うだろう。
コンラッド様がお父様と書類の取り交わしを行っている間、私はコンラッド様が連れてきた最高級ブティックの店長兼デザイナーのマダム・フィルに、持ってこられた採寸用のドレスを着せられてあちこちを計られ、その姿のままドレスのデザイン案をその場でササッと描いては見せられ、違いがわからなかったので当日のヘアメイクも込みでお任せにした。
対応してくれたマダムは優しそうなおばあさまで、白髪の頭をキチンと結い上げ、細身で姿勢のいい方だ。
その方が苦笑いをしながら言っていた。
「ねぇ、結婚式は一生に一度なのよ? なのに、あなた、おまかせでいいの? こういうのが着てみたい、というの、少しは無い?」
私は真剣に心配されていること位は理解できたので、真剣に考えてみた。
実は、ドレスに憧れた事は無い。男装は仕方なくだが、先の父の言葉のように一着仕立てる位ならいつでもできた。
が、男装の方が圧倒的に楽。唯一の通いの使用人兼庭師のベック爺にコルセットを絞めてもらうわけにもいかないし、化粧品も持っていない。装飾品にも興味はない。
ただ、色の好みはある。
「金糸の……金糸の縫い取りがある服は、好きです。白に、金糸」
「あらあら、素敵な趣味じゃない。じゃあ、そういうドレスにしましょう。一式ね。それと……」
「はい」
「この靴と、ストッキング類、2着のワンピースはサービスだから、式までにハイヒールに慣れて頂戴ね」
「……」
ね? と更に念を押された。うかつだった。確かに、ウエディングドレスでブーツとはいくまい。
私は華奢なヒールのついた軽い靴を恐々持ち上げ眺めてみる。これ、折れないだろうか? 歩けるのか? 爪先死なないだろうか?
ワンピースも、だいたい私にあったサイズだが、靴はコンラッド様の見立てでいくつかサイズを用意してきてくれたらしい。そして、これが一番合っているサイズなのだとか。
私の思っていたよりは派手じゃないワンピースたちは、まだ家にいる間着るのにはいいかもしれない。外には出掛けられないが。
しばらくは家に引きこもって、ハイヒールの練習をしなければ。
「ねぇ、キャロルちゃん。今、一着着てみてくれない? お母さん、キャロルちゃんの女装が見たいわぁ」
付き添いに来て、ここまでにこにこ眺めていた母上が、突然そんな事を言い出した。
女装……いや、確かに女性の装いだからあっているのだが、私がワンピースを……着る……?
「…………」
「ほらねぇ? 今着ないと絶対着ないわよ、ほら、着ましょうね。あぁ、このパープル、落ち着いていて素敵ね。このワンピースにしましょう」
おっとりしている母上だが、これと決めたらなんやかや進めてしまうのも、母上だ。
マダムも手伝って、私は初めて、ちゃんとした女性物の服を着た。前は膝上、後ろは脹脛まで尾を引くようなスカートはゆるくウェーブがかかっていて、ハイヒールはやはり爪先立ちのようになって慣れない。姿見の中の私は、まるっきり女装した少年だ。
「あ、の、やはり私にドレスは……」
「今までは男装でかっこいい姿勢と立居振る舞いだったけど、今日から直していきましょうね。あと、毎朝私の部屋に来る事、お化粧にもなれないとね」
慣れることが多すぎる。それに、こんな似合わない格好、やっぱりやめて式典服2人で結婚式をした方がマシじゃないだろうか。
「とっても可愛いわ、キャロルちゃん。大丈夫、ちょっと直すだけよ」
「えぇ、似合っていますよ。ショートヘアが流行るかもしれませんねぇ」
母上とマダムの波状攻撃に、私は顔を赤くして佇むしかなかった。




